ベルタ
電光石火のごとくキャサリンに襲いかかったが、キャサリンはしっかりと剣で受け止めていた。
「お姉さんなかなか良い反応をするね、そうでなくっちゃ面白く無い」
「人間と言うならば何故、魔王に味方する」
鍔迫り合いをしながらキャサリンが問い質す。
「お姉さんが勝ったら教えてあげるよ」
少年が蹴りを放つとキャサリンは後方へ飛び退いて躱した、少年は更に踏み込んで黒い剣で追撃を入れる。
流れるような連撃だった、洗練されていて無駄が無い、それだけでこの少年はかなり強いと確信した。
幾度となく切り結んだ後、お互いに距離を取って対峙する。
その時である。
「禁域」
エヴァの詠唱と共に少年が結界に捕らわれた。
だが魔剣の一振りで結界は霧散して消えてしまう。
「嘘…そんな……」
エヴァは信じられないと言う表情で呟いた。
「手出し無用です!」
キャサリンが私達に向かって制止する。
「お互い人間の剣士である以上、剣で決着をつけるのが道理と言うもの」
「さすがお姉さん、話がわかるね」
「闘ってわかった事があります」
「何かな?」
「貴方、天才ですね」
「急に何を……」
「私はギルベルト殿と模擬戦をやった事があります」
「勇者ギルベルト・シュタイアートでしょ、知ってるよ」
「貴方の剣技は彼を超えている」
「へー、じゃあ戦ったらボクが勝つんだね」
「だから貴方をここで倒します」
キャサリンはそう言うと剣を鞘に納め、剣の柄に手をかけて腰を低く落としやや前傾姿勢になる。
あれは神速抜刀の構えだ、縮地の多重詠唱による超スピードの抜刀術である。
およそ、その動作で少年も察したらしい。
「お姉さん次で決めるつもりだね、じゃあボクも」
少年も剣も構えると身動ぎひとつしなくなった。
緊張した空気の中、時間だけが過ぎていく。
「神速抜刀!!」
静寂を破ったのはキャサリンだった。
くるくると剣が宙を舞い、キャサリンの剣が地面に突き刺さる。
剣を弾かれたのはキャサリンの方だった。
「どうして……」
と少年が呟く。
黒い剣がキャサリンの首筋でピタリと止まっている。
それは『私』が2人の間に割って入り、黒い剣の刃を掴んでいたからだ、そうしなければキャサリンの首は飛んでいたはず。
「君、今時間を止めたでしょ、悪いけどキャサリンを死なせるわけにはいかない」
「どうして…お前は動ける!!」
「全部見えていたからね、助けなきゃと思ったら動く事ができたわ」
キャサリンが抜刀してから時間が停止して、一部始終を私は見ていた。
少年はキャサリンの剣を上に跳ね上げ、首を刎ねるため剣を横なぎにしようとした所に私が割って入り、剣を素手で掴んだのだ。
「だったら」
少年は後方に大きく跳躍して距離を取る。
「魔剣レーヴァテイン解放、真の力を示せ」
少年の黒い剣がブラックライトのように紫色に輝きはじめる。
「逃げてくださいマスター、彼は魔剣の力でベースキャンプごと吹き飛ばすつもりです」
とキャサリンが私に向かって叫んだ。
「心配無いわキャサリン、いつの時代だって『勇者』を倒すのは私だって決まってるから」
少年が剣を振りかざして叫ぶ。
「みんな消し飛べ!!」
次の瞬間、少年の甲冑は腹部の部分が砕け散ちり、私の拳がめり込んでいた。
「そ…… そんな…… 連続して時間停止なんて」
「私ってクールタイム無いみたい、あったらアイテムボックスが使い物にならないじゃない」
「意味が…… わからな……」
少年は意識を失い、地面にそのまま崩れ落ちた。
少年は甲冑と魔剣を取り上げられ、手足を拘束されたまま椅子に座っている。
「話を聞かせて頂戴、まずは貴方のお名前から」
「名前はベルタ・カレンベルク 」
私の問いかけに対して、少し不貞腐れたように答える。
「じゃあベルタ君」
「君? 気持ち悪いから呼び捨てでいい」
「ベルタはどうして魔王側に味方するの?」
「人間が憎いから」
「どうして?」
「私の村で流行り病が流行った時、領主に医師を派遣するよう村から使者を出したけど、送られて来たのは兵士だった、兵士は村を焼き払い村人全員を皆殺しにした」
「そんな話は聞いた事が無……」
「生きたまま焼かれた人も居たんだぞ!」
「そんな領主が居たら国から罰せられるハズだけど」
「ちゃんと国に訴えたさ、でも皆領主の話ばかり信じてボクの話は信じてはくれなかった。結局、野盗に襲われて村は全滅した事になったよ」
その話で思い当たる事があった。
「トリネシマ村の惨劇ね」
10年前、野盗に襲われて村人全員が惨殺されたと言う痛ましい事件だった。
この子の話が本当だとすると領主の狂言と言う事になる。
「ボクはたった一人の生き残りだから、命を狙われて追われる事になった、犯罪者として手配書が貼られ、どこにも逃げ場なんてなくなっていた」
「だから死ぬつもりで迷いの森へ足を踏み入れたんだ、三日三晩歩き続けて森の奥深く、誰にも知られずに息を引き取るハズだった、けど、そこで黒い甲冑を纏った白骨死体と魔剣を見つけたのさ」
「復讐するための力を手にしたボクは、魔物を狩って剣技を鍛え、魔物を食べて生き延びたんだ」
瘴気の濃い魔物を食べると精神汚染が引き起こされる事がある、たぶんこの子も相当汚染が進んでいるのだろう。
「ねぇベルタ、私君の力になれると思うよ」
「どう言う事?」
「私は第二聖女、国王様と直接お話できる立場なの、だからトリネシマ村の事については私に任せてくれないかな」
「本当に?」
「ええ必ず領主を罰すると約束するわ」
ベルタはそれでも半信半疑だった、ずっと長い間、誰からも信用されず犯罪者として迫害されたのだ、いきなり人を信じられないのも無理も無い。
私は少年の元へ行きそっと抱きしめる。
「お願い、私を信じて」
「ああ…… 母さんに抱かれているみたい、君なら信じられる気がする……」
ムギュ。
「え?」
今ムギュってなったよね? なんかベルタの胸のあたりに弾力が感じられる。
「ねぇベルタ気を悪くしたら御免なさい、君って女の子?」
「そうだよ」
まさかのボーイッシュなボクっ娘だった。