追放
クラウディアに幹部候補生訓練所へ呼び出された。
「郊外で無数の魔物の死骸が確認されておる、この件についてじゃが」
私は少し考えると隠すのは無理だと判断した。
両手を揃えてクラウディアに差し出す。
「自首します、刑事さん」
「刑事と言うのは何なのか知らないが、やはりお主じゃったか」
「少しでも数を減らせればと思いまして」
「200年前は数百万と言う数の軍勢だったのじゃぞ、お主のしている事は海に小石を投げ入れるようなものじゃ」
それは予想通りの答えだった、自分でもわかっている。
「それでも何もしないでいるよりは……」
「じゃがのう、そのうち調査団が吸血鬼の存在に辿りつくかも知れぬ、お主が吸血鬼を使役している事を知られれば、捕らえられるじゃろうて」
さすがにそれはマズい。
「わかりましたしばらくは活動を自粛を………誰!?」
私は入口の扉の方に振り向いた。
私の聴覚が呼吸音を捉えている、そして私の視覚は意識すれば赤外線が見えるので壁を貫通して人型の形が見えていた。
そして嗅覚でわかった、そこに居るのはマイラである。
だがもう遅い、聴覚が走り去る足音を捉えていたからだ。
私はクラウディアに告げる。
「マイラに話を聞かれました」
「なんじゃと!?」
「ドアの前で立ち聞きしていました、衛兵を呼びに行ったものかと」
「聞かれてしまったものは仕方が無い、腹をくくるしかないじゃろ」
逃亡なんてする気はない、やましい事はしてないし。
私はあっと言う間に衛兵に囲まれた。
「エリス・バリスタ、国家転覆罪で逮捕する」
過去に人類を大量虐殺した吸血鬼を使役していたのだ、凶悪な殺人犯を使役していたのに等しい。
いやむしろ、個人で兵器を保有していたと言うべきだろうか、いわゆる反社会勢力と言う奴だ。
それに、今は無害ですとか、国に対して使う気はありませんとか言っても信用してもらえないだろう。
「妾も同罪じゃぞ、捕らえぬのか?」
「我々には聖女様の逮捕権がありません、しかし、この敷地からは出ないようご協力願います」
「事実上の軟禁状態と言うわけじゃな」
「そのように解釈して頂いて構いません」
私は縄で縛られ、拘束されていた。
「お前はこっちだ」
衛兵に強引に引っ張られる。
衛兵の傍にマイラが立っていた、マイラは私に向かって話しかける。
「やっと貴女を追放できたわ」
最初の頃は聖女見習いとか無理だから辞めたいとか言ってたけど、このような形で離れるのは不本意だ。
マイラの冷たい視線を受けつつ、私は何もできずに連行されて行くのだった。
刑務所に護送されると、私はアイテムボックスのアクセス権を取り上げられ中身を全部没収されてしまった。
身体検査を受け囚人用の服に着替える。
やたら狭い牢屋で正面は鉄の格子、壁が石造りになっており、地下牢なので窓が無い。
ベッドはクッシヨンも無いむきだしの木の板で、薄い毛布が一枚ある。
リーゼロッテに捕らえられた時よりはるかに劣悪な環境だった。
収監された私はベットに横になると毛布にくるまる。
この後、何日か取り調べを受け、その後裁判が開かれて有罪判決を受けると言う、決められたルートを辿るはずだ。
私は、前世で例えるならミサイルのボタンをいつでも押せる危険人物と見なされている。
無罪になって釈放と言う未来は最初から無い。
「なんかもう、破滅ルートましっしぐらって感じよね」
と誰も居ないハズの空間に語りかける。
「そうかしら? 逃げようと思えば逃げられるでしょ?」
いつの間にかリリスがそこに立っていた。
鉄格子ならば、以前魔法を使って溶断した事はある。
そんな事をしなくても、現在の私の身体能力なら鉄格子とか簡単に曲げられるけどね。
