古城
私は再び夢を見た。
暗い空間に聖櫃が浮かんでいる。
「力が……」
私は聖櫃を問答無用で蹴り飛ばすと、何も無い空間に消えて行って行った。
私がホッと一息ついていると突然視界が開けた、辺り一面がお花畑である。
その中心に幼い少女が2人佇んでいた。
「わぁ奇麗なお花畑!」
「ここは私の秘密の場所なのよ」
2人の少女が会話をしている。
(どこかで見覚えがあるような……)
私がそう思って2人の少女に歩み寄り体に触れようとしても通り抜けてしまう、私の声も聞こえないらしく話かけても反応はない。
それによって私は映像を再生しているようなものと理解した、私は完全な視聴者側なのだ。
映像の中の少女は姉妹のように仲が良かった。
2人はお互いが好きすぎて、最終的には結婚の約束をしてキスをする。
私が微笑ましくその映像を見ていると、突然咆哮が聞こえた。
(ヘルハウンド!)
魔物の中でも特に危険種に指定されている犬型の魔物である。
ヘルハウンドは獲物を目の前にしてゆっくりと近ずいていく。
2人の少女は抱き合ってガタガタを震えていた。
ヘルハウンドは2人の少女の手前数メートルで態勢を低くしてピタリと止まる、2人の少女が間合いに入ったのだ、攻撃姿勢を取っている。
そして、ヘルハウンドは2人に向かって跳躍した。
(危ない!)
「エリスちゃんを虐めるな!」
片方の少女が立ち上がり両手を広げ、魔物の前に立ちふさがった。
「危ない、マリーちゃん!」
そこで私は夢から覚めた。
気が付いたら涙を流して居た。
◇ ◇ ◇
リーゼロッテの古城に私の友達が訪ねて来た。
ローラ、マリー、キャサリン、ウェンディ、アリエル、リトの6人である。
吸血鬼のお城の話をしたら是非見学したいと言う事になってやって来たのだ。
(前世で言うと、ねずみの国のお城に行きたいって言う感覚なのかしら)
食卓の大きなテーブルにティーセットとお菓子を配膳しているのは元大臣の魔人である。
大臣の職を辞任してから行くアテが無いと言う事だったので、この城に住み込みの執事として働く事になった。
名前は『ザラート』と言う。
「これはエリスお嬢様、お帰りなさいませ、言っていただけたら門までお出迎えにまいりましたものを」
元大臣は魅了による命令権をリーゼロッテに渡したので、現在の主従関係はリーゼロッテの配下となっている。
「お迎えは要らないわ、面倒な手間は省きましょう」
テーブルに椅子が並んでおり、ザラートが1人ずつ椅子を引いて着席をさせるのでメッチャ時間がかかった。
「面倒な手間は省きましょうって言ったのに」
全員が着席してからリーゼロッテが挨拶をする。
「私がこの城の城主、リーゼロッテ・ドロッセルと申します、皆様はご主人様の親愛なるご学友と伺っております、歓迎致しますわ」
リーゼロッテの挨拶は、とりあえず予め渡しておいた台本を棒読みしていた。
(あんまりポンコツなしゃべり方をされると困るからね)
「それにしても、エリスが聖女だなんて驚きだよ」
とマリー言う
「それは私が一番驚いてるわ」
「その前までは投獄されていたのにね」
「何も悪い事してないからこうしてちゃんと釈放されたじゃない」
死刑にされそうになった事までは知らされていない。
よけいな心配をさせたくなかったのだ。
「申し訳ございません、マスター」
次に口を開いたのはキャサリンだ
「マスターを助け出そうと刑務所に乗り込もうとしたのですが、羽交い絞めで止められました」
「そこは羽交い絞めした人を褒めてあげたいわね」
「今は聖女様であるマスターと並び立つべく勇者になる修行をしています」
「頑張ってね」
聖女の隣に立つのは常に勇者なのだ。
しばらくは皆で雑談を楽しんでいた、ここ数日の様子が語られている。
その時『ドンッ』と言う音とともに城がグラグラと揺れた。
「何事?」
私はザラートに聞く。
「攻撃魔法が着弾したようです」
この城は結界が張ってあるのである程度の攻撃魔法は耐えられる。
「ちょっと見てくるから皆はここに居て」
私は窓から飛び出すと、庭に着地し垂直ジャンプで各階の窓を足場に城のてっぺんまで登った。
偵察のためQちゃんを複数召喚して放つ。
ぐるりと見渡したがどうやら大量の魔物に城を囲まれている。
