第五話 必然の欲望
「どうすれば……」
弱気が出たと共に、それに呼応するかのように、両足のふくらはぎに疲労を感じた。すると、息もあがってきた。
彼女をゆっくりと、置く。そして、地面に身を預けるように倒れ込んで、大の字になって、夕焼けの空と、赤黄金色に輝く草々と木々の葉を見て、大きく何度も息を吸って、大きく何度も溜息を吐くかのように、息を吐いた。
風が吹いてきた。きっと、森の向こうから。
そして、ゆっくり、吸って――漂ってきた、結構に甘い匂い。それは、少しばかり、薬のような、匂いがした。
すると――腹が、虫が、鳴った。大きく、ぐるる、と、唸るように鳴った。別に腹は痛くない。だからこれは、腹が空いた。そういうことだ。
起き上がろうとして、目の前に、梨があった。大きな梨だ。膝を抱えて座っているような、梨。強く、甘い匂いと共に、咽るように強く、薬品の匂いが混ざる。
気持ち悪く―…も、甘かった。咽せそうでも、それが気のせいに感じられるくらいに――心地よかった。
「『たべて、しまいたい』」
なれば自然と――声が、聞こえた。さも当然のように、当たり前で、耳障りがよくて、疑いようもなく、その言葉通りなのだと思った。
「『頭の中に浮かんでいるのでしょう。その通りになさってください。それ以外は、駄目、です』」
男は、むしゃぶりつくことにした。
がっつり抱えて、かぶりつくように、歯を立てようとして、それが、まるで空振るかのように、破れ、のめり込み、バシャン、と沈む。
どんどんと、全身が包まれてゆく。腰を越え、股下、太腿、へと。
頭が沸くように、甘美だった。
意識も思考もどうでもよくなって、蕩けてゆくように、沈んでゆき、そして――呑まれた。