教会
「思考加速、並列処理」
本当は言葉にしなくてもできるのだが、私は言葉に出した方がやりやすいのでこうしている。
「雷光神槍!」
頭上に雷を纏った光の槍が出現した、その数およそ30。
人間の限界を軽く超える多重詠唱である。
「射出」
光の槍は一斉に上空へと消えて行った。
雷光神槍1つでキロメートル単位を焼き払える威力があるのだがそれを同時に30本飛ばしている。
その様子を興味深そうにクラウディアが見ている。
「キャサリンはとんでもないと思っておったが、お主も大概よの」
「そうですか?」
「それで30回目じゃろ」
「そうですけど」
30回目、つまり合計で900本飛ばしているのだ。
私がQちゃんからの映像を確認すると、焼野原になった映像が確認できた。
さすが極超音速、着弾までが早い。
およそQちゃんの視界に映る軍幕は全て焼き払っている、兵站や指揮官と言った重要設備や要人がここにいるよと言う目印にしている。
「お主も面白い戦い方をするのう」
(現代では当たり前なんだけどね)
私にはミサイルと言う知識がある、そしてミサイルが狙う目標は戦車や兵士ではなく設備だ。
私はそれを魔法で再現しているだけだった。
「これで少しは進軍速度が落ちてくれれば良いのですが」
「既に大陸を横断できるぐらいの距離焼き払っておるじゃろ」
900本射出したので、直線に換算すると900キロメートルは焼き払っている計算になる。
「敵は前線から敗走、本陣は壊滅的な打撃を受け混乱しておる、立て直すのにも数日かかると見ておるのじゃが」
「よかった」
私は、ほっと胸をなでおろす、少し時間に余裕ができたようだ。
安心した私は変身を解いた、銀髪から薄い紫色の髪に変化し、いつもの私に戻る。
「しかし不思議な現象じゃのう」
「変身がですか?」
「うむ」
「あれは本人も良くわかっていないので」
「聖女がその姿に変身する事を知ったら教皇は卒倒するじゃろうな」
銀髪に赤目は、魔族の特徴であり忌むべき姿だ。
「そうでしょうね」
教会側は私達を快く思っていない。現在でもリーゼロッテやファドセルを討伐対象として見ている。
教会の聖職者は魔人や吸血鬼と相容れない関係なのだ。
「そろそろ日没じゃな、食事をとったら今日は休むが良い」
「わかりました、それでは失礼させていただきます」
私はその場を後にして、広場の天幕へ向かう。
遠征の時みたいに広場に聖女専用の天幕が張られそこで寝泊りするのだ。
街の人が疎開してしまったので街の機能そのものが停止している、宿も食堂も利用できない、稼働しているのは軍の施設だけだった。
広場には他にも軍関係者のものらしき天幕がいくつか固まっていて、そこで炊き出しも行われる。
広場へ向かう道中、向こう側に人影が見えた。
こんな時にすれ違う通行人と言えば軍人ぐらいなものだろう、そう思って見てみるとどうやら違うようだ。
石畳にこだまするカッカッと規則的な歩行音が続き、しばらくするとピタリと止まった。
「これはこれは、誰かと思ったら聖女様ではございませんか」
その男性は、白い装束を身に纏っており、見覚えのある恰好をしていた。
その白い衣装を纏う者はいわゆる聖職者である。
「教会の方が何故ここに?」
「ソフィー様が避難されないのに我々だけ避難するわけにもいきませんかからね」
ソフィーと言えば聖女見習いであり、避難せずに怪我人の救護活動をしていたはずだ。
「ソフィーは無事でしょうか?」
「ええ、我々がお守りしておりますから、我々は悪魔祓いと化け物退治に関しては軍より上だと自負しております」
「そうですか、ソフィーの事をよろしくお願いいたしますね」
「かしこまりました聖女様」
「それてはごきげんよう」
そう言って、私は男の横を通り過ぎたその瞬間、急に息ができなくなった。
「くっ」
首にワイヤーが巻き付いている、背後からあの男に襲われたのだ。
「正体を現せ化け物め」
ワイヤーが首に食い込みうっすらと血が滲む。
(変身を見られていた?)
「お前の正体は教会に報告済みだ、教会はお前を討伐対象と判断した」
「ぐっ」
ギリギリとワイヤーが食い込んでくる。
(国王陛下はクラウディアに頭があがらない、国王陛下の命令では無いだろう、だとしたら教会が暴走した?)
「魔物は全て粛清されるべき存在なのだ」
(国の危機にこんな事をやっている場合じゃないのに……)
その時ふと違和感を感じた、私は鉄の棒を素手で曲げられるくらいの身体能力なのに、振りほどけないのだ。
「禁域に足を踏み入れたのだ、力が出せまい」
(弱体化の結界の中ってわけね)
私の能力が封印され変身もできない、カーラの呪詛と桁が違う威力だった。