最終話 溢れ、そして
ブゥン、ブゥンン、ブゥゥンンン――
虫が舞う音がする。
それは、無数と思えるほど数多に、周囲一帯に弾幕を張るが如く、集まってくる。それらは、巨大な梨を取り囲んでいた。
数日前とは、もう、違う。
ところどころ破け、ふやけ、芳醇たる甘さと、薬品の匂いを、それは色濃く漂わせていたのだから。
虫たちは、まるで示し合わせたかのように、待っている。
日が、沈もうとしている。虫たちは、更に、外を外を、囲うように、集まってくる。
そして、日が、沈み――
ガサガサガサガサガサガサガサガサ――
一斉に梨に向けて飛び立った、無数に思える位に数多のそれらは、瞬く間に、梨を、喰い、消し飛ばした。飛び散らせることすらなく。
そして――風が吹く。一際強く。どうしてそんなに強く吹くのかと思う位に。妨げるものが何もないかのような、荒れ狂い、跳び散らすかのような、逆巻く渦の如き、風。
木々は、いつの間にか消えていた。病院は、最初からそんなもの無かったかのように、跡形も無かった。
四方。八方。遥か遠くに、それぞれに街の夜景が広がっていた。
やがて、日が、昇る。そこは、禿げた、荒れた荒野の岩場のような場所に姿を変えていた。何もかも、いなくなった。ただ一つ、白くも、茶色に錆びた、車の残骸を除いて。
それだけが、証人。物言わぬ証人。されど、証人。
だから、あながち、嘘とは――言い切れない。
これで完結となります。
如何だったでしょうか。
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