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8.再会の約束


「何故、魔法が使えないか?」


「そうだ。俺は生まれた瞬間から今まで、魔法のまの字も使えた試しが無い。

医者が言うには体に魔力は流れているそうだし、本も読んだし練習もした。つまり病気でも、努力不足でもない。なら真の原因は何だ? 

魔法のセンスが壊滅的にない――、今まではそれで一応折り合いをつけていたんだが」


俺の問いに、蛇型浮遊生物は裂けた口でにやりと笑った。


「魔法の生みの親、魔法を人間に与えたと言われる精霊なら、理由が分かるはずだって訳かい」


「そうだ。納得のいく理由があるなら教えて欲しい」


「なるほどなるほど。つまりキミはそんな自分でも魔法を使えないかと考え、別角度から魔法を調べているわけだね?」


「ああいや、それは違う。

俺のこの研究は、言ってみれば興味本位だ」


「あえ? なんだいそりゃあ? 言ってることが一貫してなくない??」


「…………そう、かもしれないな。

この質問は、俺と言うよりロニーのための質問なんだ」


「いや、ロニーはキミじゃないのかよ」


俺の支離滅裂な話に、蛇は表情豊かに眉を顰める。

だが俺がこうなった経緯を一から十まで説明する義理はない。


「詮索はいい。質問に答えられるのか? 答えられないのか?」


「………………」


蛇は無言で数度頷いた後、空中を縦横にくるくる回る。

口元を結び、何かを考えている風だ。


そう思って見ていると、蛇は俺の腹部に顔を近づけ「じゃ、おじゃましますよ〜」と言ってそのまま臍に食いついた。


「!?」


俺は驚いて、その場でのけぞる。

だが、食いついたかに見えた蛇は俺の体内に姿を消していた。……少なくとも、俺の目にはそう見えた。慌てて腹を手でまさぐるが、傷も痛みもない。

もしかして見間違いだったのかと思い、辺りを見回してもやはり姿はない。


「な、なんだ? おい、どこに消えた――?」


痛みはなくても、気味が悪い。内臓がもぞもぞとかゆい気がする。

必死で自分の腹に向けて話しかけるが、しかし返答は返ってこない。


俺はしばらく狭い洞窟内でクルクル回っている変人と化した。


3分程経って、ようやく蛇が感触なく俺の腹から姿を現す。

俺は出てきた箇所を思わず掻きむしった。


「……うるさいなあ、まったく。集中できなかったじゃないか」


「な、なにもいわずに、体内に潜り込まれたら慌てもするだろ……!?」


「お邪魔しますって言ったじゃん」


「説明をしろと言ってる。今、お前は、どこで何をしていた」


俺がそう責め立てると蛇は「まあそう慌てなさんな」と首を左右に振った。


「キミの質問に答えようと調べてあげてるんじゃないか。

ボクにはね、魔力の動きが目で見えるんだよ。空気中の魔力も、生物の中に流れているのもね。つまり世界の見え方が、キミらとはずいぶん違うんだ」


「…………魔力が見える?」


「そうさ。精霊はすごいだろ。褒め崇めたまえよ」


「だから、俺はお前をそうと認めたわけじゃない。存在を許容しただけだ。認めてほしかったら俺を納得させてくれ」


「んー、精霊相手にすさまじい上から目線! でも嫌いじゃないんだなあ、キミのそういう所。もっと仲良くなれそうな予感がするよ」


「いいから早く質問に答えてくれ」


「おっけー、おっけー。

実はもう残り時間があんまりないから、端的に言うね。

キミの言う通り、キミの中には魔力が人並みに流れている。あ、これは他の人と同じように、って意味だけど……、人と違うのは出口がない、ってことだ」


蛇はそう言って細長い体で丸を作って見せた。出口を表しているつもりだろうか。


「出口?」


「念入りに探したけどどうも間違いなさそうだ。

出口がなければ、外に出しようがない。中でずっとぐるぐるぐるぐる回り続けるだけ。つまりセンス云々、練習がどうの、知識がどうこうは関係ないのさ」


「関係ないって、それじゃあ……」


「ないものは仕方がない。

口のないワインボトルからワインを飲むことは出来ないだろう」


「ムカつくくらいお洒落な例え…………、じゃあ、どうして、俺には出口がないんだ」


「さあねえ、体質としか言えないかな。魔力の出口は、多くの人間にある器官みたいなものだから」


「つまり、やっぱり疾患ってことか」


「違うって。君は魔法が使えない体質、ただそれだけなんだって。太りやすいとか、背が高いとか、冷え性とかみたいに、身体的な特徴に過ぎない。そこに本来優劣はないはずなんだ」


「優劣がない……? 体質? ……はっ」


俺は思わず笑いをこぼした。

この魔法世界において、魔法が使えない俺が今までどういう扱いを受けてきたのか、どれだけ思い悩んできたのか、それを考えれば優劣がないなんて台詞は気休めもいいところだ。


