庶民たちの恋路
初めての投稿です。誤字脱字はお目溢しを。
設定ゆるゆる。商売のこともさっぱりです。
暇潰しになれば幸いです。
最近、巷では貴族の婚約破棄が流行っている。実際に貴族の間で起きているわけではなく読み物として庶民のあいだで流行っているのだ。
普段の生活では貴族のキの字とも関係がない庶民にとっては王子様がお姫様を悪いドラゴンから助けだすのと大差ないファンタジーの世界だった。家同士の発展の為に結婚するなど理解出来ない。結婚式まで顔も見た事ない相手と添い遂げる?無理無理!といった具合だ。
――実際は顔を合わせたり手紙のやり取りや贈り物をし合うなど結婚するまでに徐々に信頼関係を築いていくものなのだが、それを知らない人々の間では顔も知らない相手と結婚するものだと信じられている。
なぜ庶民の私が知っているかというと家の関係で貴族の令嬢方と話す機会があるからだ。
では、私たち庶民はというと、好きだの愛してるだなどと囁き合い、翌日には違う人が好きになったと言って別れるような自由な恋愛を楽しんでいた。
そして、私は今現在、幼馴染の恋人に違う人が好きになったと言われている真っ最中だったりする。
「すまない!俺とは別れてくれ!!」頭を下げているのはさっきまで私の恋人だった男だ。その後ろには勝ち誇った顔をしている女がいる。
彼は頭を下げているから見えていないとはいえ、堂々とし過ぎだろうと突然の出来事過ぎて怒りの感情が迷子な私は呆然としながらその光景を見ていた。
そもそもここは学校の中庭で人目があり過ぎる。今は休憩時間中で人の往来も多く、この状況を他人に見られている羞恥心が沸き上がる。
どの感情を優先すべきかわからなくなり逆に冷静になってきた。
「わかりました。詳しくお聞きしたいこともあるので場を改めさせて下さい。これから我が家へお越しいただいてもよろしいでしょうか」
それでも混乱していたのか、いつも使わないような口調になってしまった。
「わ、わかった」
普段とは違う口調の私に大いにビクつきながら彼は了承した。
「彼女は同席しなくてもいいか?体調が、その…」
モゴモゴと何か言ってくる。
「かまいません」
彼女のほうを一瞥すると私があまり取り乱したように見えないのが悔しいのか、顔を歪めていたが視線があうと怯えたように視線を逸らされた。
とりあえず、この場から離れたかったので放っておいて動き出す。
彼は彼女に何か告げてから後を追ってきた。
ここは学校といっても読み書きや簡単な計算を教えてくれるところで午前中で終わる。少し余裕のある家の子供が通っているが、家の手伝いなどはあるので早退や休みは簡単に取れる。手の空いている教師に一声かければそれで済む。
私達もそれに習い、丁度騒ぎを聞いて駆けつけてきた教師に早退を告げて辻馬車で私の家に向かった。
終始気まずそうにソワソワしている彼と興味なさげに外の景色を眺める私と馬車の中の空気は最悪だった。
馬車の代金は彼に払わせよう。そんな事を考えていたら家に着いた。
「あれ?!お嬢さん!学校は終わりですか?早いですね」
我が家は商いをしている。店先にいた従業員に声をかけられた。
「ええ、ちょっと。客室を借りるわね」
「はぁ。あれ、坊ちゃん久しぶりですねー」
彼とも顔見知りの従業員は気さくに声をかけた。
「…こんにちは」彼は気まずいのか伏し目がちに挨拶を返した。
「あとでお茶お持ちしますね」そんな彼に気づいた風もない従業員はまた仕事へと戻っていった。
別にわざわざ客室じゃなくても良かったが自室に招き入れる気にはならなかった。
(ていうか、喫茶店で良かったわね。まあ、他の人がいない方がいいか。)
お茶を出してくれた従業員に礼をいい、下がってもらった。
………。
沈黙が重い。自分から話す気はないのかしら?黙り込んでしまった彼に呆れながら、お茶で喉を潤す。自分で思っていたよりも喉が渇いていたようだ。いつものお茶がとても美味しく感じる。
「それで?」俯いていた彼に言葉を投げかける。ビクッと肩を震わせた彼はやっと顔を上げてこちらを見る。
学校での威勢は何処に行ったのか、怯えた視線を向けてくる。
(そんなに怒っているように見えるかしら?)
