ありがとうございます!!
私は牢の中で瞑想していた。
リーゼロッテだけでこんな事になっているのに、ファドセルの事がバレたら敵と内通してると思われても仕方が無い。
(面倒な事になったなぁ……)
「26号出ろ、取り調べだ」
ここでは私は番号で呼ばれている。
「はーい」
ガチャリと解錠する音がして鉄の格子が開いた。
「今日は大司教様が直々に取り調べなさる」
取調室に入れられると、両手を拘束されたまま椅子に座らせられた。
机を挟んで対面に大司教と思われるジジイが座っている。
「国家の機密事項にかかわる問題じゃ、人払いを頼む」
大司教がそう言うと
「了解しました」
と言って全員が取調室から退出して行った。
その後沈黙が訪れた。
(なんかガン見されてるんですけど)
「ふむ、美しいのう」
「あのー取り調べは?」
「お主に聞く事は何もない、クラウディアとグルになって国家の転覆を企てた重罪人め」
「そんな事実はありませんが」
「この取り調べで、お主が全て自白した事になる算段じゃ」
「つまり私を使って聖女様を陥れようと?」
「お主の死刑も含めて、決定事項なのじゃよ」
最初から全てが決まっていたのである。
大司祭は椅子から立ち上がり、ゆっくりと歩いて来た。
私の横に立ち肩に手をかける。
「どうせ死刑になるのじゃ、少しくらい味見しても構わんじゃろう」
(あ、これってエロゲーの展開だよね)
そう言えばこの作品が18禁ゲームだって事、忘れてたよ。
「エッチなのはいけないと思います!」
「お主に拒否権などないわ!」
大司教が私の椅子を蹴とばすと、私はバランスを崩して床に転がった。
両手を拘束されているので受け身も取れない。
大司教が荒々しく私の上にのしかかって来た。
「あーれー」(棒読み)
「助けなど来ぬ、観念しろ!」
「魅了レベル5」
「女王様! なんなりとお申しつけください!!」
私は床にはいつくばった大司教の頭を靴で踏む。
「ありがとうございます!!」
「知っている情報を全て話なさい」
「御意」
大司教の話では、国の要職にある大臣が黒幕だった、国王陛下はその事を知らないでいる。
クラウディアを失脚させて、マイラを新しい聖女に仕立て上げる、後は操り人形のように意のままに操るのが目的だ。
聖女が国王陛下に進言すれば、国王陛下とて無視はできないぐらいの発言権を持っていた。
むしろ国外に対しては国王陛下より発言権を持っているとさえ言われている。
(魔王が復活したと言うのに、権力争いやってる場合じゃないでしょ)
「それで、今の聖女様はどうなるの?」
「クラウディアについては聖女の役職を解かれ、国外追放になる予定じゃ」
「なんですって!」
「国内に残しても火種になるからのう、民衆が担ぎ上げて暴動を起こす可能性もある」
正直、クラウディアの聖域は鉄壁の防御だ、首都が無事なのはクラウディアが居るからと言っても過言ではない。
もしクラウディアが追放されたら、首都は簡単に陥落するだろう。
「タイムリミットはあと一ヶ月か……」
それから数日後。
大司教が私の処刑に反対し続けた結果、まだ裁判も開かれず、取り調べが続いていた。
次々とお偉いさんが私の取り調べに来るのだが、みんな頭に靴跡をつけて、揃って反対派に回るから、どんどんやりにくくなっているらしい。
もっとも、大司教に有力者を連れてくるように命令した結果なんだけどね。
「まったく、男ってこれだから」
今日も、女の死刑囚で良い思いをしようとやってきた、有力者の頭を踏みつける。
「ありがとうございます!!」
「直接大臣は連れて来れないの?」
「あのお方は雲の上のお方なので、我々の身分では話しをする事すらできません」
「大司教なら話ができるでしょう?」
「話はできますが、取り調べ室に呼ぶのは無理でしょうな」
「大臣と言う役職を考えると確かにそうね」
「そろそろ時間なので戻ってよろしいでしょうか?」
「あなたも戻ったら私の死刑と聖女様の追放に反対しなさい」
「かしこまりました」
私は再度頭を踏みつける。
「ありがとうございます!!」
こうして反対派を増やしているが、事態の進行を遅らせるだけで根本的な解決にはなっていない。
有効な手段が見つからないまま、貴重な時間だけが過ぎていく、そんな焦燥感に駆られるのだった。
私はいつものように牢を抜け出し、今はリーゼロッテの古城に居る。
投獄されている私は他に行くアテもなく、外での活動拠点はおのずとここになるのだ。
「ハニー会いたかったわ」
ファドセルが私に向かって抱きつこうと突進してくるが、リーゼロッテが転移してファドセルの足を引っかける。
ファドセルは盛大に転倒し、顔面を床にこすりながら私の足元までスライドして来た。
「何するのよこのクソ吸血鬼!」
「ご主人様に抱きつこうなんて500年早いですぅー」
(あ10年じゃないんだ、さすが人外)
「2人共その辺にしておきなさい、今はそれ所ではないでしょう」
リリスだけが冷静だった。
「ご主人様を死刑にする国なんか」
「ハニーを死刑にする国なんか」
「「滅ぼしましょう」」
2人で奇麗にハモった。
(実は君たち仲が良いんじゃない?)
「却下!」
今まで暴力で全て解決して来たリーゼロッテとファドセルの2人はすぐこう言う結論を出す。
「戦闘になればハニーだって変身するでしょ」
「貴女が言うとキューティーな女の子がフラッシュするみたいな言い方になるわね」
ファドセルは私のスーパーな状態に一目惚れしたらしいので、やたら変身を懇願してくる。
前に一回変身を見せたら、目がハートマークになって、私にのしかかってきたのでやらなくなった。
「それで、今の私達では魔王に勝てないのね」
「全員で束になっても無理よ」
とリリスが言う
「そうすると、勇者と聖女様の存在は欠かせないわね」
私達も規格外に強くなっているとは思うが、魔王にはほど遠いらしい。
私達に勇者と聖女を加えた連合を作る必要がある、ただ、現状ではその可能性はゼロなのだ。
「私達の強さってどれくらいなのかしら?」
ここで、私は現状の戦力把握をする。
魔力総量では、リリスが3万、リーゼロッテが10万、ファドセルが15万だった。
変身後の私は全部足した数になるので単純に考えれば28万くらいだろう。
上位魔人が1万から5万とバラツキがあるものの、およそ単独で撃破可能と言う結論は出ている。
幹部クラスは10万以上と言われている。
(ファドセルって幹部クラスだったのね)
「幹部のエリートクラスには50万や60万と言ったレベルの魔人が数名居るからハニーでも勝てないわ」
「今頃、ファドセルが殺られたようだな、奴は幹部の中でも最弱とか言われてるハズですぅ」
「おう、やんのかこのクソ吸血鬼!」
「はい、そこ静かに!」
圧倒的な戦力差だった、実際戦闘できるのは私を含めて3人しか居ない。
リリスは戦闘向きではないのでサポート役に徹している。
「リーゼロッテはしばらく魔人狩りを続けなさい、貴女ならファドセルを超えられるでしょう」
リーゼロッテは吸血鬼の特性で魔人を倒して力を取り込めばステータスアップができる。
「こんな弱っちい最弱幹部なんてすぐ超えられます」
「よし吸血鬼今すぐ殺そう!」
「いい加減、仲良くしなさいよ」
私は先が思いやられるのだった。