思惑
「殿下!」
議会での王位継承発言後の夜更け、疲れ果てた顔のグランが面会を求めて来た。
「殿下、この様な時分に申し訳ございません。ですが王位継承の件をなぜ事前にご相談下さらなかったのですか。私を信用できないと思われてるのですか!?」
私の退席後に議会が混乱し揉めたんだろうと思わせる位に窶れたグランがいつになく取り乱しまくし立てる。
「事前に何も話さなかったのは申し訳ないと思っています。ただ話しても私の意思は変わらないしグランの負担が増えるだけと思ったから言わなかっただけ。信用していないわけじゃない」
グランには散々世話になったのに何の相談もしなかったのは悪いと思う。
でも言う事は出来なかった。
「しかし王位継承を望まれるのであれば然るべき準備が必要となります。特に女王の前例はありませんし、あの様な一方的な宣言では承認が通る物でも通りません。場合に依っては今後の御立場も危うくなるかもしれません。しかも殿下は一度御命を狙われているのです。王位継承を宣言されるのであれば尚一層の警護が必要となります」
そう言って何をお考えになっているのか、とボソリと呟き額に手を当てる。
グランの狼狽振りに申し訳なくもあり、少し嬉しくもあった。
グランを動揺させる事が出来たのだからおそらく兄を陥れた犯人も少なからず動揺した事だろう。
グランには口が裂けても言えないけど『何を考えているのか』と問われれば特に何も考えてはいなかった。
力も時間も無い私に出来る事が王位継承宣言しかなかった。
それだけだった。
もちろん王座に就くつもりはない。
だから中立の立場のグランが王女擁立派だと思われる様な事は避けたかった。
今、裏では兄の私兵が動いている。
今まで兄を影で支えてきた優秀な子飼の兵だ。
優秀で冷静な兄は王宮が敵に回る可能性も想定し有事の際に動ける私兵を王宮の内外に忍ばせていた。
彼らは兄が捕らえられ自責の念に駆られている間も忠実に命令を待ち続けていた。
兄と面会を終えた後、幽閉され動けない兄に代わり指示を与える為に秘密裏に彼らに会った。
彼らなら結果を出すだろう、と確信はあった。
それでも何もせずにはいられなかった。
宣言で弟の即位を遅らせ、兄の無実を証明する為に少しでも時間稼ぎをしたかった。
権力を持っている犯人は議会の場に居たはずだ。
注意をこちらに惹き付け、焦った犯人が尻尾を出す可能性もある。
そう思って独断で宣言に踏み切った。
「殿下…?」
思いに耽っているとグランがオロオロとした顔でこちらを見ている。
強く言い過ぎたかと心配しているみたいだった。
「何でもありません。少し考え事をしていただけ。グランが心配してくれるのはありがたいけど大丈夫、ちゃんと考えてるから」
とサラッと嘘を吐く。
私は間違ってるのかもしれない。
私がこの国を乱す悪なのかもしれない。
ふとそんな考えが頭を過る。
第二王子が王になっても平和は保たれるのかもしれない。
でも心の中で何かが“ダメ”だと囁く。
以前の私ならこの声に耳を傾けなかったかもしれない。
私が望んでいたのは平凡で平和な人生だった。
不確かな感情だけで自分から危険に関わろうとはしなかった。
「サキが何処に行って何をするのか見届けたい」
この言葉を繰り返し思い出す。
何も持たない私を助け、王女だと明かしても変わらずにいてくれたライ。
打算があったのかもしれない。
それでも構わなかった。
私はこの言葉で自分が正しいと思う道を進もうと決めた。
今はただ自分で決めた道をただひたすら突き進むだけだ。