この城を取り囲む数となると、とんでもない魔物の数になる。
私の姿を確認したからだろうか、私の立っている場所に前後左右から巨大な火球が飛んできた。
私は変身して銀色の髪になると、すべての火球をデコピンで弾き返す。
はじき返された火球は城を囲んでいる魔物の群れに着弾し、大爆発を起こして魔物を焼いた。
遠くでキラリと光る光が見えた、とっに私は右手を前に出す。
パシッとその光をキャッチするとそのまま握りつぶす。
その光は粉々に砕け散り、光の粒子になって消えてっ行った。
雷光神槍だった。
音速の数倍と言われる攻撃呪文を素手でキャッチしたのだ。
「やればできるものね」
「贈り物を貰ったら、お返しするのが日本人と言うものよ」
私は遠くで光った場所に雷光神槍を投げつける。
すると遠くで巨大な光の柱が立ち登り、電撃が円状に広がって全てを焼き尽くした。
ちやんと着弾したらしい。
「それにしても数が多すぎる、あの2人にも手伝ってもらわないと」
私は城のてっぺんから庭にダイブするとスタっと着地して、皆の所へ向かった。
「囲まれてるわね」
リーゼロッテは眷属の情報を共有してるので状況を把握している。
「ハニー! 愛し合いましょおおおお!」
私のスーパーな状態を見たファドセルが目をハートマークにして突進してくるが、スルリと横に避けて足を引っかけた。
ファドセルは盛大に転倒し、顔面を床にこすりながら私を通り過ぎていく。
「マスター! 私達も戦います!」
キャサリンとウェンディは既に武器を手に持っていた。
マリーは皆に保護魔法をかけている最中である。
「そうねキャサリン達の力も必要だわ」
今は一人でも多くの人手が欲しい。
奥でスックと立ち上がったファドセルは
「あんな雑魚、あたしの魔法で焼き尽くしてやるから安心してハニー」
もしファドセルレベルの魔人が高位爆裂魔法を使ったら、この城もろともきれに消し飛ぶ威力のはずだ。
「落ち着きなさいファドセル、貴女は高位爆裂魔法の使用を禁止するわ」
「高位爆裂魔法!」
「人の話を聞け―!」
城の真上に巨大な光球が出現し徐々に圧縮されて行く、やがて光球は限界を迎え、爆発を起こした。
城の上空、そこが爆心地となった。
熱線が魔物をことごとく焼き尽くし、爆風が魔物をなぎ倒していく。
大地が炎につつまれ、爆風が粉々に粉砕して行った。
爆発の衝撃は音速を超え、水蒸気を纏って円状に広がっていく。
大地がグラグラと揺れ、城の壁がパラパラと剥がれて落ちて来た。
「みんな無事?」
私は皆の無事を確認する。
「ええ大丈夫です」
「びっくりしたぁ」
「ご主人様、今のでQちゃんが半数以上消し飛んだので補充しておきますねー」
割と冷静なリーゼロッテがQちゃんを召喚して窓から放った。
ちなみにQちゃんは魔力で生成しているので生命体では無い、一定のダメージを受けると霧になって消滅する。
「怪我人は居ないようね」
私は皆の無事を確認して安堵する。
「それにしても……ここの結界ってあの爆発に耐えられるの?」
「耐えられるわけないじゃないですかぁ」
「え?」
「お城が無事なのはマリーさんのおかげですよぉ」
「マリーが何かしたの?」
「マリーさんはファドセルの魔法と同時にプロテクションを展開して城全体を覆いました、聖女の聖域に近い能力ですね」
驚きの事実である、聖女見習いの2人でさえこの規模の神聖魔法は使えないのだ、聖域に匹敵するレベルの神聖魔法をマリーが使ったと言う。
「すごいわねマリー」
「そんなに長持ちしないよだから急いで!」
「そうだったわ」
「Qちゃんの情報によるとここを中心に見渡す限りは焼野原です」
どうやらここを中心にキロメートル単位で焼失しているらしい、近くに民家が無くて良かったよ。
「じゃあ全滅したの?」
「いいえ抵魔力の高い幹部クラスには効いてません」
「じゃあ個別撃破ね、数は?」
「4人です」
「キャサリン、ウェンディ、リーゼロッテと私が出るわ、ファドセルは城の守りをお願い」
ファドセルの魔法で生き残ったと言う事は抗魔力の高い相手と思われる、そうなるとファドセルとは相性が悪い、身体能力の高いメンバーが撃破する方が良いのだ。
リーゼロッテは各メンバーをターゲットの所へ転移させると最後に自分が転移した。