第11話 デート三回目 (反省と準備2)
カレーを一皿半食べさせられ、片付けをして、棒付きのアイスを渡され向いあって座ると園田がぎろりとにらんできた。
「で、どこで出会った、まさか、ネットの出会い系とか言わないよな」
アイスを俺に向け言う顔は、好奇心に溢れている。
「……おじさんの、店で」
「まじかよ、いつだよ」
「……九日前」
「まじかよ、細かいな」
「……会ったことがあるのは、四日」
「だから、細かいわ、てか何で会ってんだよ」
俺は、少し置いてから、とても重く感じる口を開く。
「……二ヶ月前、いなくなった、恋人を探すのを手伝ってる」
園田は目をまん丸にしたあと、アイスをかじって、言った。
「恋人いるのかよ、てか、そいつの名前なんて言うんだよ」
俺が「分からない」と返すと、もう一度アイスをかじって言う。
「じゃあ、どうやって探してるんだよ」
俺は、話すかどうか迷い、とりあえずアイスをかじる。
「あ、【永遠に八時を指す壊れた時計台】で、待ち合わせしてるとかか」
「……お前、なんで分かったんだ」
「健太郎、お前は、もう少し分かりにくくなれ」
ぬるい目を向けてくる園田が、食べ終わった棒で俺を指す。
「じゃないと、いいように利用されて終わるかもしれないぞ、一条桃子さんに」
「終わる」とつぶやき、首を傾げると、園田が大きく息を吐く。
「お前さ、人探しさせられてるだけで、いいのか? お前、そこまで考えてなかっただろ?」
その通りの俺は口を開けず、園田は棒をくわえて続ける。
「お前のことだから、頼まれて、ほいほい引き受けたんだろ」
「違う」と言うと、園田の口から棒が落ちる。
「……ここに、……人探しに来た事情を聞いて、俺から、協力したいって言った」
「なんで」と言われ、俺は正直に言った。
「彼女の、悲しい顔を見たくなかったから」
少しして、園田が椅子から立ち上がり、背中を向ける。
「どうした」と聞くと、
「お前こそ! どうしたんだよ!」
ぐるりと振り向き、真っ赤な顔をした園田が叫んだ。
「何で、いつの間に! 大人の階段ひとりで上ってんだよ!」
意味が分からず、首を傾げると、顔色が戻った園田がどすんと椅子に座った。
「園田、何か知ってたら教えてくれないか」
「健太郎、場所、見つかってもいいのかよ? 一条桃子さんが、恋人と会ってもいいのか?」
言葉に、べちゃりとアイスがテーブルに落ちる。
園田が立ち上がり、台拭きで片付けながら言う。
「お前さ、もしかして、自分が恋してんの分かってないのか?」
言葉を何度か頭でくり返し、口を開く。
「園田、そんな恥ずかしいセリフ、よく言えるな」
「さっき、悲しい顔を見たくなかったから、って、俺よりめちゃくちゃ恥ずかしい告白してたお前に言われたくねえよ!」
「告白」と首を傾げると、園田は大きく息を吐き、背中を向けて流しへ向かった。
「健太郎、お前はさ、子供から老人まで男女関係なく優しいけどさ、今、一番、優しくしたいって思うのは誰だよ?」
質問に、先ほどの泣き顔が頭に浮かび、答えを返さなかった。
「それが、恋してることなんだと。情けないけど、弟が言ってたわ」
ざあざあとふきんを洗いながら、園田は続ける。
「俺はさ、お前は、リンだと思ってた」
「リンは、もうひとりの弟だ」
「リンは、そう思ってないと思うぞ」
どういう意味か聞く前に、園田が戻って座る。
「さて、健太郎、これからどうするんだよ。お前は、一条桃子さんとどうなりたいんだ」
向いから、まるで父親の様に聞かれ、答える。
「俺は、協力したいと思う、悲しい顔をさせたくないから」
「恋人と会うことになっても、いいのか」
「仕方ないだろ」ともらすと、真面目な顔をしていた園田が笑みを浮かべる。
「良かった、お前って、何か普通の男子離れしてるから」
「俺は、普通より劣ってる」
「劣ってないから、あんな、綺麗で大人なお姉さんに頼りにされてるんじゃねえの」
「そんなことはない」と言うと、園田が、「いいことを教えてやろう」と言い続ける。
「うちの母親が、ふたりを見かけて、すごく健太郎を頼りにしてるように見えたってさ」
「……それは、俺が、この辺りを知ってるから」
「喫茶店で会ったんだろ、じゃあ、何でおじさんに頼まなかったんだよ」
「……それは、俺が、暇そうに見えたから」
「お前から協力するって言って、お願いしますって言われたんだろ?」
俺は、何で知ってるんだと思いながら、頷く。
「なら、お前のこと頼りにしてるってことだろ」
「それは」と言うと、「面倒くせえな」と言われる。
「恋してるお前、うざいわー、いつも強気な主将だったくせにな」
にやにやしている顔から、テーブルに視線を落として言った。
「だから、俺は、ダメだったんだ」
「なんでだよ、だから、『あいつら』以外の一年と二年で練習拒否してんだろ」
驚き、首をもたげると、園田の真面目な顔があった。
「事情が分からなくても、『あいつら』の態度見てたら、何があったかは察しがつくから」
「……すまん、俺のせいで『あいつら』また何か……」
「神崎が、自分が相談したせいでお前が辞めたって、だから『あいつら』のひとりとやり合ってな」
めちゃくちゃ驚いた。
野球部一年の神崎は大人しく、一年生のなかで、特に『あいつら』からいじめられていた。
部長に相談したらお前の勘違いと言われ、俺に泣きながら相談してきたのだ。
そんな神崎が、『あいつら』に刃向かうなんて信じられない。
「お前だけじゃなくて、その場に居た俺も信じられなかったし、それは他の部員もでさ。で、みんな『あいつら』の態度が気にくわなかったし、お前のこと、好きだったから練習拒否してんだ。部長と顧問が、本当の説明をすれば練習再開するって」
俺は、何も言えず、園田は顔を緩めて言った。
「だからって、お前に無理に戻って来いとは言わねえよ、今は、恋、で忙しいだろ」
にっと、両目を線にし言われた言葉に、俺は口を開けない。
「部の問題はお前のせいじゃない、誰かから聞く前に言っておきたかったんだ、まあ、お互い頑張ろうぜ」




