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謁見

およそ2週間でリーゼロッテはファドセルを超えて魔力の総量は16万に到達した。


魔人を倒して力を取り込むと言っても、その魔人の魔力を100パーセント上乗せできるわけでは無い、上乗せできるのは数パーセント程度だと言う。


リーゼロッテは上位魔人を狩りまくって数をこなしたのだ。


それでもリーゼロッテが強くなったため、弱い魔人を倒しても魔力の上昇がゼロだと言う。数をこなせば良いと言う局面でもなくなりつつあった。


しかし、ある日を境にピタリと上位魔人が現れなくなったのだ。


そのため、とりあえずリーゼロッテのレベル上げは一旦終了と言う事になった。



聖女選定の儀式まであと一週間弱である。


もう残された時間はわずかなのだ、このままでは進展が無いので強硬策を取るしかなかった。


私はリーゼロッテの古城に召集をかけた。


「お呼びですか? ご主人様」


「直接大臣と話をしたいわ」

「了解しましたぁ、大臣を誘拐してくれば良いのですね」


「人聞きの悪い事言わないで、話し合いの席へご招待よ」

「相手に拒否権はあるんです?」


「ないわよ」

「強制的に連れて来いって言ってますよね?」


「そうなるわね」

「誘拐じゃないですか!」


「強制的なご招待よ!」

「何言ってるかわかんないです!」


「まぁやる事は変わらないのでいいですけどぉ」

リーゼロッテはそう言って転移した。


転移を見届けたファドセルが


()の居ぬ間に愛し合いましょうハニー」


と言って私に向かって抱きつこうと突進してくるが、リリスが実体化してファドセルの足を引っかけた。


ファドセルは盛大に転倒し、顔面を床にこすりながら私の足元までスライドして来た。


「何するのよこのクソサキュバス!」


「貴女は少し冷静になりなさい」


これがリーゼロッテなら口論になるのだが、リリスは相手にせず、ファドセルが一方的に苦情を言っているだけの図だ。


そんなやり取りをしているとリーゼロッテが戻って来た。


「ただ今戻りましたぁ」


「メッチャ早いわね」


「まぁ距離は関係無いですから、隣の部屋から連れてくるのと変わりませんですぅ」


床に大臣と思われる男性が小さく前ならえのポーズで固まっている。


どう言う状況なのだろうか。


「ご主人様、大臣は魔人が化けてたんです、魔力1000ぐらいの雑魚ですけどぉ」


「え? そうなの」


拘束呪文(バインド)で固めて無害化しましたぁ」


「くっ殺せ!」


大臣は小さく前ならえのポーズでこちらを睨みつけている。


「あんまり嬉しくない、くろっころだわ」


「我は魔王様の忠実な(しもべ)、貴様らなんぞに……」


魅了(チャーム)レベル5」


「女王様! なんなりとお申しつけください!!」


「あなたは今から国王陛下に全ての真実を話してきなさい」


「かしこまりました女王様」


国の要人に魔王の間者(スバイ)が入り込んでいる状況だと誰が敵なのかわからない。


クラウディアからは国王は信用に足る人物だと聞いている、ならば国王に真実を伝えるべきだろう。




謁見の間。


玉座に国王が鎮座しており、大臣は国王の前で平伏している。


謁見の間の天井には、ちゃっかりとQちゃんが貼りついているのでライブ中継を見ているような感覚だ。


(おもて)を上げよザラート大臣」


「はっ」


「それで国の危機とはどう言う事じゃ」


「政府の要人に魔王の間者が何名かおりました」


「なんじゃと? それは本当なのか」


「はい、その者達によって、聖女様を国外追放にしようと言う企てがございます」


「クラウディアをか? 事情聴取だけだと聞いておったが」


「本当の目的は国外追放によって勇者と引き離し、殺害する計画でした」


「なんと、それは本当なのか」


「それに人間側にも賛同する者がございます」


「何故なのじゃ」


「聖女様の権力でございます」


「権力?」


「新しく選定した聖女様を裏から自在に操れるならば、強大な権力を手にする事になる事でしょう、そのためにも現在の聖女様が邪魔だったのです」


「なんと言う嘆かわしい事じゃ」


大臣を懐から書状を取り出す。


「こちらの書面に間者のリストと内通者を書き(しる)しました」


と言って大臣は国王に差し出し、国王はそれを受け取った。


「しかし、それが事実だと言う保証はあるのか?}


「聖女様の言葉ならば信じられましょう、真偽のほどは直接聖女様からお伺いくださいませ」


「そうじゃな、そのためにもクラウディアは国王の名の元に保護しておこう」


「それがよろしいかと存じます」


「しかしこの情報はどこからもたらされたものなのじゃ」


「私もかつて魔王に仕える間者でありましたが、今では新しい主君を見つけました」


「なんじゃと」


