1-1
一面真っ白な世界。
白と言って思いつくものは何だろう?
その白で世界を構成できるのは?
泡?光?雪?
どれも正解。
だが、今は?
「いっい湯だ~な! あははん! いっい湯だ~な! あははん!」
「辻先輩、温泉は神聖な場所なのですから、お静かにお願いします」
「え~固いこと言わないでよ、スミスミ~」
湯煙。
ほのかに温かく、優しい香で僕たちを包み込む湯煙は体の表面に溶け込み、湯と外界との境界を曖昧にする。
ここは、温泉。
そして、僕たちは今この温泉で『温泉部』の活動をしている。
「温泉は楽しく入るものだよ~! ねえ、ウリウリもそう思うでしょ?」
「ええっ! 私ですか……? そうですね、どっちも正しいと思います……」
「ブーブー。もう! どっちの味方なのさ、ウリウリ~! まあいっか」
温泉を二つに遮る高い竹の壁の向こうから、先輩と幼馴染の声が聞こえる。
竹の壁というのは男湯と女湯を分けるためのものだ。
僕の住む地域にはいくつか温泉があるのだが、混浴のものは存在しない。
少し残念な気もする。
如何わしいことなんて微塵も考えていない。
二人とは違う声が聞こえてくる。
「それより先輩、先輩は行かなくても良いのですか?」
「行くって……どこに?」
「どこに? って……先輩、生徒会長ですよね?」
「そうだけど、それがどうかしたの~?」
「入学式のことですよ。辻先輩は挨拶等、なさらないのですか?」
澄んでいて、それでいてどこか凛々しさを感じる声質。
浅間澄。
気品にあふれてて頭も良く、才色兼備と言う言葉を体現したような温泉旅館の一人娘だ。
彼女もまた僕と同じ温泉部の部員だったりする。
澄の問いかけに先輩をわははと笑い飛ばした。
「あ~それね! 大丈夫、大丈夫! そこら辺は全部、副会長に任してるから~! そんなことまで気にしてくれるとは、私も良い後輩を持ったものだよ~あははは!」
「あははは……」
「お気の毒に、副生徒会長」
「使える副会長に感謝、感謝っ!」
綾菜先輩、本名は辻綾菜。
ここから風貌を覗くことはできない|(物理的に)が、声音から分かるほどに明るい太陽のような性格を持つ、僕の先輩かつ温泉部部長かつ生徒会長だ。
相変わらず天真爛漫な人だな……と僕は思った。
兎莉は声音から若干呆れているのが分かる。
突然壁の向こうでバシャリと水しぶきが鳴った。
「そうだっ! その副会長から大切なことを聞いてたんだった」
「大切なこと……?」
「そう、大切なこと~。お~い! 颯たん、昌平~聞こえる?」
不意に話を振られる。
綾菜先輩の声は大きく竹の壁越しでも良く響く。
僕と、僕の隣にいる男子部員がその問いに応じた。
「聞こえてますよ」
「もちろん聞こえてますとも! 綾菜先輩の声ならば例え火の中、水の中、聞いて見せますよ!」
「昌平~キモい~!」
「すんませーん! 聞こえませーん!」
調子づいた様子で受け答えする彼は僕と同じ温泉部部員、山崎昌平。
ツンツンした金髪頭がトレードマークであり、それが昌平のすべてだ。
ツンツンとは性格ではなく髪型のことだ。
中学は一緒ではなかったが、高校で知り合い今では唯一の温泉部男子部員仲間で非常に仲がいい。
少なくとも僕の方は仲がいいと思っている。
こちらに先輩の声が聞こえていることを確認すると先輩は続けた。
「聞こえてるみたいだから、説明するね~! 実はこの『温泉部』なんだけどね……」
綾菜先輩が珍しく含みのこもった言い回しをする。
珍しく、ではあるが初めてじゃない。
何度か経験済みだ。
そして、こういう時の彼女の口から良い知らせを聞いたことは無くって……
「このままだと廃部になっちゃうんだ~!」
例外なく今回もそうだった。
「えっ……?」
「先輩、今なんて……」
