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3/3

やっぱりチートを貰っとけばよかったと思ったり思わなかったり



僕がアリッサに殴られてから、なんやかんやあって、場所を変え、僕たちは宿屋の一室にいた。


僕がしばらく生活するために取った宿である。



「……ごめんなさいっ!」



その部屋の床にわざわざ正座して状態で、僕を殴ったアリッサが頭を下げた。


まぁ、気絶といってもほんの数分だけだったみたいだけど……一体何があったのか当初は混乱したものだったが、アリッサとエミリンの二人の話を聞いて事態を把握した。


そもそもゲームの設定ではエルフは精霊という存在をとてもとても大事にしている。。


純血ではないが、エルフの血を引いているアリッサも例外ではない。


そしてエルフは、精霊の気配というものを感じる器官が備わっており、強い精霊ならば崇拝し、弱い精霊ならば庇護するという行動が本能レベルで行われるらしい。


そんな彼女が、精霊の気配が強いエミリンを見たらどう思うか?


まして、裸マント状態の彼女を連れまわそうとしている僕を見たらどうなるか?


結果、激昂して僕に殴り掛かってきたわけだ。



僕、アリッサに殴られて気絶

アリッサ、エミリンを保護しようとする。

言葉が通じない

エミリン、アリッサをかなり警戒

アリッサ、助けようとしたエミリンに怖がれて困惑

そして僕がエミリンを誘拐していたわけじゃないとここでようやく判断。



「いやまぁ……そっちも悪気があったわけじゃないのは理解してる。


謝罪は受け入れるから、そこまで気にしないでよ」


「……」



深々と頭を下げるアリッサを、エミリンは僕の背から恐る恐るという具合に見ている。


僕が起きてからずっとこの調子だ。


まぁ、エミリンにとっては唯一言葉が通じる僕は唯一の同胞なわけだからこの反応も理解はできる。



「それで……君はこの子のことをしっているの?」



ゲーム知識でアリッサのことは知っているけどここで僕が知っているのは不自然なので敢えて訊ねる。



「その……実は私、祖父がエルフなの。


だからその……精霊に関して凄く敏感というか……その子から、凄く強い精霊の気配を感じたの。


……どうしてそんな子がこんなところでそんな格好してるのかはわからないけど……」


「なるほど」



ゲームの設定とまったく同じか。


……しかし、これまでの経験からエミリンはアリッサの前では日本語を喋っていないようだ。


この世界、人類側は統一言語だから他の言語を話せばすぐに敵認定されちゃうから無理は無いだろうけど……



「えっと……この子は、昔色々あって言葉が喋れないんだ。


……その……この街に来る途中で僕が偶然保護して、で……その……服を買う途中で君に殴られたわけで」


「……本当にごめんなさい」



とりあえず適当にでっち上げた話だったのだが、アリッサはさらに深々と頭を下げた。



「……?」



言葉が通じないからエミリンは困惑した様子で僕とアリッサを交互に見ている。


そんな彼女は今、この辺りの子供なら普通に来ているであろうシャツとズボン姿となっている。


あまりいい生地とは言えないが、裸マントよりは数百倍マシだろう。ちなみに費用はアリッサ持ちである。



「とにかくさ、エミリンの服まで買ってもらったんだから、もう気にしなくていいよ」



僕個人としてはこれだけで十分だ。


なんせお気に入りのゲームのキャラだったわけで……殴られた時はちょっと腹が立ったけど、ここまで真剣に何度も謝られたら逆に心苦しい。



「いいえ、それじゃ私の気が済まないわ。


もちろん、どうこうしたところで私があなたにしでかしたことが無くなるわけじゃないけど……でもせめて、私にできることだったら何でも言って」



……なんとも日本にいた時なら盛り上がりそうなセリフをサラッというな。


