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不思議の国のQちゃん  作者: 松澤 康廣
2/5

暴虐の盾

 海岸に通じる道は通行禁止になっていた。

 これでは、工事現場だ。一目見て、被災地と認識するのは不可能だった。



「ここで何するんだよう」Qちゃんの声が響いた。一瞬、私はここに来た目的を見失った。

「ほら、向こうに灯台が見えるでしょ。ここが塩屋岬だよ。美空ひばりのみだれ髪の場所だよ」

 言葉は不思議によどみなく流れたが、心はざわついた。

 これではダメだ。

 ここは被災地なのだ。

 正視しなければならないのだ。

 Qちゃんも、私も。



「ここは3年前、津波に襲われた場所だよ。ここには家がいっぱい建っていたんだ。みんな津波で流されちゃった」

 Qちゃんの様子を見ながら、一呼吸を置いて言葉を継いだ。

「……ここに住んでいた人は今、どうしているんだろうねえ」

 何もない、透明な空気に語りかけるように、前方遥か彼方を見ながら私は言った。


 少しの沈黙があった。

「……かわいそうに、天災だから、どうしようもないね、……かわいそうに」

 Qちゃんもまた、どこを見るでもなく、呟いた。

「Qちゃん、亡くなった人の分も長生きしないと……。生きていることに感謝しないと……」

 どうしても言いたかった言葉だ。いや、言わなければならない言葉だ。

「そうだね。ほんとに、そうだね」

 自分の言葉を確認するようにゆっくり頷きながら、Qちゃんは言った。 


 言葉が浸みていく。Qちゃんに、そして、私に。



 夜が迫っていた。

 静かだ。実に静かだ。



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