学校の怪談
「幽霊?」
古くから出る幽霊なら1年生の時に噂を耳にしても良いはずだ。
でも、この学校に来て1年間そんな話は聞いたことなかった。
「あのね血まみれの女の幽霊が廊下を歩いていて、行き止まりの壁で、スゥーっと消えたんだって」
「その噂なら私も聞きました」
と隣のローラが話に参加して来た。
「やめてよ私、怖い話苦手なのよ」
リトが鳥肌を立ててそう言った。
(あんた男だっただろ、なんでそんな可愛い系女子になってんの?)
「これは真相を確かめる必要がありそう!」
とマリーは意気込んでいた。
確かに気になる、魔王が関係する事だったらクラウディアに報告上げないといけないし。
「じゃあ今日の夜、学校を探索してみない?」
とマリーが言うと
「無理!私はパス」
とリトが即座に言う。
「私達も訓練があるので参加できません」
キャサリンとウェンディは施設に召集されたらしい。
「夜間だと外出許可が貰えなくて」
とローラが言う
結局、私とマリーとアリエルで校内を捜索すると言う事になったのだ。
そして夜がやって来た。
校門に集合した私達は顔を見合わせた。
「どうするんだいこれ、セキュリティ用の結界が張られてて入れないみたいだけど」
とアリエルが言う
マリーが門に手をあてて何か呟くと門が開いた。
「セキュリティは解析済みだから大丈夫」
「解析できないはずなんだけどね」
とアリエルがあきれたように言った。
(まぁ、あのマリーなら楽勝よね)
我が家のセキュリティは学校より上位のセキュリティを使っている。
マリーはそのセキュリティを突破して全裸でベッドに潜り込む奴なのだ。
校舎の中に入ると真っ暗だった。
「わぁ何にも見えないね」
照明の魔法で照らされるのは数メートル程度なのでその先は全く見えない。
(まぁ私には見えているんだけどね)
ぶっちゃけると私には照明が不要だった、この廊下は突き当りまで誰も居ない。
マリー達は恐る恐る探索している。
私は最後尾をついて行った、先頭をスタスタ歩くと見えているみたいで不自然だし。
おそらく本命は2階だろう、私の人間離れした聴覚でわかる。
(足音がする)
2階に『誰か』が居るのは確実だった。
私達は1階の探索が終わり、階段を上って2階の廊下にさしかかると光で照らされた先に人影が見えたのだ。
マリーとアリエルは悲鳴を上げた。
そこには血まみれの女が立っていたからである。
私にははっきりと見えていた、その正体はリーゼロッテだったのだ。
『あんた何やってるの?』
『ご主人様に報告しに来たんですが』
『なんで血まみれなの?』
『激しい戦闘で体に穴が開いて再生したのと、相手の返り血を浴びたからですが』
『当たりを引いたのね』
『そうだお』
当たりとは上位魔人と遭遇したと言う事である。
『倒したの?』
『魔王の幹部クラスで苦戦したけど倒しました』
『詳しい報告は後で聞くわ』
人間の可聴域外の音域で話をしているため、この2人には話し声が聞こえていなかった。
さてマリーとアリエルには何て言えばいいのか。
「ここは僕がしっかりしなきゃ」
とアリエルが言うとリーゼロッテに向かって走り出す。
「とりゃあああ」
アリエルはリーゼロッテに殴り掛かかる。
私はリーゼロッテに
『やられたフリをしなさい、やられたフリ』
と指示を出す。
ペチッと全然迫力の無い打撃音が響いた。
「やーらーれーたー」
棒読みだった。
(おい!)
リーゼロッテはそのまま転移して姿を消したのだ。
「やったぁ、やっつけたぞ」
「さすがアリエル!」
と2人が喜んでいたのを私は温かい目で見守る。
「みんな無事でよかったわ」
私がそう言うとアリエルが
「ちょっと突き指をしたけど目立った怪我はないよ」
と言った
(え? あれで突き指するレベルなの?)
アリエルは外見通りの華奢な女の子の体力と頑丈さしかなかった。
立ち向かっていた勇気だけは称えたい。
この騒動は数日前、私が学校に遅くまで残っていた時にリーゼロッテが会いに来て、たまたま魔物の返り血を浴びた姿を目撃された事から始まったらしい。
こうして学校の幽霊騒動は幕を閉じたのだった。
「時間停止能力?」
リーゼロッテから今日の報告を受ける。
敵のスキル能力。
リーゼロッテが体に穴が開くぐらい苦戦した理由がそれだった。
魔王の幹部クラスになると時間停止までできるのかと驚く。
「良くそれで勝てたわね」
「私、死なないですから」
「死なないだけじゃ勝てないでしょう」
「連続使用は無理みたいなので、一定の間隔をあけないと再使用できないみたいです」
「それで倒せたのね」
「はい、後で美味しく頂きました」
私の正面に座っていたリーゼロッテが、いつの間にか私の隣に座っていた。
転移ではなく、時間停止だろう。
リーゼロッテは吸血により倒した魔人の時間停止能力の獲得と、ステータスの上乗せをしたのである。
今回は幹部クラスの魔人を倒し、リーゼロッテはその力を取り込んだのだ。
「また強くなったのね」
「停止できる時間は感覚にしてだいたい5カウントぐらいですね」
「あとご主人様の魔力供給や吸血の必要がなくなりました」
「貴女ついに吸血鬼やめたのね」
「吸血しないけど吸血鬼ですよぉ」
「いや、世間ではそれを吸血鬼と呼ばないから」
リーゼロッテの説明では魔人が魔力を生成するジェネレータのようものを取り込んだらしい。
それによって吸血不要で半永久的な魔力供給が可能になったと言っていた。
おそらく今のリーゼロッテは上位魔人より更に上の格付けになっているはずだ。
私から見ればポンコツなんだけどなぁ……