でもこの世界で考えればその言葉はかなり意味合いが重いものだ。冗談なんかじゃないのは雰囲気で分かる。


……なら、ここで僕の選択肢は一つだけだろう。



「……だったら、僕とエミリンのパーティに仲間になってもらえないかな?」



殴られた甲斐があった。


そう思えるほどの幸運を手に入れた。



「あのひと……なんだったの?」



アリッサが出ていって、エミリンは日本語で僕に問いかけてくる。



「彼女はアリッサ。


今から3年以内に冒険者ギルドでAランクになる天才だよ」


「ぼうけんしゃ……?」


「えっと……とりあえず僕の知ってる範囲でこの世界のことを話すよ」



エミリンには僕が知っている情報をすべて話すことにした。


この世界があの邪神のせいでどんなことが起きているのか。


そのために統一言語と異なる言語を話すとどうなるか。


そして僕は邪神の思惑で、この世界をゲームという形で多くの知識を持っているということ。


ここで判明したが、エミリンはゲームのことは知らなかったらしい。


今時は小学生でもスマホを持っているのは珍しくも無いが、全員が全員もっているわけでもないから無理もないか。


そんなわけで、彼女はこの世界の知識というこの世界にやってきているであろう多くの転生者のアドバンテージがない。


……本格的に僕の存在って彼女のサポートのために送り出された可能性が高いな。



「じゃあ……さんねんごに……せんそう、おきる?」


「まぁね。


厳密には戦線拡大っていって、今も起きてる小競り合いの規模が大きくなるんだ。


そうなれば辺境の町も安全じゃなくなる」



今も王都を中心に展開されている神の加護という結界が弱まるのが、戦線拡大の最大の要因だ。


あのゲームがこの世界の今後何が起きるのかを邪神が予知した上で作成していたにしろ、あのゲームみたいに世界を動かしたいという考えがあるのかどちらかは不明だが……結界が弱まるということは絶対に起きるだろう。



「それまでに僕たちにできることは三つある」


「みっつ?」


「一つ、物資を溜めて、戦争から遠い隠れ家を作ってそこで暮らす。


二つ、この街で力を蓄えて人類側として戦争に参加する。


三つ、魔族側に逃げ込んで保護を求める」



いわば中立、人類、魔族……どう振り舞うかを考えなくちゃいけないんだよね。



「……どれがいいの?」



見た目通りの子どものエミリンは首を傾げる。



「現段階ではなんとも。


とりあえずは何をするにも僕たちはお金も力もない。


そこで提案だ。


エミリン、僕と契約を結ばないか?」


「けいやく……?」


「さっきも説明したけど、君は精霊で、精霊以外の種族に力を与えられる。


その代わりにエミリン、君は僕と離れて行動することはできなくなる。


その力を僕がもらう代価として、君が街で生活できるように最大限サポートするし、君の望みもできる範囲で叶える」



今は何より力が必要なのだ。


そのためなら心苦しいが、この子を利用だってする。



「……うん、けいやく、する」



――よし!



僕はエミリンから見えない角度で拳を握った。


これで力については解決する。


精霊の契約方法はゲームで描写されていたので僕でも知っている。


お互いに触れ合って名前を呼ぶだけ。


で、早速試したわけなのだが……



「……?」


「……あっれぇ?」



結果、何も起きなかった。


そして僕は冷静にゲームでの描写を思い出す。


……確か、お互いに触れ合った状態で魔力を流し合って名前を呼ぶ……ってのが具体的な内容か?


……魔力?



僕はそこでふと、自分のステータスを思い出した。



MP:0


MP=マジックポイント=魔力


魔力、0



「あの邪神めぇ……!!」



まさかの初期ステータスの圧倒的な低さのせいで契約ができないとは……!


ゲームでは子供の精霊契約者だっていたのに、僕は子供にも劣るってか……!!


まぁ確かに魔力が0なキャラは珍しくも無いけど……!



