Mr.ロンリー
恒例通り、湯船に浸るQちゃんに質問する。ボケ防止のためだ。
「Qちゃん、子供の名前言えますか?」
「馬鹿言っちゃいけないよ。自分が産んだ子供の名前を忘れる親がいるわけない」
「まあ、そう言わずに答えてちょうだい。そのあとの質問もあるから……」
Qちゃんの口のとんがりが緩んだ。
「長男の〇〇、長女の△△、次女の□□、次男の◎◎」
少し間をおいてから確認する。
「それで終わり?」
「え?そうだよ」とQちゃん。
私の名前はない。三男のヤスヒロ。
まあ、いつものことだ。
悲しいかい?雨は降るかい?
Qちゃんに質問する。
「どんなお子さんですか?」
「いい子だよ、みんな。幸せだよ、Qちゃんは。ありがたいねえ」
いい子だよ、には私も入っている。いい子でなければきっとこういう答えにはならないだろう。
夢想する私に、Qちゃんが、いたずらっぽい笑顔を浮かべて言いました。
「なんてね。もう一人、三男のヤスヒロがいるよ」
って、Qちゃんが言うはずもない。
夢想する私に、Qちゃんが荒ぶる声で言う。
「お湯がぬるいんだよ。もう、出る」
私は出ようとするQちゃんの肩を押さえ、頭からお湯をかける。
Qちゃんは更に荒ぶる声で言う。
「何するんだよ。この犬畜生」
これこそが悲しすぎる、罪深い巻物だ。