魔剣
「お姉さんを信じてみる。ボクは魔王に味方するのをやめるよ」
「本当? 良かった」
「ただお姉さんの味方もしない、この国が亡びるならばそれが罰なんだ、ボクは行く末を見守るだけさ」
「ベルタちゃんが敵にならないだけでも有難いわ」
「ちゃん? やめてよ慣れないから、呼び捨てで良いって言ってるのに」
「わかったわベルタ」
私は彼女の拘束具を外した。
「解放してくるの?」
「もう敵じゃないんでしょ」
「そうだけど…… あっさり信用しすぎじゃない?」
「いいのよ、ところでベルタはこれからどうするの?」
「どうって?」
「ずっと森に居たんでしょ、お家も無いなんて可哀相だし」
「行くアテは無いけどね、住み込みで働ける場所でも探すさ」
エヴァがベルタの所まで歩いていくとポンと肩に手を当てた。
「ねぇ君、私の元で働いてみない? 教会で面倒を見るわよ」
「教会で? 神様とか信じてないんだけど」
「別に構わないわよ、貴女の精神汚染を治療する事も私の元においておきたい理由のひとつだけど」
「治るんだ」
「ええ、祝福された食事を続ければ完全に治癒するわ、もうひとつの理由は貴女の能力が欲しい」
「能力?」
「勇者を凌駕する剣技、教会の暗部に最適だと思うの」
「暗部って何するの?」
「私の護衛とか、魔人の討伐とかになるわね、あとは…… 暗殺とかもたまにやるわよ」
「エヴァ!」
そこで私が割り込む、さすがにこの娘に暗殺とかやらせるわけには行かない。
「そうね、暗殺のターゲットは領民を皆殺しにするような領主って言えばわかるかしら?」
「やります!!」
即答だった。
(これは止めても無駄よね)
私はため息をつく。
「わかったわ、本人に意思を尊重しましょう、ベルタはエヴァに任せます」
「これで決まりね」
エヴァは声のトーンを落として私に囁く。
「安心して、この件以外に暗殺には関わらせないから」
「領主が誰だかわかっているの?」
「ええ偶然、暗部組織のターゲットになっていただけなんだけどね」
「ターゲットの情報は正確なの?」
「村を焼き払った兵士のひとりが懺悔室ですべてを語ったわ」
教会は被害者の訴えや、犯罪に加担した者の告白によって巨悪を把握しているとの事だった。
神に全てを話しなさいと言うと意外と話してくれるらしい、現代で言うカウンセリングもやっている。
「教会の暗部組織って暗殺までやってるのね」
「悪が蔓延ると神を信じられなくなるわ、法で裁けない悪にも神罰が下る必要があるのよ」
「ねぇお姉さん」
ベルタが私に話しかけて来た。
「これあげる」
と私に魔剣を渡してきた。
「え?」
「これから先を考えると広域を焼野原にする魔剣は扱いにくいと思う、アサシンになるんだったらもっと適した武器を探すよ」
「私剣士じゃないから起動できないわ」
「魔剣は魔力だけで起動できるから大丈夫だよ」
「そうなの?」
「うん」
私はベルタから魔剣を受け取った。
「えーと、こうだっけ?」
魔剣に魔力を流してみる。
『魔剣へのアクセスを確認しました、所有者の適合チェックを実施』
「は?」
『チェック完了、適合者と確認されました』
「何?コレ」
「その魔剣は知的魔道具で頭の中に取り扱い方法がアナウンスされるんだよ、ボクの場合は登録者死亡による新規登録だったけどね」
『登録者抹消済み、新規登録を行いますか?』
「はい」
『お名前をどうぞ』
「私はエリス・バリスタです」
『生体パターン登録完了、管理者権限はエリス・バリスタに与えられました』
『起動テストを行いますか?』
「はい」
私は鞘から剣を抜いて構える。
「魔剣レーヴァテイン起動」
黒い剣がブラックライトのように光り出した。
『起動を確認しました、同調率99.99%』
「本当に起動できちゃった、同調率99%ってこれは普通なの?」
「お姉さんすごいね。ボクでさえ60%前後なのに」
ギルベルトが聖剣の能力を引き出せるのは半分ぐらいだから、この娘は伝承の武器の扱いでも更に上を行ってる、勇者としてトップクラスの実力者と言うわけだ。
「じゃあちょっと試運転に行ってきます」
「マスター私もお供します」
敵の軍勢を押し返しているとは言え、攻め込まれている真っ最中なのだ、私とキャサリンは剣を手に取って走り出す。
とりあえず剣の固有能力とかは、走りながら剣と対話して確認済みだ。
とりあえずここら辺でいいかな、私とキャサリンは2人で立ち止まる。
「あっそっかキャサリン見えないんだね、ちょっと待ってて」
私は夜でも見えるがキャサリンは明かりが必要なのだ。
「思考加速、並列処理、多重詠唱」
「ファイアーボール」
上空数百メートルの位置に30個の火の玉が出現した。
1個が家1軒分ぐらいの大きさがある。
「射出」
巨大な火の玉は放射状に拡散して、敵の集団の中に次々と落下して火柱を上げた。
勿論、火柱の周辺を全て灰にして火の海となっている。
「少し魔力を込めたから2時間ぐらいは火柱は消えないわ」
「随分スケールの大きいかがり火ですね」
「落下地点は、ほぼ壊滅ね」
火柱が消えないと言う事は温度が上昇し続けると言う事だ。
私達も近寄らない方が良い、距離を取ったつもりでも高熱の空気を吸い込んで肺が焼かれる危険性がある。
30本の巨大な火柱によって昼のように明るくなり、キャサリンでも敵を視認できるようになった。
「さて、お仕事しなくちゃ」
私は魔剣を構えた。
「魔剣レーヴァテイン起動」
「スルトの炎を解放」
「罪人を焼き払え! 審判の日」
炎と爆風が吹き荒れた、指向性を持った爆弾と言った方が良いかも知れない。
目の前の敵は衝撃波により音速で吹き飛ばされてバラバラになり、超高温の熱波によって焼かれた。
Qちゃんの観測では私の正面2キロメート先まで届いている。
衝撃波が通り抜けた左右それぞれ数百メートルは熱波と爆風により壊滅状態だ。
つまり数百メートルの幅で直線2キロメートルを灰にする技だった。
ちなみに本気を出していない、全力でやったら10キロメートルぐらい先まで届くんじゃないだろうか。
ベルタが言っていた言葉を思い出した。
「確かに使いづらいわね」
手加減してこれなので使い所が限られそうだ。
その時である。
「ご主人様!! 首都ダイセンに戻ってください!!」
リーゼロッテだった。
「どうしたの?」
「魔王がダイセンに現れました」
「そんな……」
「マスター、前線は私に任せて行って下さい!」
「わかったわ、気を付けて」
そう言うと私とリーゼロッテは転移した。