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prologue

また一日が過ぎた。

 過ぎてしまった。

目に入る参考書たちが俺への罪悪感をあたえる。机の上には白紙のページだけがひろがり、その上に長方形で手のひら大の凹みが、今日何を犯してしまったのかを示していた。

 「今日ももうこの時間か。」

 今日も意味のない時間を使った。何もやらなっかった。破り捨てられた大量の勉強計画表が溜まっている。計画表にはガリ勉やアニメの生徒会長がやっている様な「勉強」か「食事」か「睡眠」というような現実では出来ない様な、真実味のない日程が書かれていて、誰もが無謀だとしか思わないと思う。

 「朝はできると思ったんだけどな。」

 俺はもうこのことが当たり前の様になってしまった。毎日意味のない予定を書いて、だらけて、破り捨てて、また同じことをして、自分でもやれば国立、やらなければ専門学校。自分では分かっていても、繰り返す流れ。

 「宿題もまだ残ってるや。ははっ。これじゃあどうしようもないじゃないか。」

 GWも今日で…。俺は何をしたいんだろう。大学に行きたいんじゃないのか。自問自答したって不真面目だから無理という答えに行き着く。

 「宿題おわらせないと。」

 俺はペンを握る。百均の安物にシャー芯の出が悪く時々俺をイラッっとする。でも続ける。終わったのは午前2時になってだった。


 GWが終わり、また七日二休制の日常が始まった。校門を自転車で通り過ぎ、駐輪場に行き、みんなの楽しそうに会話している傍を羨ましがりながら通り過ぎ、昇降口で先生に挨拶をして、クラスに向かう。クラスに入ってからは、英語を勉強し、始業のベルを待つ。これが俺の日常のはじまりだ。この間に会話をしない。


毎日見栄を張って、努力家の仮面をかぶって。


…寂しさを紛らわせて。



 「おいおい、無視すんなよ」

 「あっごめん。なんて言ってた?」

 「GWなにしたかって話だ。俺は―」

 こいつは安彦(あびこ) 竜星(りゅうせい)。2年でありながら現テニス部の部長で、斉王高校テニス部のエースだ。テニス部では常に筋トレ、基礎練、仲間の指導と部長がするべきことをそこはかとなくこなす。部員からの信頼も厚い。

 「―からのそのアメリカ人と腕相撲することになったんだが、そこで日ごろの筋トレの成果かな?」

 「『勝っちまったんだよな』」

 「何で分かったんだ?お前もしかしてその傍にいたか?」

 「いなかったよ」

 「じゃあ何で」

 「また部活の話でしょ。」

 俺はこの部活をやめている。理由は単純にテストが酷かったからなんだが、部活で孤立していたから辞めたと勘違いして、こうやって時々俺を部活に連れ戻そうと部活の話にもっていく。俺は部内最弱だったし、呼び戻す意味もないと思うんだが、なんでこうもしつこいんだ。

 「…本当に戻ってきてくれないか?戻ってきたら歓迎もするし、前と変わらないように接してやるぞ」

 「ごめん。勉強しなきゃならないし。俺弱いし」

 「…そうか。まぁ、いつでも戻ってきたくなったら言えよ」

 「わかった。でも多分ないと思うけどね」

 俺は机に向き返りまた勉強に戻った。


キーンコーンカーンコーン。

4限まで授業が終わり、学生の皆様お楽しみ昼休みとなりました。周りはある程度まとまっているご様子ですが、俺は一人です。孤独です。悲しい。これも俺にとってはあたりまえなんだが、寂しものは寂しい。

 「津川」

 「土已どうした?」

こいつは土已(どい) 絢斗(しゅんと)。口数が少なくいのだが、俺ほど人間関係がない訳ではなく、女子といることが時々ある。何故かは低身長でかわいいからとしか聞いたことがない。

