ラスボス
リーゼロッテには前線の維持と共に、魔王の所在を探し出すよう命じておいたのだ、そして発見したのがよりによって首都だった。
南門に転移すると門と壁が大きく崩落していた、既に街へ侵入しているのだろう。
「ターゲットは勇者と聖女ね」
「魔王ならば街ごと吹き飛ばせば済む話なのでは?」
「それだと生死の確認ができないわ、それに街には第一聖女様が居るのよ、街が消し飛んだとしても勇者と聖女に傷ひとつ負わせられるわけがない、探し出して確実に仕留める気だわ」
「まあ確かにそうですね」
「リーゼロッテ、魔王の位置はわかる?」
「はい、魔王の現在位置はここから2キロメートル先、街の中心に向かって侵攻中です」
「魔王はどれぐらいの戦力を投入しているの?」
「魔王は単独ですね」
「かなりの自信家なのね」
「実際強いですし」
そう魔王は強すぎるのだ、だから重要な場面で他人をアテにしない、信じられるのは自分の強さだけなのだろう。
「それよりご主人様、ここで立ち話をしてる時間無いんじゃないですか? 追いかけましょう」
「追う必要は無いわよ」
そう言いながら私は変身する。
赤外線の遠視により2キロ先まで建物を透過して生物の有無を確認した、その結果人間も動物もいない事は確認済みである。
私はアイテムボックスから魔剣を取り出すと構えた。
「魔剣レーヴァテイン起動」
「スルトの炎を解放」
「ご主人様もしかして建物ごと……」
「罪人を焼き払え! 審判の日!!」
爆音と共に音速の衝撃波と炎が駆け抜けた。
一直線に建物は粉々に吹き飛び、超高温の熱波によって焼かれ、抉られた地面は一部融解していた。
パラパラと建物の破片が落ちてくる。
「魔王へ直撃を確認しました。ついでに建物が2キロ先まで粉々に消し飛びましたけど」
とリーゼロッテが状況報告をする。
「おのれ魔王め、魔王のせいでこんな被害が」
「現実逃避しないでください」
「仕方ないわ、こっちの方が早いし」
「何が早いんです?」
「私達が魔王追いかけるより、魔王に来てもらった方が早いでしょ?」
「ああ、そう言う……」
「そろそろ来る頃ね」
次の瞬間、私は魔王の拳を剣で受け止め、地面を削りながらノックバックする。
「おのれ小娘、よくもやってくれたなぁ」
「どう? 痛かったかしら?」
2キロを1分で走り抜けるなんて私の倍の機動力だ、さすが魔王。
今の攻撃で勇者と聖女から魔王の注意をそらして攻撃対象を私にしたのだ、いわゆるタゲを取ったと言う状態、建物を代償にしたけどね。
「ご主人様大丈夫ですか?」
リーゼロッテの声に魔王が反応した。
「リーゼロッテ・ドロッセルか、お前も人間に味方するとは落ちぶれたものだな」
「ガルツ・ヒュベインタール、あんたとは一度会って殺されているから、ここで仇を取らせてもらうわ」
(自分の敵討ちと言うのも変な感覚ね、それにリーゼロッテと魔王は面識があるみたい、そう言えば二人とも真祖の吸血鬼だっけ)
「ご主人様から離れなさい!!」
リーゼロッテはそう言うと時間を止めて背後から魔王に攻撃をしかける。
「無駄だ時間を止めても動けるのは、お前も知っているだろう」
魔王は振り向きざまにリーゼロッテの拳を片手で受け止めた。
その時、魔王の首が宙を舞う。
「なっ!!」
後ろを向いてリーゼロッテの攻撃を受け止めていた魔王の首を、私が魔剣で刎ねたからだ。
空中で私と視線が合う、魔王の頭は驚きの表情を浮かべていた。
やがてドサリと頭が地面に落ちるとコロコロと転がった。
「ご主人様!!」
「わかってる」
「スルトの炎を解放」
その時、首の無い魔王の体が回し蹴りを放った、私は剣でガードしたが、ガードごと吹き飛ばされてしまう。
リーゼロテもほぼ同時に攻撃を食らって地面にめり込んだ。
魔王の体と首が無数のコウモリに変化して1ヶ所に集まり、再び人の姿を現した時は魔王の体と首は繋がっていた。
「やっぱり死なないわね」
予想通りの結果だった。
さてどうしたものか、魔剣の固有攻撃の直撃でも死なないし、首を刎ねても死なない、『完全なる不老不死』は本当に厄介だ。