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真実

夜間の哨戒はリーゼロッテとファドセルに任せてある。


あの娘達は魔力さえあれば睡眠は不要だと言っていた、睡眠は単に魔力の消費を抑えるための目的だと言う。


二人は潤沢な魔力があるので年単位で起きていられるとか、便利だよね。


私は専用のテントに戻るとエヴァを招き入れる。


「おいでおいで」


エヴァはやや警戒しつつ、テントの中に入って来た。


ここのテントは支柱が1本で天井が高く、とんがり帽子のような構造だ、俗に言うワンポールテントと言う奴だった。


支柱にランタンがぶら下がっており、それなりに明るい。


「今日はここに二人で寝まーす」


予備の寝袋(シュラフ)を貰って来たので二人ピッタリくっついて寝る形になる。


「貴女と同じテントで寝るの?」


エヴァは不満そうだ。


「別々だったら監視にならないでしょ? いつも二人は一緒よ」

「それもそうなんだけど…… そもそも貴女睡眠が必要なの?」


「私、人間だけど」

「え?」


私はエヴァにこれまでの経緯を話した、リーゼロッテとファドセルの血を取り込んだが、ベースは人間のままだと。


「半人半魔と言った所ね、それでも魔人の力が使えるから討伐対象にはなるわ」


話を聞いたエヴァの見解である。


「あと私の前で変身したら殺すから」


エヴァに釘をさされた、どうも魔人の特徴を持つ容姿は苦手らしい。


私は聖女の服を脱いで就寝用の服に着替えている。


「ねぇエヴァちゃん、貴女着替えないの?」


エヴァは白い法衣を身につけている、金の刺繍がはいっており、ひと目で最高級だとわかる代物である。


値段も防御力も聖女の服と同等かそれ以上だろう。


炎も刃物も通さない、魔法も弾く不思議な服なのだ。


「鎧を脱ぎ捨てろと言っているようなものなんだけど……」

「襲ったりしないから大丈夫よ」


私は後ろからエヴァに抱きついた。


「現在進行形で襲われてるんですが」

「服を脱がすの手伝ってあげようか?」


と私は彼女の耳元で(ささや)く。


「自分で出来ます!」


彼女は教会から持ってきた服に急いで着替えると、ブカブカの大きなシャツにカボチャパンツと言う姿になっていた。


(わぁー子供っぽい)