あるはずの出口がない。なるほど、どおりで頑張っても頑張っても報われないわけだ。

生まれながらの欠陥品。結局そう言うことだ。

そしてそれは、すでに痛いほど思い知らされていた事実ではないか。


「…………つまりだ、どう頑張っても俺には魔法が使えない。

そういう事か、精霊」


「――お、あれ? 今精霊って呼んだ? もうボクのことを信用してくれちゃったの? キミの事だから、もっともっとごねると思ってたんだけど」


「まあ……、もうとっくにごね終えて、諦め終えてたんだからな。

それに第三者からのお墨付きが付いた。それだけのことだ」


俺はすこし考えた後、ため息をついた。


「――不思議とショックと言う気はしないな。

長年の疑問に一区切りついた、という意味では前進と言ってもいい。

言ったろう? 俺が魔法を使いたいから研究をしている訳じゃない。魔法が何たるかを解明できれば、俺自身がどうかは大きな問題じゃない。実験が多少面倒になるくらいか」


「…………ロニーちゃん、ロニーちゃん。

感慨深げにしてるところちょっと悪いんだけどさ、ボクの話まだ途中なんだよね」


「? 途中も何も、俺は今の解答で納得したんだ。もう根拠を求めるのも面倒臭いくらいにな」


「いやいや、ボクは体質として出口がないって言っただけだよ。

キミに魔法が使えないなんて言ってないぜ?」




「…………………………………………は?」




決め顔でそう言う精霊を、俺は理解不能と言う表情で見返す。

何を言ってるんだ、こいつは? こいつこそ言っていることが一貫していないじゃないか。


「話は最後まで聞かなきゃだめだよ?

魔法が精霊によって与えられたものなら、使えない人間がいるのはおかしいだろ?」


「…………いや、だって……、体質がどうとかいう話は……」


「出口がなければ、出口を作ってあげればいい。簡単な事だよ。ふぁあっと、失礼」


「い、言ってる意味が分からない……」


俺が右往左往する精霊の話に頭を抱えている所へ、精霊がフラフラと絡まってくる。

急に飛び方が危なっかしくなったのは、気のせいだろうか?


「次にここへ来るときに、今からボクが言うものを持ってきてほしい。

このあたりでも、手に入れるのはそう難しくないはずだよ」


「持ってきてほしい物……?」


「そう。それはね――――」


精霊はそう言って俺に耳打ちする。


「そんなものでいいのか、しかし何故?」


「ふぁああ、ごめん。説明してあげたいのは山々なんだけど、急に眠気が来ちゃってね。たいむりみっとらしいや。残念だけど詳しい話はまた今度。

でも久しぶりのお話楽しかったぜ、ロニー」


「眠いって……、いやいや、ちょっと待ってくれ」


「無理無理無理。消えちゃう消えちゃう」


精霊はそう言いながら水晶の方向へとゆっくりと漂っていく。

大きい眼もみるみる開かなくなってきているようだ。


「また来てよね、約束だよ」


「そりゃあ来るが……、じゃ、じゃあ最後にもう一つだけ!」


「もう一つ? 質問はごめんだけどもう打ち切りなんだぁ」


俺は水晶に吸い込まれようとする精霊の尻尾を掴む。

眠そうな瞳で精霊が俺をかえりみた。


「俺だけ名乗って名前を聞いてなかった。精霊じゃあ、今後呼び勝手が悪い」


「…………ああ! あははははは」


精霊は笑い、そして今更のようにこう名乗った。



「セイリュウ。それがボクの名前だよ。勿論呼び捨てで構わないからね」





俺がセイリュウとの邂逅を果たして、屋敷に帰る道すがら、俺は先の会話を脳内で反芻していた。


まさかこんなことになるとは思いもよらなかったが、もしかしてわりと奇跡レベルの幸運だったのではと思う。

精霊に出会い、知り合いになったなどと言うのは。


改めてヨハンがいなくてよかったとも思う。セイリュウの言い振りからすれば、奴の姿が見えるのは俺だけのようだ。その理由については考察の余地があるとは思うがとにかく、ヨハンの目の前で見えない相手と喋りなどしたら、頭を打っておかしくなった兄の印象が救えないレベルになるところだった。