「つまりこの情報は間者である私が直接、国王陛下にお伝えしているものです、全て真実であり正確な情報なのです」


「大臣が間者だと!?」


「勿論、大臣の職は返上させていただきます」


「不覚じゃった内政まで操られておったのか……」


大臣が国王の前で全ての計画を話したため、クラウディアが軟禁状態から解放され自由の身となった。


そしてクラウディアが国王に口添えした事もあり、私は国王の命令で即日解放されたのだ。


私はリーゼロッテとファドセルの事を説明をするため、クラウディアに連れられて国王陛下と謁見する事となった。


私達は片膝をつき、頭を下げる。


「知らなかったとは言え、クラウディア(ばあちゃん)には迷惑かけたな」


「キー坊は内政にはあまり干渉しないから無理もあるまい」


国王陛下とクラウディアの、わりとフレンドリーな会話からこの2人の関係性がうっすらとわかる。


キー坊とはキース国王陛下の事だろう。

国王はクラウディアの事を、ばあちゃんと言ってはいるが、直接的な血縁関係は無いと聞いている。


「大臣の言っていた事は本当だったのじゃな」


「うむ」


「信用していた人物が軒並み内通者じゃった、あの情報はさすがにワシでもへこむぞ」


「キー坊はお人よしすぎるのじゃ」


「それでその2人が、例の魔物か」


国王はちらりと私の背後に居る2人を見た。


「見ての通り、プライドの高い吸血鬼と魔人が人間に(かしず)いておるじゃろ」


「危険は無いのか?」


「この吸血鬼は人間の血を吸う必要がない存在になっておるのでな、人間を襲う事もあるまい、それに……」


私は右腕と左腕、2つの紋章を国王に見せた。


「隷属契約か、完全に無力化しておるのだな」


「そうじゃ、この2人は完全にこの者の支配下に入った」


この説明が終わったら解除すると言って契約させたものだった。

口でどれだけ無害と言っても信じもらえないからである。


「200年前勇者の犠牲によって、平和が訪れたのは知っておるじゃろう」


「うむ」


「あの時、妾の力が足りないばかりに勇者を死なせてしまったのじゃ、だから聖女にも戦える力が欲しいと思った」


「200年間ずっと悔いておるのじゃな、聖女が戦う力を欲した結果がこの2人と言うわけか……」


「良かろう、ばぁちゃんの願いなら無下にもできぬからのう」


こうして2人の魔物は国王のお墨付きをもらう事ができたのである。


国王は私の方をチラリと見る


「それでもう1人居るようだが」


「エリス・バリスタと申します」


「妾が聖女見習いに抜擢(ばってき)したおなごじゃ」


「ほう、ならばヒールやプロテクションなどの神聖魔法に長けておる人物なのか?」


「いや、今の所そっちの才能は全然なのじゃが……」


「何故だ? それでは聖女の資格が無いのではないか?」


「エリスと出会った時に妾は聖櫃(せいひつ)を背負っておったのじゃが、聖櫃(せいひつ)がかすかに反応したのでな」


「つまりは将来聖櫃(せいひつ)に選ばれる可能性があると?」


「まだわからぬがその可能性は否定できぬ、ハッキリと判るまでは手元に置いておくつもりじゃ」


「ならば何も言うまい」


こうして国王陛下との謁見は無事に終了した。




数日後、私はまた訓練施設に呼び出された。


「納得できません!」


マイラがクラウディアに食い下がる。


「妾の考えは皆に説明したはずじゃが」


「聖女に戦う力は必要ありません、戦うのは勇者の役割です」


「その考えが勇者を殺したとしてもか?」


「騎士ならば誰でも国のためにその身を捧げる覚悟をしているでしょう、その勇者だっておそらく同じ気持ちだったはずです」


「生きている者が死者の気持ちを代弁するのは間違いじゃぞ!!」


マイラがビクッとなる。


「すまぬ冷静さを欠いておった」


「私も……賛成しかねます」


ソフィーが口が珍しく反対意見を述べる。


「多くの人々を殺戮(さつりく)した魔物の手を借りるなんて民衆が反発するに決まっています」


実際に魔物の処分を求める声が、かなりあがっているのは確かだ、抗議デモも起きていると聞いた。


「魔王の使っていた『武器(まもの)』をエリスが奪い取ったと考えるのじゃ、命令権を持つ者に従っているにすぎない」


「それに人間も長い歴史の中で人間を殺戮(さつりく)しておる」


「魔物と人間は違います」


「違わんよ」


しばしの沈黙の後、クラウディアは言葉を継いだ。


「妾が全ての責任を背負う、わかってくれ」


「そこまでの御決意ならば、何も申し上げる事はありません」


ソフィーは引き下がったが、マイラは納得していないと言うのは態度でわかった。


「全部貴女のせいよ!」


帰り際にマイラは私に向かってそう言った。


事実、その通りなので特に反論も無かった。

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