声に出して言うと怒られそうなので感想は心の中にしまっておく。


「ねぇエヴァちゃん、私、妹が居るのよ」

「避難して離れ離れなの?」


「ええ、第二都市ゴルシに避難してるわ」


首都の人口をそのまま受け入れ可能な都市は無い、いくつかの都市に分散して受け入れている。


第二都市ゴルシは王族や身分の高い貴族の避難先となっていた、国王陛下とエヴァの影武者もここに居る。


「エヴァちゃんを見ていたら妹を思い出しちゃって」

「私が小さいからって……」


「あら愛らしくて素敵だと思うわ」

「エリスに言われても別に嬉しくないわ」


「エリスって呼んでくれるようになったのね」

「人前で教皇って呼ばれないためよ、単に取り決めを守っているだけ」


「それでも嬉しい」


エヴァとの関係が一歩前進したように思う。


「ねえ、エヴァちゃん」

「何?」


「貴女の結界は魔王に効くからしら」

「エリスが結界を破る事ができたのに、魔王が結界を破れないと思うの?」


「それもそうなんだけど」


おそらく魔王なら私より早く結界を破る事ができる。


「エリスが結界を破った事で、教会側も魔王討伐の計画に色々修正を加えている所よ」


教会側はエヴァの結界で魔王の討伐が可能と踏んでいたのだろう。


だが結界が破られるとなると討伐自体が怪しくなる、少しでも勝率を上げるため私の休戦協定に乗って来たのだ。


「つまり私が結界を破ったせいで、私の提案した休戦協定に応じなければならなくなったと」

「そう言う事」


「もし私が魔王に負けて死んじゃったら、後はエヴァちゃんにお願いするわ」

「言われなくても…… 双方が戦って衰弱した方を討つと言うのが教会の方針ですもの、貴女達の戦いは私が見届けるわ」


「どこまでやれるかわからないけど、頑張るね」

「教会側は魔王の勝利は間違いないと見ています、だからエリス、教会の持っている魔王の情報は全て貴女に提供します」


「いいの?」

「ええ、それが教会にとって利益になるとの判断ですから、必要な支援もあれば実施しますので」


「随分と思い切った決断をしたのね」

「それだけ魔王は脅威だと言う事なのよ」


事実上、教会側が全面的にバックアップしてくれると言う事だ。

敵の敵は味方理論である。


「そろそろ休みましょうか」

「そうね」


私達はランタンの灯を消すと、横になった。




ふと気がつくとエヴァはクローゼットの中に居た。


「またこの『悪夢』なのね」


人生でくり返し見た悪夢、両親が魔人に殺されるシーンだ。


エヴァは動く事も、声を上げる事もできず、クローゼットの隙間から両親の死をみせつけられるだけの悪夢だった。


「しっかり過去と向き合いなさい」


その時、聞いた事のある声がした、その声の主はリリスである。


「貴女がこの悪夢を見せているってわけね、リリス、悪趣味にも程があるわ」


さすが夢魔である、こんな嫌がらせもできるのかとエヴァがそう思った時。


「嫌がらせなんかじゃないわ、ただ、真実に気付いて欲しいだけ」

「真実?」


「見ていればわかるわ」

「嫌よ! 見たくないわ」


これから両親が死ぬのだ、そんなシーンを見ろと言うのか。


「リリス!今すぐこの悪夢から解放しなさい」


両親に2人の魔人がショートソードで斬りかかり、エヴァの両親は床に崩れ落ちる。


エヴァは悲鳴を上げるが、夢の中では声にならない、涙がポロポロとこぼれた。


「もういいでしょう……早く解放して……お願い」

「しかりしなさい、逃げちゃだめ、貴女の記憶の中に真実があるのよ」


「真実?」

「魔人の特徴で見落としている所は無いかしら?」


そう言われてエヴァは魔人の姿をぼんやりと見つめる。


銀色の髪に赤い目……


「!?」


ふと違和感に気付いた、銀色の髪をしているが目が赤く無い。


「気付いたのね」

「どう言う事?」


「そう、髪を染めた人間よ、魔人に責任をなすりつけるための偽装、本当は人間の強盗だったのよ」

「そんな……じゃあ私は」


「目撃者として生かされていた」

「そんな」


「他にも不自然な特徴があるのよ、金貨を奪っているけど魔人は宝石に興味を示しても金貨には興味が無い」

「じゃあ父と母を殺したのは魔人ではなくて、人間……だった……」


「そうなるわね」


リリスがパチンと指を鳴らすと、エヴァは奇麗なお花畑に座り込んでいた。


正面に両親が立っていた。


「エヴァこっちへおいで」


両親が手招きしている。


両親と過ごした楽しいワンシーン、エヴァはポロポロと涙をこぼした。


「疲れたでしょう無理をさせすぎたわ、少し休みなさい」


とリリスはそう言った。


「貴女の悪夢は書き替えたわ、これからは楽しい夢を見るのよ」


エヴァが気がつくと既に朝になっていた。


「いつの間に……リリスの奴め……」


それでも悪い気はしない、むしろ清々しい気分だ。


隣を見るとエリスは居ない、もう起きているのだろう。


テントを出ると、すぐそこにエリスが立っていた。


「あっエヴァちゃん、おはよう!」


元気良くエリスが挨拶をする。


「おはようございます」


「エヴァちゃんは寝不足かな?」

「むしろエリスはなんで朝からそんなにテンション高いの」


「元気だけが取り柄よ」


そう言ってエリスは笑った。


「ねぇエリス」

「何かしら?」


「変身してみせて」

「えっ…… 何を突然言い出すかと思えば、何かあったの?」


「いいから」

「わかったわ、私の姿を見ても泣きださないでね」


エリスは肩をすくめて言われた通り変身をする。


エヴァはその光景じっと見つめている。


朝日が銀色の髪の毛に反射してキラキラと輝いてる。

エリスの赤い目はまるで宝石のようだった。


「奇麗……」


エヴァはその姿にずっと魅了されていた。

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