ファドセル
今、ファドセルに大規模魔法を使われたら私には対応できない。
「ならば、先手必勝!」
大規模魔法を使わせる時間を与えない、そのためには攻撃を絶やさない事だ。
私は雷光神槍を手に持ってファドセルに斬りかかった。
キンと言う音と共に雷光神槍がピタリと止まる。
ファドセルも同じように雷光神槍を手に持って受け止めたからだ。
「いつの間に……」
投擲魔法を手に持つと言うのは私の独特な使用法だが、ファドセルは見ただけで修得してしまったようだ。
さすが幹部クラスの魔人を名乗るだけある。
「対処されるのは想定済み、本命は……」
私はファドセルに向かってオリジナル魔法を詠唱する。
「エクスカリバー!!」
ほぼゼロ距離での発動だ。
レーザービームのような光の筋がファドセルを包み込み、背景ごと飲み込んだ。
光の筋が少しづつ収束して、やがて消える。
「やっぱりね」
そこには無傷のファドセルが立っていた。
ただ、ファドセルの着ていたローブは原型を留めていない、フードも消失し、顔もはっきりと見える。
ローブからは煙が上がっていた。
見た目でわかる、今の攻撃はローブの防御力を貫通したはず、それでもファドセルは無傷だった。
「まだよ!」
私は再び詠唱をする。
「エクスカリバー!!」
そして再び目の前が光に包まれた。
今の私は、ファドセルの半分ぐらいの魔力総量しかない。
だけど半分もあるのだ。別に魔王の時みたいに10分の1とか言うわけではない。
ダメージは大きく減衰されてはいるがゼロではないはず、この攻撃をくり返せばいつかファドセルを無力化できるかも知れない。
その時、光の中かからファドセルが現れた。
なんと、攻撃魔法の中を防御無視で突進してきたのである。
胸板に拳がめり込み、私は弾丸のようなスピードで吹き飛んだ。
しばらく地面と平行に飛ばされた後、地面を抉ってめり込む。
大量の土砂が舞い上がった。
「痛……今のでアバラが逝ったわね……」
さすがファドセルと言った所だろうか、術者が攻撃魔法を行使している最中に物理攻撃を仕掛けて来たのだ。
攻撃魔法の行使中は防御も反撃もできない、ファドセルも術者であるが故に、欠点も良く知っている。
まさに私の天敵と言うべき存在になっていた。
地面に仰向けに倒れていると空に点のようなものが見えた、それが段々と大きくなって行く。
私はあわててゴロゴロと横に転がる。
さっきまで倒れていた場所に地面を抉ってファドセルが着地した。
とんでもない跳躍力である、ビルの数十階ぐらいの高さから降って来たのた。
私はヨロヨロと立ち上がり、ファドセルと向き合う。
「貴女、味方だと弱くて、敵だと強いって言う法則を体現するのやめてくれないかしら」
こちらの攻撃が通じないのだ、文句のひとつも言いたくなる。
それに対して、ファドセルの方は無表情のままだ、完全に感情が欠落している。
さて困った、攻撃魔法にカウンターが入る状況で迂闊に攻撃魔法を撃つ事はできない。
こちらから仕掛けるのは困難でも、向こうからはいつでも仕掛けられると言う、絶望的な状況なのだ。
突然、体に衝撃が走り、私は再び吹き飛ばされる。
油断していた、ファドセルの攻撃をまともに食らったのだ。
攻撃魔法発動中じゃなければ避けられると思っていたが甘い考えだった。
今のファドセルにスピードもパワーもかなわない。
口の中を少し切ったので血の味がする。
私が立ち上がろうとした時に、攻撃を受けてまた吹き飛ばされる。
一瞬、意識が飛びかけたがなんとか持ちこたえた。
今のままでは、一方的に攻撃を受け続けているだけである。
(このままじゃ……いつか死ぬわね……)
体の損傷は再生能力により瀕死から復活しているとは言え、このままではいつか即死する。
どんなに再生能力があっても、即死は治せないのだ。
ボロボロになって地面に倒れている私をファドセルが片手で持ち上げた。
ぼやけた視界の中にファドセルが映っている、相変わらずの無表情だった。
「ねぇ……ファドセル……貴女、そんな顔より笑顔の方が可愛かったわよ……」
ファドセルの片手に魔力が集中している、攻撃魔法発動の兆候だ。
物理攻撃だと私は再生するので効率が悪いと言う判断だろう、攻撃魔法で頭部を吹き飛ばすつもりだ。
「最後に……笑って頂戴……ファドセル」
ファドセルは無表情だった……
無表情のまま涙を流していたのだ。
「馬鹿ね、笑ってって言っているのに泣くなんて……」
ファドセルの術式が完成し、手中に具現化する。
「雷光神槍」
ファドセルはそう言って私の頭部に突き刺した。