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第17話 デート四回目(調べる2)

カレーを全部平らげると、さすがに、腹が張り裂けるかと思った。

 リンに、


【カレーありがとう。うまかった。】


 と、弟に言われたとおりにメールをしてから、寝て。

 翌朝は、腹が重いからか、久々に朝練の時間に目が覚めてしまった。

 ベッドから出て、ジャージに着替えてなるべく静かに家を出る。

 人も車もいない道路で、念入りに柔軟をしてから走り出す。

 家から出発して、住宅街を抜けると、すぐに畑と田んぼが広がり始める。

 コンクリの道の上を駆ける音と、遠くに見える山からだろう鳥の声しか聞こえない。

 あとは、二ヶ月ぶり、ちゃんと身体を動かしている俺の情けなく上がった息。

 少しペースを落として進み、もう、ひと月前に待ち合わせした神社に着く。

 見上げると雲ひとつない青空で、だからか、背中に汗をかいている俺は上着を脱ぐ。

 鳥居の近くにある自販機で水を買い、そばのベンチに腰掛けた。

 ぐるりと辺りを見回し、青空と林と鳥居と、遠くの山を見る。 

 俺には、いつもの景色で、田舎なんだろうなと思う。

 

……でも、彼女は、どう言うのだろう。

 

昨日は、とても近い隣に入れた、触れることが出来た。

 

……すごく、幸せだった。

 

素直に思い、どうして、お姉さん、一条桃子さんと居ると素直に何でも言えるのかと思う。

 

……言いたくなるのだ、自分を、知って欲しくなる。

 

彼女のことを知りたいぐらい、俺のことも知って欲しい。

 

……好きだと、分かったけれど、こんな気持ちになるなんて。

 

もっと、知りたい。もっと、近くに居たい。もっと、触れたい。

 ……こんな、欲、ばっかりでいいんだろうか。

 

そう思ったとき、腕時計が七時を知らせてくれ、俺はベンチから立つ。

 ストレッチをし、水を飲み干して、自販機の隣のゴミ箱に入れようとしたとき。


「何だよー、自主練してるなら、誘ってくれればいいのに」


 振り向くと、やっぱり、今日も人の良さそうな笑みを浮かべた園田がいた。

 俺と同じジャージ姿で、くやしいけれど、額に汗はなくつらそうな顔はしてない。


「練習、まだ再開してないからさ、身体動かしてないと俺らって落ち着かねえよな」


 俺は、ぼこんとゴミ箱にボトルを入れ、何も言えない。

 

……園田は、俺と違ってとても綺麗だ。

 

そう思い、「あっ」と声を上げた。


「ん? もしかして、リンが、昨日泣きながら電話してきたことか?」


 「えっ」と言うと、園田は「やべ」と背中を向け走り始めた。

 俺は後を追い、隣に並ぶと、園田は速度を緩めて言った。


「リンにやめろとか言うなよ、俺に、お前のこと相談してきてる」


 「何で」と言う前に、園田はスピードを上げる。


「それは、俺の口から言えないし、お前がいい加減気づけ」


 「じゃあな」と、言った背中に手を伸ばす。


「おいー、俺は、何も言わねえぞ」


「……なあ、園田はさ、……誰かを、好きになったことねえのか」


 止めた園田が、変な顔をして、俺の額をべしりと平手で殴った。


「保育園のときは同じ組のさくらちゃん、小学生のときは隣のクラスのるりちゃん、中学生のときは一学年下のあすかちゃん、告白はしてねえけどな」


「お前、理想が高いんだな」


 園田が名前を出した子はうとい俺でも分かるぐらい、そのときのアイドル的存在だ。


「うるせえ、初恋が、あんな美人のお姉さんの奴に言われたくねえ」


 言葉に、少しして、顔がめちゃくちゃ熱くなる。


「しかも、なかなかいい感じだろ、爆発しろ馬鹿」


 俺は顔を下に向け、園田の声を聞く。


「いいよなあ、幸せものは、いちゃいちゃ出来るとかうらやましすぎるわ」


 「いちゃ」と声に出て、俺は、思い出す。


「……恋人、居る人だから……」


「そんなの、居ねえのと一緒じゃね」


 俺の小さな声に、園田の明るい声が重なった。


「だって、二ヶ月前に姿を消したんだろ、それって、お姉さんを捨てたってことと一緒じゃねえの」


「……でも、この町に居るってメールが……」


「この町のどこかも言ってないんだろ、そんなの、まともな恋人同士でやることかよ」


「……信じて、この町に来たのにか」


「あのな、お姉さんは、自分が捨てられたのが分かってるから、恋人のことを話すときに悲しい顔をするんだと思うぞ」


 俺は、園田の顔を見つめ、本当に思う。


「……お前って、すごいな、なんでそんな色々分かるんだ」


「俺は、マウンド全体を見るのが仕事で、お前は、バッターだけ見るのが仕事だからな」


 「なるほど」と言うと、園田が吹き出した。


「健太郎って、本当に、変わらないよな」


「……変わったよ、……今日、久々に身体動かして、めちゃくちゃなまってる」


「そっちじゃなくて、思考回路が子供の頃から一緒で、すげえシンプルでいいってこと」


「それは、馬鹿ってことか」


「ちげーよ、純粋ってこと、綺麗な心の持ち主ってことだって」


 ばんと背中を叩かれ、「お前のほうこそ」と言う前に、


「だからさ、心配だからさ、放課後付き合ってやるよ」


 そう言われ、「何が」と聞くと、背中をばんばんと叩かれた。


「お姉さんが探してる待ち合わせ場所、見つけとこうぜ」


 俺が返す前に、園田は真面目な顔で続けた。


「お前、もっと、自分に自信持っていいと思うぞ」


 首を傾げると、「やっぱ、ムカつくからいいわ」と、もう一回背中を叩かれた。


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