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はじまり

暗い森の中をただただ走る。


もう自分が何処に向かって走っているのかもわからない。

だけど立ち止まるわけにはいかなかった。


『いたっ…!』

木の枝に長い髪が絡まり縺れる。


私は懐から短剣を取り出して絡まった髪を束ねた辺りで無造作に切り投げ捨てる。

自慢の長い髪をこうもあっさりと切る日が来るなんて。

髪も服も何度か転んだせいで土や泥にまみれている。

でも今はそんな事を気にしてなんかいられない。

とにかく走って逃げて生き延びなければー。



私の名前は土井咲樹(どいさき)、だった。

真面目なだけが取り柄のしがないOL。

ある日会社から帰ったところで昏倒し、そのまま死んでしまった。

そして何故かここユークレス王国の第一王女リラ・ルチル・ユークレスとして転生した。


転生モノはネットで読んだ事があったけどまさか自分が体験する事になるとは夢にも思わなかった。

ごく普通の平凡な私が。


私は王女ではあるけど聖女のように慈悲深くもないし、誰もが心を奪われるような美少女でもない。

もちろん魔法だって使えないし剣の達人でもない。

前世の記憶はあっても普通のOLだったから専門的な知識や技術は何も持ち合わせていなかった。

本当に特別な物は何もなかった。

きっと私は何かの間違いで生まれ変わったんだろう。


でもユークレス王国は豊かで平和な国だから私に特別な力が無くても何も問題なかった。

父は厳しいが良き王で国を愛し3人の子供達(わたしたち)も愛してくれた。

13年間(いままで)それなりに色んな事があったけどそれでも平和だった。


そして3ヶ月前王都から離れた学園に入学した。

前世(まえ)から人付き合いは大の苦手で親友はおろか友達もほとんどいなかった私に全寮制の学校は苦痛だったけど何の取り柄もない王女(わたし)は嫌とは言えなかった。

そして卒業後は誰かの元に嫁ぎ、幸せではないかもしれないけどそれでも平和な一生を終えるんだろうと思っていた。


なのにー。




体力はとうに限界を超えていて、朦朧としながらもそんな事を考えながら走っていると踏みしめた右足がぐっと掬われ身体が宙に浮いた。


『しまった…!!』


思わず悲鳴を上げそうになった口を両手で塞ぎ必死に堪える。

奴らかと思ったが人が来る気配はない。


獣罠かー。

罠が食い込み痛む身体で考える。

この罠が奴らのではないにせよ窮地な事には変わりない。


このままでは奴らに見つかり殺されるか、獣に喰われるか、もし誰も来なくても待っているのは“死”のみだ。


背筋がヒュッと冷たくなる。

右足の罠を必死に外そうとするけど外れないし頑丈に作られた罠は短剣では切り落とせない。

汗が頬を伝い地面に滴り落ちる。

私は手を止めて握り締めた短剣をじっと見つめる。


『奴らや獣に殺される位ならいっそこの短剣でー』


目を瞑り震える手で短剣を首元へ当て力を込めると鋭い痛みが走りじわっと血が滲み出した。


「殿下。約束して下さい。何があっても例えひとりきりになっても絶対に生きて王都に戻ると。」

目を潤ませ懇願するアリアの顔が瞼に浮かんだ。

アリアー。


『……まだ諦めない…!!』


閉じた目を開き短剣を首元から外す。

諦めるつもりは無いけど力はもうほとんど残っていない。

短剣を取り落とさないように布で手と剣をきつく結びぎゅっと握りしめる。


暫く闇に目を凝らし、耳を澄ましていたが汗で濡れた服が身体を徐々に冷やし震えだす。

「寒い…」

手で身体を包み擦るが震えは止まらない。

罠の食い込む右足と首の傷だけが熱い。


遠くで獣の嘶く声がするが瞼が重くなり意識が薄れて行く。


『ダメだ。目を閉じるな。アリアと約束した。必ず生きて戻るとー。』


そう思いながら私は意識を失った。

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