とにもかくにも、次にまた祠へ赴いたときにはもう少し進んだ話もできるだろう。

持ってくるように頼まれた用途不明のお使いもあることだ。


あとはそう言えば、あの水晶の謎。

重力と魔力との関係性についても、検証しなおしたいところ――――、


「ん?」


ちょうど屋敷の前門に差し掛かるところで、中庭の方角から人の歓声が聞こえてきた。


どうせまたヨハンだろう、いつものことだと自室に戻りかけた俺は、そう言えばフィオレット嬢が来ていたはずではないかと思い出した。


昼食はもう取り終わった頃のはずだ。では中庭で一体何の催しが行われているのだろうか。

俺は珍しく興味を抱いた。



「一本! 勝者、ヨハン殿! これにて2勝1分けと相成りまして、ヨハン様の勝利でございます!」


中庭を覗いた途端、高らかにそう宣言する声が聞こえる。

見れば中央の開けた広場に立つ二つの人影、そしてそれを囲むように喝采を送る十数の影があった。


中央に立つ一人は我が弟ヨハンだ。

ヨハンはやや息を切らしながら目の前に立つ長身の男を見つめている。白みがかった金髪に切れ長の目、腰には遠目に見ても値打ち物と分かる剣を携えている。

見た顔だ。フィオレットお付きの、優秀な騎士と噂の男である。


二人の間に審判らしい男が立っている所を見ると、行われていたのは恐らく模擬戦だろう。


俺は広場の縁で、両親とフィオレットが手を叩いて観戦しているのを見て、なるべく視界に入らないように中庭に入る。

出来れば試合を見たかったが、タイミングが悪かったようだ。


木陰に入ると、試合を終えた二人の会話が聞こえてきた。


「お見事でございます、ヨハン様。

お噂に違わぬお力、わたくしマルドゥーク感服いたしました」


「感服……? 見え透いたおべっかって、僕あんまり好きじゃないんだけど」


「何をおっしゃいます。現にヨハン様は勝ち越されたではありませんか」


「手を抜いた相手に勝ち越しても嬉しくないよ」


「――おや、お気付きでございましたか」


マルドゥークと名乗った男は少なからず驚いた表情をヨハンへ向けた。

しかしそれは余計にヨハンの負けず嫌いを刺激したらしく、不機嫌そうに睨み上げる。


「馬鹿にしてるの? まあどうせ、気持ちよく勝たせるようにって言われてるんだろうけどさ」


二人の会話は大きな声ではなく、ギリギリ俺にだけ聞こえるくらいの音量だ。

父母やフィオレットからは二人が試合後の感想戦でも行っているように見えるだろう。


「気づかれないように気をつけていたつもりですが、なかなか勘のお鋭い。

しかし感心したということに嘘偽りはございませんよ。私と貴方の実力差は、年齢による差のみでしょう。あと数年もすれば、このマルドゥークは足元にも及びますまい」


「そんな慰めもいらないんだって……。ねえ、試合はもういいからもう一回本気でやろうよ」


「……それはいけません。万が一怪我をされたらどうするのです」


「ならそれが僕の本来の試合結果ってことだよ。誓う、僕が怪我をしても大負けしても、マルドゥークの責任にはならない」


ヨハンがそう食い下がる。

マルドゥークは困ったように笑った。


「負けず嫌いな所は、他の貴族の方々と同じですが、しかしその負けず嫌いさはあくまでストイックさからでしょうか。全く、騎士団にスカウトしたいくらいですよ」


「…………そんなのいらないよ。ねえ、じゃあこの場でなくてもいい、別の機会でもいいからさ」


「いえ、しかし……」


俺は木陰に隠れてヨハンの横顔を見ていた。


元々ヨハンは負けず嫌いである。いや、正しくは手を抜くことを許さない性格と言うべきだろうか。

ボードゲームや鬼ごっこだろうと、ヨハンは全力でやるように求めるし、ヨハンも全力を出す。まあ、どちらかと言うと俺の方が手を抜いてもらうべき側だったので、ああいったヨハンの顔を見るのは珍しい。

いや、ヨハンの事だ。この場に俺がいると知ったら、変に気を使ってこうも食い下がらなかったかもしれないとも思う。


「私が手を抜こうと抜くまいと、貴方が既に実力者と呼ぶにふさわしいことは明らかです。それで満足はしていただけませんか」


「嫌だ」


「ヨハン様……、わたくしの立場もお考え下さい。あなたに万が一のことがあっては、私がドーソン様やフィオレット様に叱られるのです」


「だからそれはないって。僕がわがままを言っているんだから」


「さて、困りましたね……」


マルドゥークは頭を掻き、何とも対処に困ったという表情でため息をついた。

そして左腰に差した剣の柄を右手でなでる。


「ではこのようにしてはいかがでしょう。

今夜、他の皆様が寝静まった後に裏庭で手合わせをするというのは」


「裏庭で? ここじゃなくて?」


「ここは夜とは言えど目立ちましょう。裏庭は生垣もあり人目を避けられます。まあ多少手狭なので気を付ける必要はありますが、そこでなら全力をお出しするとお約束いたします」


「言ったね。分かった、それでいいよ。

誰にも、フィオレットにも言っちゃだめだから。あ、あとロニー兄様には絶対」


「心得ております」


いや、聞いちゃったな……。

俺はそう渋い顔をした。


まあ俺が関わるような話ではないし、ヨハンが俺に見せたくない一面があるというのも分かる。もしかしたら夜に部屋から覗くかもしれないが、ヨハンの向上心を尊重するためにも素知らぬ顔をしておこう。


二人の所へ、ドーソンやフィオレットが声をかけに行ったのを見て、俺はそそくさと中庭を退散したのだった。


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