「私と別れたい?なんで?」いつもの口調で尋ねると少しホッとした様子になり彼は語り出した。
曰く、君に落ち度はない。彼女を好きになった自分が悪い。君に相手にしてもらえなくて寂しい時に彼女に優しくしてもらって恋に落ちてしまったのだと堰を切ったように話し出した。
しかし、まったく要点を言わない。
「で?」
私はにっこりと聞き返す。彼がつらつらと意味のない言い訳を重ねてくる時は本当の疚しい部分を隠している時だ。
伊達に長年付き合っていない。
そんな私にまたビクッと怯えた様子を見せた彼は本当の理由を話し出した。
「彼女に…子どもが…」
うん。だろうと思った。
あの確信した勝ち誇った顔。彼と私が2人きりで話し合うこともすんなり許した。彼がまた私とヨリを戻すことは絶対にないと踏んでのことだろう。
それに、彼は私が相手にしないと言っていたが、家は近所で学校の行き帰りはいつも一緒、デートも良くしていた。離れていた期間はない。
つまり、彼の言う相手とはそういうコトの相手だ。
「あと1年で成人の儀式だと言うのに…」
成人の儀式とは街中で16歳になる子達を祝うお祭りのようなものだ。成人する子達は着飾り、夜通し踊ったり大騒ぎする。
成人したら結婚できるのでそのまま結婚式を挙げる人達もいる。
私達もそうしようと話していた。どんなドレスにしようかワクワクしていたのに、全てが崩れてしまった。
「だ、だって君が悪いんじゃないか!結婚するまでは清い関係だなんて!無理だよ!」
「はぁ?!あんたさっき私は悪くないって言ってたじゃない!!」
「うぅっ…。だ、だって彼女が絶対に大丈夫だって言うから…」
「そんなわけないでしょう?!」
この世界では恋愛は自由だが、子どもとなると結婚して自立してからが望ましいとされている。
子どもができるのは良いことだが生活能力のないうちに作ってしまうと白い目で見られてしまう。それでも、しっかりと自立し子どもを育てていけば認められるが、わざわざ茨の道を選ぶ者は少ない。そもそも避妊する物があるのに使わないのはなに考えてんだ?となる。
「とりあえず、別れたいこととその理由はわかったわ。別れるからもう私に関わらないでね。なんの関係もないんだから」
「もちろんだ」
「ではこちらの誓約書にサインしていただけますか?」
「あ、ああ…」
その場で紙に私に関わらない旨を認めた誓約書を書く。簡単なものだが、彼のサインと拇印を入れたので公式に認められるものだ。それを見届けてから彼に声をかける。
「それと貴方の家に貸していたお金の返済期間が過ぎているので早く返してくださいね」
「お、お金?」
裏返った声で彼は訊ね返した。
「俺はそんなの聞いてないぞ!」
「聞いていなくても証文がこちらにはあります。もちろん正式なものです」
「そんな…!!」
「貴方はご実家の経営状態を知らなかったの?数年前から経営が悪化していて赤字続きで、我が家に借金をしていたのよ?」
「経営がうまくいっていないことは知っていたが借金までしていたなんて…」
「我が家の稼業をお忘れですか?」
そう。我が家は貸金業をやっている。もとは輸入品などを扱っていたが珍しい輸入品でだいぶ儲けてそこいらの貧乏貴族よりお金持ちなのだ。そして、その貧乏貴族達にお金を貸したりしているうちに貸金業が主体となってしまった。輸入業も続けているし、もちろんクリーンですよ?
私が貴族の令嬢と面識があるのはその為だ。
うら若い乙女を向かわせれば利息とか安くしてくれないかな〜。といった感じで偶にご令嬢がお店に来る。その時の相手は大抵私だ。適当にお茶してあしらって丁重にお帰り願っている。
「それと結納金代わりに今まで利息を免除していましたがその分もキッチリ払ってくださいね。私とはもう関わり合いがないのですから」
先程の誓約書をピラピラ振ってみせる。
「そ、そんなことしたら家が潰れてしまうんじゃあ…」
「そう言われましても…私には関係ないので」誓約書を持っているのとは反対の手を頬にあて困ったように首を傾げる。
「早くお帰りになってご家族とこれから家族となる方とご相談したほうが良いかと思いますよ?」
「き、君は悪魔か!!」
「いいえ?小悪魔に下種な恋人を寝取られた可哀想な女です」
そう言うと悔しそうな気不味そうな顔をして私を睨みつけて帰っていった。
はあ〜〜……なんだかどっと疲れてソファに座り込むとお茶を出してくれた従業員が顔を出した。
「お嬢さん大丈夫ですか?坊ちゃん凄い顔して出ていきましたが。喧嘩ですか?」
「ん〜。ちょっとね」
私が幼い頃から勤めてくれている彼は私に過保護だ。苦笑しながら「捨てられちゃった」と呟くと、彼は顔色を変えて、あの野郎ぶん殴ってきます!と飛び出して行きそうになるのを押しとどめて父に話を通してくれるよう頼んだ。
そして、手紙を認め彼の実家に急ぎ届けてもらうように他の従業員に頼む。流石に彼に愛想は尽かしたが、彼の実家が潰れてしまえばいいと思っているわけではない。父が事の次第を聞いたら憤慨して潰してしまうかもしれないが…。
その前に彼に言ったように利息を払う必要はないことと返済期限も伸ばしてもらうように父に進言しておくことを先程の手紙に書いたのだ。
なぜ、わざわざ彼にはお金を返すように言ったかというと彼の新しい恋人は彼をお金持ちだと思っているようだった。彼にプレゼントさせたであろう彼の瞳の色の装飾品を身につけていた。それが実は借金塗れだとわかればどうするか…。
それに店を助けてくれた恩があり、利息免除の温情をかけた私を捨てるような彼を彼の実家がどう思うか…子供がいるから放り出すようなことはしないと思うが肩身は狭くなるだろう。
全てはどうなるかわからないけど、私のささやかな復讐だ。ソファに深く座り上を向くと頬を涙が伝った。それなりに彼に愛情は持っていたのだ。
扉がノックされ父の所に行っていた彼が戻ってきた。急いで涙を拭く。
「お嬢さん、旦那様が話を聞きたいとのことです」
「ええ、今行くわ」
廊下を連れ立って歩くと不意に彼が私の方を向き涙の跡を拭うように頬に手を添えた。
私がびっくりして固まっていると真剣な眼差しで私を見つめてくる。
「俺ならお嬢さんを泣かすようなことはしません。考えてみてくれませんか」
とだけ言ってまた前を歩き出した。
まだ固まっていると彼が振り向かずに「置いてきますよ〜」
といつもの砕けた口調で声をかけてくる。その耳は真っ赤だ。
私は少し微笑んで彼の後を追いかけた。
前半だけ書いてて結末をどうしたいのか忘れてしまったのでチグハグのところもあるかもしれません。
読んでくださりありがとうございました。