力が欲しいか?
「力が欲しいか?」
何もない空間で聖櫃が空中に浮かんでいた。
「力が欲しいか?」
聖櫃は私に語りかけてくる。
「力が欲しいならば我を……」
「お断りだぁー!!」
私はそう叫んで空中に浮かんでいる聖櫃を蹴り飛ばした。
私の年齢でランドセルを背負うなんてお断りなのだ。
「グハッ」
いい感じにダメージが入ったらしい。
蹴り飛ばされた聖櫃は何も無い空間の暗闇に消える。
そこで私は、ハッと目が覚めた。
「夢か……」
聖女選定の儀式は予定通り行われる事になった。
但し、従来のように聖櫃によって選定する方式を取る事になっている。
元々選定方法を変えようと言う事自体が、聖女を傀儡にしようと言う計画の一部だったからだ。
そしてついに聖女選定の儀式の日を迎える事となったのである。
儀式は聖女の神殿と呼ばれる古代建築で行われる。
神殿の中は広く天井が異様に高い、正面の壁には高さ3メートルぐらいの聖女と思わしき彫刻が掘られていた。
聖女の彫刻の前に装飾された祭壇があり、台の上に聖櫃が飾ってある。
入口からその台に向かう通路には赤いカーペットが敷かれていた。
両側に白装束を身に纏った司祭がずらりと並んでいる。
「これより聖女選定の義を執り行います」
神官が聖女を選定する儀式の始まりを告げる。
神官の横には立会人としてクラウディアが立っていた。
祭壇の前で私達3人は跪き、頭を下げ礼をした。
その場で待機である。
「まずはマイラ・フラトン前へ」
最初にマイラの名前が呼ばれ、マイラは少し緊張しながらも立ち上がり、祭壇に飾られた聖櫃の前に立つ。
選定方法はシンブルだった、聖櫃の前に立って魔力送り続けるだけなのだ。
但し制限時間があって、砂時計で時間を計り砂が無くなったらそこで終了である。
「聖櫃に両手をかざし、魔力を送りなさい」
マイラは言われた通り両手をかざして魔力を送りは始める。
静まり返った神殿で皆が固唾をのんで見守っていた。
しかし聖櫃には変化が見られなかった。
砂時計の砂が半分を過ぎた頃からマイラも焦りが見え始める。
魔力を強めたり弱めたり変化を加えつつも、時間だけが過ぎ去っていった。
ついに砂時計の砂は尽きたが、聖櫃これと言った反応が無いまま終わってしまった。
「マイラ・フラトン失格」
マイラはがっくりとうなだれ、一礼をして元の位置に戻る。
「ソフィー・シトリン前へ」
(ソフィーが本命よね、頑張ってソフィー)
ソフィーも同じように聖櫃の前に立つと両手をかざす。
しかし、ソフィーでさえも聖櫃は反応せず、制限時間を過ぎて認定されないで終わった。
「エリス・バリスタ前へ」
私は祭壇の前に立ち、聖櫃に両手をかざし魔力を送る。
当たり前なのだが、聖櫃は反応しないまま時間が過ぎていく。
私はヒールさえ使えないのだ、この結果は当然だろう。
(それに、あんなランドセル背負うとか罰ゲームに等しいしね)
制限時間を計っている砂時計もうすぐ尽きるだろう。
ほっとひと息ついた所、リラックスしたのがいけなかったのだろうか、聖櫃が反応した。
「えっ?」
「なんじゃと!?」
聖櫃に刻まれている刻印が赤く発光している。
この場に居た全員が信じられないと言う表情で私を見ている。
「称えよ200年ぶりに聖女が誕生したのだ、その名はエリス・バリスタ」
と神官は興奮したように言う
「ではエリス・バリスタよ、その証を皆に示すが良い」
(証って何? 聞いてないからそんな事)
「胸をはだけるのじゃ」
クラウディアが私に声をかけた。
「えっ、おっぱい出すんですか?」
「阿呆、誰がそこまでしろと言った」
クラウディアが少しだけ胸をはだけて見せる。
クラウディアの胸になんか変なマークが入ってる。
あわてて自分も確認してみた。
「何か変なマークが入ってます!」
「変なマークとは何じゃ、聖痕じゃぞ、それが証なのじゃ」
神官は告げる
「エリス・バリスタは聖女の証を示した、よってこの者を聖女と認定する」
人類の歴史上初のヒールすら使えない聖女が誕生した瞬間であった。
(どうしてこうなった!)