 「ちょっと来てくれ」

 「どこに?」

 「図書室の棚の上段に手がとどかない」

 「わざわざ俺に頼まなくても、周りに頼めばいいじゃないか」

 「女子しかいない」

 「あらま。流石に女子には頼めないよな。分かった行こう」

 「助かる」

 ちなみに土已の身長について触れることはタブーだ。本人は自分の身長をコンプレックスだと思っていて、一気に機嫌が悪くなる。まぁ言わなければいいんだ。簡単なことだ。


 図書室に近づくと安彦と女子が声を荒げて言い争いをしていた。

「俺はお前を幸せにする。幸せにするならなんだって」

「だから私には好きな人がいる!何度言えばわかるの」

うへぇ。部長プロポーズ失敗してんじゃねえか。南無三。とりあえずこういう時は何も見ていなかったことにしていた方がいい。

「津川行くぞ」

「えっ。行くって、ゴフゥ!」 

土已は俺のシャツをきっちりつかむと俺を引きずりながらその言い争いの現場へ向かってしまった。


俺は土已に引きずられて、二人の目の前まで来てしまった。ここに来たらもうわかる。この二人本気だ。本気で付き合いたい、振りたいと戦っている。

「こんにちは~」

まずい。まずい。俺はコミュ障だぞ。俺に告白したこともないし、恋さえしたことがない。そんな俺にこの修羅場をうまく乗り越える手段持ってるわけがないだろう。なんでつれてきたぁ土已ぃ

「土已。なんでお前がここに来た。渋谷(しぶや)さんに好かれてるからって、俺をあざ笑いに来たのか!」

「土已くん。コイツに私を取られたくないからって、私を取り返しに来てくれたんだね。大丈夫私はどんなことがあっても土已くんのものだよ」

土已ってこんな美人に好かれてるのか。知らなかった。それも相当な。よく部長もこの人にアタックしたな。こんなに完成しているのに、無謀すぎやしないか。

「安彦。津川」

土已は俺が何か重要なものでそれを気づかせるかのように俺を指さした。

「あっ津川。なあどうしてお前は部活をやめたんだ。教えてほしい」

「何でって―」

俺と目線を合わさって微動だにしてない。真剣だ。もしかして俺の部活を辞めた理由に何かしらあるのか。でも理由ってただ単に、

「国立大に合格できなさそうだからかな。部長に問題があったわけじゃないよ。逆に俺まで気遣って話しかけてくれたじゃないか」

「俺に不満とかは」

「ないよ」

そのやり取りを聞いたその女子がこの話にやりとりに横やりを入れてきた。

 「でも何かしら不満はあったんじゃないかな。例えば、サボっているときがあるとか、出来ない事を強制するとか」

 「後者は時々あったけどそれは逆に俺がサボってた時だった気がする」

「なんでもいいよ。なんでもいいから、なんでもいいから」

「ないですって」

安彦は本当に素晴らしいい部長だと思うよ。俺に不満なんて。

「だろ。俺は誰にでもやさしい完璧な男子だってわけだ。渋谷さんに言われた完璧男子になるという目標は達成したはずだ」

「いったけどね。でも」

「安彦が正しい。安彦は完璧男子。津川にも理由がある」

「でも津川はやめ―」

どうにか火が女子、えっと渋谷さんだっけに移ったっぽい。これで俺は教室に帰れる。俺に色恋沙汰はごめんだ。もどって勉強に戻ろう。俺はこそーっと逃げ出そうとしたが、

「津川くん今聞いた?今津川くんを変人ていったよコイツ」

「言ってねぇって。おれはただへっへ…」

「変人ていったよ。今の発言は完璧男子としてどうかな」

「大丈夫です。俺は気にしてないですから」

俺は本当に気にしていないから言ったのだが、

「もしかして津川くんって不満があるのに隠すタイプなのかな」

「いや本心から…」

「嘘だよね。実は不満があってもコイツをよく見せるために隠してる」

渋谷さんの目が怖い。嘘はついてないのに自分が本当は嘘をついているかのようにおもってしまう。

「津川て結構正直者だよな。」

「津川は正直」

逆に男からは俺を持ち上げられる。なにこれ。

でも幸運なことにこの時に昼休み終了のチャイムが鳴ってくれたので、俺はこの修羅場から解放された。


 俺の目には信じられない事が黒板に書かれているように見えた、修学旅行実行委員に土已、安彦、渋谷、俺。なんだこれ。てか渋谷さんってうちの組だったのか。じゃなくて昼の修羅場がまだ続くのか。なんで続いちまうんだ。土已くんはこのことに乗るわけがないだろう。どうして。委員会は週一回。嘘だろ。

 「先生なんで俺が実行委員に入ってるんですか」

「仕方ないだろう。3人から推薦されてしまったんだからな。」

先生は俺とは顔を合わせず窓の方を向いていた。言いぶりからは関係ねーよと言うよりは関わりたくないってオーラが出ていた

俺が席に戻る為に後ろを向いた。気の毒そうな視線が向けられる。なんでこうなった。

俺は運命を呪った。クラスを呪った。しかしこの少し先に本当に呪いたいと思うことが起こるとはこの時の俺は思いもしなかった。


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