「あの……わたし、どう、したら?」



当初の予定と違う事態に戸惑って涙目のエミリン


うっ……利用しようとした手前、罪悪感が今更ぶり返してきた。



「……ま、まぁ……契約はできなくてもエミリンは魔術師としてみれば十分に強いはずだよ。


ゲーム知識だけど魔法の使い方も教えられるし……お互いに支え合って頑張ろう」



……まぁ、契約は結べないにしても戦う力が無い僕と、街中で生活していくための言語能力の無いエミリンは一緒にいるのがベストだろう。


そもそも彼女は十一歳


本来であれば親の庇護下にいるのが当然の子どもなのだ。


自分が死んだという自覚がなまじある分、余計に辛いだろう。


ここは年長者として、僕がしっかりしなくては。



「まぁとにかく、僕はこの世界についてはかなり詳しい。


唯一不安だったことはエミリンが協力してくれればそれで解決する。


幸先のいいことに、味方になって欲しかったアリッサとのパイプもできた。


良いこと尽くめで事が進んでいる」


「……ほんとう?」


「ああ、本当さ。


とにかく、今日はこのままエミリンもこの宿に泊まりなよ。


ただ、あくまで兄妹ってことで同室になるけど我慢してね」


「……きょうだい?」


「ああ、えっとこっちの言葉だと……」



無意識に言語が勝手に切り替えられていたが、こうして改めて意識して話そうと思うと、自然と言語が頭の中で浮かび上がる。


その言葉を改めて日本語でエミリンに伝える。



『お兄、ちゃん?』


「そうそう、とりあえず他に人がいる時は僕のことをそう呼んで。


他にも必要な言葉はこれからゆっくり教えていくから。


それまでは僕からあまり離れないように。わかった?」


「わかった」





そして翌日


僕、エミリン、そしてパーティを組むこととなったアリッサの三人で、町から少し離れた場所にある森にやってきた。



「じゃあ、森に入る前に、アリッサが受けてくれた依頼内容を詳しく聞かせてもらっていい?」


「ええ。


森に出現する“バイトボア”の討伐よ。今はまだいいけど、夏以降は森を出て、牧場の柵が壊したり、畑や稲が荒らされるから、定期的に駆除して数を減らしすのよ」



バイトボア討伐はゲームでは初心者向けクエストという扱いだった。


装備も金も少なかった時は周回していたものだ。


ひとまずは事前に持っておくべきであろう装備として、僕は丈夫な靴に革製の鎧、そして素人な僕でも振り回せる軽い短剣を装備。


エミリンにも防具を買おうとしたが、こちらはアリッサが用意。


少しでも彼女の機嫌を取りたいという下心があったようだ。


まぁ、未だにエミリンが僕から離れずにアリッサから隠れるように立ち位置を調整しているあたり、効果は薄いらしいが……


ひとまず、森の中での狩りに慣れているアリッサに僕たちは着いていくという形で森を進んでいく。


移動の途中で僕はエミリンに依頼の内容を小声で教える。



「……いた、あれよ」


「よく見つけられたね、凄く遠いのに」


「弓使うならこれくらいは普通よ」



アリッサが指さした方向に何があるのか見えなかったが、目を凝らすとステータス画面が表示され、その方向に三頭のバイトボアがいることが確認できた。



『……どこ?』



エミリンも見つけられなかったようで、小声で僕に訊ねてくる。



『僕が指さす方角にいる』


『まほうで……たおしてみる』


『それはいいけど……ここからだと少し遠いし、もうちょっと近づこうか?』


『だいじょうぶっ』


『……わかった、ここは外だし、思い切りやってみな』



昨日の時点でちょっとだけ魔法の練習をさせて成功したのが自信につながったようだ。



「アリッサ、エミリンに魔法を試させたいんだけどいい?」


「別にいいけど、もっと接近する?」


「本人はここからやる気みたいだし、ちょっと様子を見てみよう」



魔法使いが魔法を使う場合、魔力をどう使うか設定するのが詠唱だ。


しかし、精霊とその契約者の場合はその設定を詠唱ではなくイメージで発動させられる。


もっとも、その場合は属性が限られるのだが……エミリンの場合は転生特典もあってそれは例外。


固有スキルの四大の加護で地水火風が使いこなせる。


そんなエミリンのことだ、きっとここからでもバイトボアを倒せる方法を子どもの柔軟な発想で思いついたに違いない。


エミリンは目を細め、僕が指さしたバイトボアがいる方向に手をかざす。



「ふんっ!」



鼻を鳴らすみたいな可愛らしい力み方だった。



――次の瞬間、空気が爆ぜ、熱風が僕の頬を撫でる。



「「え」」



僕もアリッサも、その瞬間はエミリンの方を見ていたので、何が起きたのかよく見てなかった。


見てなかったが……今、僕たちの前方を向くと……先ほどまで木々や草が生い茂っていたはずなのに……焼けて黒く変色した地面だけが広がっている。


遮蔽物も無くなって、僕でも状況を理解できる。



「も、森が……爆発、した?」



隣で唖然とするアリッサ


前方数百mの森が放射状に消されたのだ。それも、たったの一瞬で。



『できたっ』



エミリンは満足げな表情である。


そして僕はというと……



「……よし、逃げよう」



即座にエミリンを抱きかかえて来た道を逆走することにした。

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