聖女誕生のニュースは一瞬で広まり、国はお祭り騒ぎとなっていた。
特に魔王復活の年に現れた聖女と言う事で、魔王から救って下さるに違いないと言う話もセットで広まって行った。
エリス・バリスタ感謝祭と言うお祭りも開かれる始末だ。
(何に感謝するんだよ!)
私はクラウディアと今後の事について話し合う。
「正直、妾も驚いたぞ」
「自分が一番驚いてますが、聖櫃が私を選んだ理由がわかりません」
「妾にも正確な理由はわからんのじゃ、単に魔力の大きさに反応しただけなのかもしれんが」
「魔力だけが理由でしょうか?」
「あるいは、お主が神聖魔法の適性を持っていると言う可能性じゃな」
「私に?」
「そうじゃ本来なら使えるはずなのに、何らかの理由で使えないだけかも知れぬ」
「聖櫃はそれを見抜いたと?」
「その可能性は否定できぬじゃろう、お主にも聖女の資格があったと言う事じゃ胸を張るが良い」
「そうなのでしょうか……」
私としては今ひとつ釈然としない。
「それで私はどうなるのですか? 聖女様」
「お主も聖女になった故、その呼び方は改めねばならぬな」
「でも聖女様は聖女様ですし」
「クラウディアと呼び捨てで構わんよ、妾が第一聖女でお主が第二聖女じゃ」
「では第一聖女様とお呼びします」
「呼び捨てで良いと言っておろう、仕方ないのう好きに呼ぶが良い」
「それで先ほどの件なのですが」
「お主の今後についてじゃな」
「はい」
「お主の聖女見習いは既に解かれておる、もう訓練施設に顔を出さずとも良いぞ、立場的には妾と同等じゃ」
「聖女ってどれくらい偉いのですか?」
「国王陛下に意見したければ、フラっと宮殿に行って謁見できるレベルじゃぞ」
「はい?」
普通、国王陛下に会いたいと言って会えるものでは無い、国の重要人物でさえ謁見を申し入れても、謁見できなかった事も珍しくなかった。
「国王陛下にいつでも意見する事ができるのは聖女だけじゃよ」
「それは国王陛下と対等と言う事になるのではないでしょうか」
「そうなるのう」
知らなかった、私はそんなに偉い聖女のパンツを下げてしまったのか……
あ、でも私も聖女になったからもう怒られないよね。
私が不安そうな顔をしているとクラウディアが少し勘違いしたらしい
「安心せい、面倒な事は妾が引き受ける、お主は少しずつ覚えるが良い」
「お心遣い感謝いたします第一聖女様」
「それで、学業の方はどうなるのですか?」
「今まで通り、学校に通うが良い」
「よろしいのですか?」
「勿論じゃとも」
「それを聞いて安心致しました」
よかった、学校は辞めなくても良いらしい。
卒業までは執行猶予って所だろう。
「なんであの女なのよ!」
ガシャンと音がする、花瓶が床に投げつけられ割れたのだ、花瓶の破片と花が床に散乱してる。
マイラは苛立っていた。
エリスは死刑が決まっており、マイラは聖女になるはずだったのだ。
全ては順風満帆であった、そのはずなのに、どこで道を誤ったのか。
「あの女が全てを台無しにしたんだわ」
何度思い出しても怒りがこみあげてくる。
「このままで終わらせないわ!」
マイラは自分の人生を台無しにしたエリスに復讐を誓う。
そのマイラを赤い目をした何者かがじっと見ていた。