表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/46

ベルタ

電光石火のごとくキャサリンに襲いかかったが、キャサリンはしっかりと剣で受け止めていた。


「お姉さんなかなか良い反応をするね、そうでなくっちゃ面白く無い」

「人間と言うならば何故、魔王に味方する」


鍔迫(つばぜ)り合いをしながらキャサリンが問い(ただ)す。


「お姉さんが勝ったら教えてあげるよ」


少年が蹴りを放つとキャサリンは後方へ飛び退()いて(かわ)した、少年は更に踏み込んで黒い剣で追撃を入れる。


流れるような連撃だった、洗練されていて無駄が無い、それだけでこの少年はかなり強いと確信した。


幾度(いくど)となく切り結んだ後、お互いに距離を取って対峙する。


その時である。


禁域(クラウズーラ)


エヴァの詠唱と共に少年が結界に捕らわれた。


だが魔剣の一振りで結界は霧散して消えてしまう。


「嘘…そんな……」


エヴァは信じられないと言う表情で呟いた。


「手出し無用です!」


キャサリンが私達に向かって制止する。


「お互い人間の剣士である以上、剣で決着をつけるのが道理と言うもの」

「さすがお姉さん、話がわかるね」


「闘ってわかった事があります」

「何かな?」


「貴方、天才ですね」

「急に何を……」


「私はギルベルト殿と模擬戦をやった事があります」

「勇者ギルベルト・シュタイアートでしょ、知ってるよ」


「貴方の剣技は彼を超えている」

「へー、じゃあ戦ったらボクが勝つんだね」


「だから貴方をここで倒します」


キャサリンはそう言うと剣を(さや)に納め、剣の()に手をかけて腰を低く落としやや前傾姿勢になる。


あれは神速抜刀の構えだ、縮地の多重詠唱による超スピードの抜刀術である。


およそ、その動作で少年も察したらしい。


「お姉さん次で決めるつもりだね、じゃあボクも」


少年も剣も構えると身動(みじろ)ぎひとつしなくなった。


緊張した空気の中、時間だけが過ぎていく。


「神速抜刀!!」


静寂を破ったのはキャサリンだった。






くるくると剣が宙を舞い、キャサリンの剣が地面に突き刺さる。


剣を弾かれたのはキャサリンの方だった。


「どうして……」


と少年が呟く。


黒い剣がキャサリンの首筋でピタリと止まっている。


それは『私』が2人の間に割って入り、黒い剣の刃を(つか)んでいたからだ、そうしなければキャサリンの首は飛んでいたはず。


「君、今時間を止めたでしょ、悪いけどキャサリンを死なせるわけにはいかない」

「どうして…お前は動ける!!」


「全部見えていたからね、助けなきゃと思ったら動く事ができたわ」


キャサリンが抜刀してから時間が停止して、一部始終を私は見ていた。


少年はキャサリンの剣を上に跳ね上げ、首を()ねるため剣を横なぎにしようとした所に私が割って入り、剣を素手で(つか)んだのだ。


「だったら」


少年は後方に大きく跳躍して距離を取る。


「魔剣レーヴァテイン解放、真の力を示せ」


少年の黒い剣がブラックライトのように紫色に輝きはじめる。


「逃げてくださいマスター、彼は魔剣の力でベースキャンプごと吹き飛ばすつもりです」


とキャサリンが私に向かって叫んだ。


「心配無いわキャサリン、いつの時代だって『勇者』を倒すのは(悪役)だって決まってるから」


少年が剣を振りかざして叫ぶ。


「みんな消し飛べ!!」


次の瞬間、少年の甲冑は腹部の部分が砕け散ちり、私の拳がめり込んでいた。


「そ…… そんな…… 連続して時間停止なんて」


「私ってクールタイム無いみたい、あったらアイテムボックスが使い物にならないじゃない」


「意味が…… わからな……」


少年は意識を失い、地面にそのまま崩れ落ちた。





少年は甲冑と魔剣を取り上げられ、手足を拘束されたまま椅子に座っている。


「話を聞かせて頂戴、まずは貴方のお名前から」


「名前はベルタ・カレンベルク 」


私の問いかけに対して、少し不貞腐(ふてくさ)れたように答える。


「じゃあベルタ君」

「君? 気持ち悪いから呼び捨てでいい」


「ベルタはどうして魔王側に味方するの?」

「人間が憎いから」


「どうして?」

「私の村で流行り病が流行った時、領主に医師を派遣するよう村から使者を出したけど、送られて来たのは兵士だった、兵士は村を焼き払い村人全員を皆殺しにした」


「そんな話は聞いた事が無……」

「生きたまま焼かれた人も居たんだぞ!」


「そんな領主が居たら国から罰せられるハズだけど」

「ちゃんと国に訴えたさ、でも皆領主の話ばかり信じてボクの話は信じてはくれなかった。結局、野盗に襲われて村は全滅した事になったよ」


その話で思い当たる事があった。


「トリネシマ村の惨劇ね」


10年前、野盗に襲われて村人全員が惨殺されたと言う痛ましい事件だった。


この子の話が本当だとすると領主の狂言と言う事になる。


「ボクはたった一人の生き残りだから、命を狙われて追われる事になった、犯罪者として手配書が貼られ、どこにも逃げ場なんてなくなっていた」


「だから死ぬつもりで迷いの森へ足を踏み入れたんだ、三日三晩歩き続けて森の奥深く、誰にも知られずに息を引き取るハズだった、けど、そこで黒い甲冑を纏った白骨死体と魔剣を見つけたのさ」


「復讐するための力を手にしたボクは、魔物を狩って剣技を鍛え、魔物を食べて生き延びたんだ」


瘴気(しょうき)の濃い魔物を食べると精神汚染が引き起こされる事がある、たぶんこの子も相当汚染が進んでいるのだろう。


「ねぇベルタ、私君の力になれると思うよ」

「どう言う事?」


「私は第二聖女、国王様と直接お話できる立場なの、だからトリネシマ村の事については私に任せてくれないかな」

「本当に?」


「ええ必ず領主を罰すると約束するわ」


ベルタはそれでも半信半疑だった、ずっと長い間、誰からも信用されず犯罪者として迫害されたのだ、いきなり人を信じられないのも無理も無い。


私は少年の元へ行きそっと抱きしめる。


「お願い、私を信じて」

「ああ…… 母さんに抱かれているみたい、君なら信じられる気がする……」


ムギュ。


「え?」


今ムギュってなったよね? なんかベルタの胸のあたりに弾力が感じられる。


「ねぇベルタ気を悪くしたら御免なさい、君って女の子?」

「そうだよ」


まさかのボーイッシュなボクっ娘だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