不思議の国のQちゃん
「お前さんの将来の奥さんが今どこで暮らしているか、なんて考えたことないかい?」
どこで、いつ、Qちゃんが言ったのか、判然としない。暑い夏のことだっただろうと思う。だとすると、酷暑の定番、谷戸山公園の伝説の丘での出来事だったのだろうか。
Qちゃんは私が息子であるとは思っていない。そう思ったら、私と住むことはなかった。
Qちゃんは長男の再三の同居の誘いを断った。
「気を使って住むなんていやなこった」
それが拒否の理由だった。99歳で倒れるまで、一人で住み続けた。
そう言えば、同じようなことを悪友の友利が言っていたな。高校2年の頃のことだ。意外だったな。がさつな彼から聞ける言葉とは思えなかった。他に言いそうなメルヘンチックな男はいくらでもいたのに。
意外だ。
Qちゃんも。
40歳で離婚したQちゃんから、出る言葉ではない。たとえ、乙女時代のQちゃんが思っていたとしても。
私は返答はしなかった。
Qちゃんはそれを期待している風には見えなかった。眼前の風景と一体の静止画の中にいた。
質問は何だったのか。
単なる、不図思い出しただけの独白だったのか。
理解したくても理解できないこととの無限砂漠。