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第二節

私の秒針が一瞬、虚空を呼ぶ。

 私の名前はセキラ。今はアヤの皮を被っている。私が如何なる姿であろうとも、声であろうとも、匂いであろうとも、温度であろうとも……他の誰でもない私だ。私は私であり続けている。

 私は別の肉体を経て、また一つ諸悪を討とうとすることにした。きっと、ラヴァッセよりも大きな相手だ。どう立ち向かおうか、そして、どう改竄してやろうか。


 エレイディナという企業では、食料の流通を管理する機構の管理をしている。その機構に何らかの異常が生じれば、その異常を撤去し、正常にする。すると、富裕層から金を巻き上げることができるので、社員をそれで食わせていく。金の取れない貧困層には何も与えない。

 丁度私たちのような人間が、その機構の不具合解消をするということだ。


 クレイフェンの時に知ったが、別に食料が不足しているわけでもなく、地産地消はほぼされていて、少し輸入すればクィアの全人口を賄えるところを、金銭欲が富裕層のみに分配するだけだから、とのようだ。

 「より良い暮らしをしたい」という欲があるから、歪なことになってしまっていると私は思う。労働させておいて資本は与えないというのなら、衰退の一歩を走っているだけではないか! 何故、腹八分目を知らないのか。

 この世界に遠慮というものがあったら、ただそれだけでシュペルは死なずに済んだのに。


 上司の声が聞こ

「採算が取れない原因を調べろこの虫どもが!」

 状況説明に割り込むな! あと人間は虫じゃない!


 状況説明に割り込んで怒号を発する糞みたいな上司がいるのは、やはり社会の構造が原因なのだろう。本人としては、これが生まれた時からだ、と言わ

「アヤ! 最近お前おかしいぞ? 生まれてから一回も行かないフェアラカへに行ったと思ったら欠勤! 頭おかしくなったのか? 切除手術でもしとくか? 勿論藪医者だ! こんな虫に金なんかかけられるか!」

 最後まで整理させてくれ!


 ……とまあ、アヤも、死んでまで頭の整理すらさせてくれない上司に付き合わせてしまった。でも、用事が終わったらすぐにお休みできるんだ、それまで体を貸していて。

 刃物を感じる。背中を通る、刃の感触……殺意だ。私の殺意。抑えろ、お前はまだ出番じゃない、刃物よ、先に出るな、解雇されたいか、……

 社会の状況が個人に影響するのはあまりにもありえ過ぎる話なのだが、人は自由意志においてその想像をなかったことにしようとする。現状の、先ほどの上司のような、ああいう人間は、当たり前のようにその環境にいたのだから、霊魂が汚れていても仕方あるまい……


 いいや、私でさえ、もう。


 この機構の、何がいけないかというと、というより、何故ここまでされて、誰も立ち上がらなかったのか疑問だが、それもこの類推で解決する。

 『もう、立ち向かう力もない』それだけだ。食料・住居・衣服、この三つの柱が全てなくなれば、人間は崩壊の一途を辿る。今だって、それにシュペルの両親だって、シュペル自身だって……この道を歩いていた。そして、自分のせいで身をやつしたらならまだいい、この社会には、『自分の努力では最早解決しないような、全ての人が背負う罪』が存在していて……あろうことか、罪人を選んでいたらしい! 選ばれなかったのがあの富裕層で、奴らは訳の分からない飲み物片手に訳の分からない女どもの演劇を聞きながら批評していやがるのだ!

 誰もがその道を、勝手に背負わされた罪だと認識せず、自分が率先して背負ったように思っていることが苦しい。

 刃物、お前はまだ、まだ黙っていろ、早く、諸悪を討ちたいのは山々だが、まだ、黙っていろ。


 機構の不具合は覚えた。そして解決した。今日はあちらの富豪に食料が届いていないという苦情だった。この不具合というのも、上司のようなやつらが人為的に置いているんじゃないか、と思うと、余計に刃物を感じてしまう。この会社に籍を置いたことで何を知ったか。シュペルとの時は勿論、クレイフェンだった時は危険だからと触らせてもらえなかった、情報端末の操作方法。

 いける。

 私は破壊できる。


 その前に、私はするべきことがある。この機構を、会社の情報端末で削除してやるには少し、あまりにも大掛かりすぎる。削除する前にアヤが捕まって、獄中で死体を探すしか無くなる。そうなると私の正体というのは簡単に明かされてしまう。

 確か、フィスタフィラ上では、同じ名前の情報は同じものとして扱われると聞いた。ならば、アヤの自宅からフィスタフィラに機構の情報を送ってやればいい。ここに辿り着く前に、すること、だ。明日にでもセレラーシュに聞きに行こうか、いいや……指の前にある。情報なんて幾らでもあるんだ。探せばいい、そして。


 上書き保存できないのなら、会社ごと削除するだけだ。

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