「そうだけど、ここで逃げても、一生逃亡生活になるわ」
「しばらくはここで大人しくしてるって事かしら?」
「そうなるわね」
「何か欲しいものがあったら差し入れするわよ」
「心配いらないわ」
と言って私はアイテムボックスから本とお菓子を取り出す。
「あきれた、アイテムボックスの中は全部没されたんじゃないの?」
「アイテムボックスを1個分だけ解放したのよ、99パーセント以上残ってるわ」
普通の人が1個のアイテムボックスを持てるとすると、私は数百人分のアイテムボックスが持てるのだ、アイテムボックスと言うより巨大な倉庫である。
没収される時、とっさに普通の人1個分切り離して解放したのだ。
「悪知恵が働く所が悪役令嬢っぽいわね」
「したたかと言って」
「元気そうで安心したわ、あとそろそろ貴女の呪いを解除しておこうと思うの」
カーラの呪いの事だ、呪いのおかけで適度なリミッターとして役立ってくれた。
「今のタイミングで?」
魅了はコントロールできるようになっているとは思うが、今居るのは独房だし、特に不都合はないけどね。
「今だからよ」
そ言うとリリスは光る魔法陣を展開して呟く
「呪詛剥離」
リリスの呪文に反応してキンと高い音が鳴り、私の体から黒い霧状のものが散って行った。
その時、体に変化が起きた。
髪の色が銀色に変化して、目は赤いルビーの色のようになっていた。
「目を閉じて、深呼吸して落ち着いて」
とリリスが言う。
言われた通りにすると、体の変化は収まって元に戻った。
「説明してくれる? 私どうなったの?」
「貴女の全ての力が解放されたのよ」
「呪いで私の魅力が下げられてるって言ったわよね」
「魅力だけ下がってるって言ってないわ」
「つまり?」
「全ステータスが下がっていたわ、リミッターに丁度いいって言ったでしょ」
「人間の300倍の魔力でも持て余してるのに、それを上回ったと言う事?」
「私の分だけで魔力3万程度かしら」
「そんなに?」
「私に魔人の格付けがあると言ったでしょう? 貴女のあの姿は上位魔人に匹敵する力があるわ」
「それに……」
「それに?」
「貴女リーゼロッテの血を取り込んだでしょ」
「そうね」
「リーゼロッテの魔力も上乗せされるわ」
「はい?」
そんな魔力なんて制御できるハズがない。
「正直、今の自分が制御できる気がしないわ」
「今の姿なら大丈夫よ」
「今の姿?」
「本当に力を解放した時の姿がさっきの変化した姿よ」
「変化した姿って?」
リリスは今の姿と変化した姿と言ったが自分で自分の姿は見えないので良くわからない。
「貴女、銀色の髪に赤い目になっていたわ」
「それって……」
「ええ魔族の特徴よ」
「え? 私って魔族になったの?」
「なってないわよ、私も驚いたけど一時的な変化だったわ、でも力を使う時にはあの姿になるでしょうね」
「どうしてそんな変化が……」
「リーゼロッテの血だと思うわ、魔人レベルの魔力に耐えうる体に変化したと考えるべきでしょうね」
「あれも吸血鬼の血の力なの?」
「そうね、あの姿にならなかったら自分の魔力に耐えられなかったかもしれないのよ」
「逆に言うとあの姿にならなければ今まで通りで居られるって事?」
「そう、いつのまにか貴女はリミッターをラーニングしたみたいなの、力の封印と解放ができるようになっている」
「意識して使い分けられるの?」
「そうよ、しばらくは瞑想でもして力をコントロールする事を覚えなさい、ここは静かでうってつけでしょ」
「わかったわ、特にやる事もないし」
リリスが私の力を解放したのも私を死なせたくないためだろう。
こんな状況にならなければ、解除するなんて言い出さなかったはずだ。
ともかく今はできる事を頑張ろう、私はそう決心するのだった。