暴虐の盾
海岸に通じる道は通行禁止になっていた。
これでは、工事現場だ。一目見て、被災地と認識するのは不可能だった。
「ここで何するんだよう」Qちゃんの声が響いた。一瞬、私はここに来た目的を見失った。
「ほら、向こうに灯台が見えるでしょ。ここが塩屋岬だよ。美空ひばりのみだれ髪の場所だよ」
言葉は不思議によどみなく流れたが、心はざわついた。
これではダメだ。
ここは被災地なのだ。
正視しなければならないのだ。
Qちゃんも、私も。
「ここは3年前、津波に襲われた場所だよ。ここには家がいっぱい建っていたんだ。みんな津波で流されちゃった」
Qちゃんの様子を見ながら、一呼吸を置いて言葉を継いだ。
「……ここに住んでいた人は今、どうしているんだろうねえ」
何もない、透明な空気に語りかけるように、前方遥か彼方を見ながら私は言った。
少しの沈黙があった。
「……かわいそうに、天災だから、どうしようもないね、……かわいそうに」
Qちゃんもまた、どこを見るでもなく、呟いた。
「Qちゃん、亡くなった人の分も長生きしないと……。生きていることに感謝しないと……」
どうしても言いたかった言葉だ。いや、言わなければならない言葉だ。
「そうだね。ほんとに、そうだね」
自分の言葉を確認するようにゆっくり頷きながら、Qちゃんは言った。
言葉が浸みていく。Qちゃんに、そして、私に。
夜が迫っていた。
静かだ。実に静かだ。