前線
私は牽制の意味も込めて、敵に攻撃魔法を試してみた。
「ファイアーボール」
敵の真上に、巨大な火の玉が出現し,そのまま敵を押し潰す形で火の玉が地面に激突した。
火の玉はドンっと言う爆発音と共に弾け、天空に向かってビルの高さぐらいの火柱があがった。
「回避行動をとらなかった? ……」
周囲は焼け焦げ、一部が溶解して赤いマグマのようになっている。
「いいえ、回避行動を取る必要が無かったのね」
視界が徐々に晴れて行くと、無傷の敵が姿を現したのだ。
「まったくのノーダメージか……」
相手との魔力総量の違いで効いてない上に、あのローブは魔道具だ。おそらく私の聖女の服レベルの。
そうでなければ、今頃、灰になっているはずなのだ。
私は改めて敵と対峙する。
意外と距離を取っているはずなのに、とんでもない魔力がビリビリと伝わって来た。
攻撃魔法を撃ちあえば、私が一方的に負ける。それは、高位爆裂魔法の時に立証済みだ。
かと言ってこのまま引き下がるわけにも行かない、都市を防衛する壁の前なのだ、ここを突破されれば敵がなだれ込んでくるだろう。
つまり、目の前の敵を倒すと言う選択肢しか無いのである。
私は両手でパシッと自分の頬を押さえると、深く深呼吸をした。
こんな事で弱気になってちゃ駄目だ、相手は魔王よりも格下、この敵が倒せないなら魔王を倒す事なんてできない。
ウェンディが私の隣に立つと、槍の穂先を敵に向けて構えを取った。
「助太刀致します」
その時、少し後ろにいたリーゼロッテから報告が入る。
「ご主人様、北西の前線が崩壊したようです」
私はQちゃんの映像を確認すると、防衛軍は大軍に飲み込まれて跡形も無くなっていた。
「予想より早すぎる……」
キャサリンが戦っている右側の前線は持ちこたえているのだが、左側の前線が崩壊したのだ。
伝承の武器を持った宮廷騎士団が前線に立っているので、もう少し持ちこたえると思っていた。
やはり、宮廷騎士団と言えども武器を扱えるだけの技量が無かったと言う事なのだろう。
「ウェンディ、リーゼロッテと一緒に前線を支えに行って頂戴」
状況は一刻の猶予も無かった、前線が崩壊したなら間もなく大軍が押し寄せてくるだろう。
「でも、目の前の敵は……」
「私を信じて……任せて」
「わかったわ」
ウェンディは構えを解く。
「ご主人様、私も行くのですか?」
リーゼロッテは不服のようだ、私の事が心配なのだろう。
「そうよ」
「でも……」
「これは命令」
「わかりました、ご主人様」
主従関係での都合上、リーゼロッテは私に命令されると逆らえない。
「死なないでくださいね」
そう言うとリーゼロッテとウェンディは前線へと転移した。
さてどうしよう、これで完全に孤立無援なわけだ。
勝算があって一人になったわけでは無い、単に優先順位での判断だった。
(私が敗北しても、都市中央は聖女と勇者が守護しているもの……)
そう、まだ最後の砦が残っている、ならば前線を維持するのが最優先だと判断したのだ。
前線を維持するなら、少しでも多くの人材を前線に投入した方が良い、ここは私が一人で頑張れば良いだけだ。
目の前の敵と対峙してしばらくすると、ふと、私は少し違和感を感じた。
敵は最初の高位爆裂魔法から全く攻撃してこない。
それに今でも一歩も動いていないのだ。
敵は圧倒的優位に立ち、いつでも勝てるとは言え、いくら何でも消極的すぎる。
「に……」
敵が初めて言葉を発した、何かを伝えようとしている。
「何? 何か言いたい事があるの?」
そう問いかけるが、その後の反応が無い。
「お話してくれなきゃ、わからないわ」
その時、一陣の風が吹き敵のフードがめくれあがった。
その時、私はハッキリとその顔を見たのだ。
「ファドセル!!」
そこに立っていたのは、紛れもなくファドセルだった。
「に……げ……て……」
そうファドセルは私に伝えた。
あの様子からして自分の意思で戦っているのでは無いだろう、何らかの方法で操られている。
「良かった、生きていたのね!!」
私は嬉しくて少し涙ぐんだ。
「ファドセル、正気に戻って頂戴、貴女と戦いたくないわ」
そう問いかけるも、反応は無い。
しかし、わからないのはファドセルの強さだ、短期間で魔力総量100万クラスまで引き上げられている。
そう言えばマイラも50万クラスだった。
魔王はとんでもなく高位の魔人を自由に生み出せるのだろうか。
だけど何らかの条件と制約があるはずだ。でなければ今頃、高位の魔人が大量に押し寄せてきているはずなのだ。
(考えても仕方が無い、今は目の前の『敵』に集中しないと)
「に……げ……て……」
何度目か同じ言葉をファドセルは繰り返す。
「良く聞きなさいファドセル、必ず貴女を救ってみせる……」
「だから逃げないわ!!」