「だから、廃部! 廃部だって! ほら、『温泉部』って私とスミスミ、ウリウリ、颯たん、それにファッ金髪で、五人しかいないでしょ~!」
「誰がファッ金髪ですか」
君だよ、山崎くん。
僕は心の中でそう突っ込みを入れる。
「そもそも、部員が六人いないと部として認められないのに『温泉部』が公式に認められてるのって、私の我儘なのは知ってるよね~!」
「ええええええっ!? 初めて知りましたよ!?」
「我儘って……」
「これぞっ!会 長 権 限 っ!」
「職権乱用ですわね」
「しかし、そんな先輩の屑なところも好きですっ!」
僕と幼馴染、奥村兎莉は綾菜先輩の突然の告白に戸惑いの声を上げ、澄も若干呆れ気味だ。昌平は知らん。
僕らの気持ちを知ってか知らずか、綾菜先輩は堂々いつものように明るく話し続けた。
「そんなわけで、私が生徒会を引退する二学期までに部員を集めないと、廃部! 廃部ったら、廃部~! ……だからさ!」
「そうですわね」
「おっ!? スミスミ分かる? じゃあ、少し黙っててもらってもいい?」
「分かりました。しかし、皆さんもう気付いているようですよ」
「こっちも了解でーす!」
「それなら話が早い! じゃあ、みんな! ご一緒に~っ!」
「「「「「いざっ!部員勧誘へ!」」」」」
涼しい風が吹く春の森に僕らの決意が響き渡った。
*
「すごい、熱気ですね……」
温泉から出て、学校に戻ってきた僕の最初に思ったことはそれだった。
新入生、部活勧誘の生徒、それを見守る先生たちが合わさってこの熱気を作り出している。
去年僕がこの高校に入った時にもこんな熱気の中だったのかな……?
当時のことは緊張してて良く覚えてない。
「でしょ~! うちの学校、白結第一高校は部活にかなり力入れてるからねっ!」
白結第一高校――僕の通う高校の名前だ。
私立で男女共学、偏差値はそこそこ。
校舎は白を基調としたごく一般的なもので、校庭にテニストート、野球場などスポーツをする環境は整っている。
田舎故に膨大な土地を無駄遣いしている感じだ。
第一と言うからには第二があり、少し離れたところに白結第二高校があったりする。
校訓は……なんだったっけ?
よく覚えていないけど、そんなに重要なことじゃない気がするし忘れてても問題はないだろう。
綾菜先輩の言葉に兎莉が相槌を打つ。
「そういえば、そうでしたね。確かに、生徒全員部活所属がスローガンになってますし……」
「校則に書いてある内容をそのままスローガンにしてあるなんて、はたして意味があるのかは分かりませんが」
澄が冷静に突っ込みを入れる。
その言葉に綾菜先輩は、僅かにムッとした。
「スミスミそれを言っちゃだめだよ。それを聞いたら、スローガンを決めた人が悲しむよ!」
「そうですわね。それで、スローガンは誰が決めたのですか?」
「もちろん、私で~すっ! だから、先輩を悲しませないようにそんなことを言うのはやめるように、スミスミ!」
綾菜先輩はもう少し真面目に生徒会活動に取り組んだ方が良いと思う。
でも、こんな彼女だけど生徒からの信頼も厚く一年の時から、正確には一年生の二学期から生徒会長をしているそうだ。
いつものようにふざける綾菜先輩に澄はため息をついた。
「辻先輩には全く、呆れますね」
「呆れるなんてことも言わないよ~に! それじゃあ、新入生も出てきたところだし! 早速部員勧誘を……って副会長!?」
「あっ! 会長! どうしてここに!?」
丸刈りの丸メガネ。
如何にも真面目そうで、如何にも副会長な雰囲気を出す生徒が綾菜先輩のもとに駆け寄る。
間違いなく生徒会副会長だった。
綾菜先輩はゲッと言う効果音が似合うほど分かりやすく嫌な顔をして後ずさりをする。
「そっ、それは……。部活という大義名分があって……」
「というか入学式の挨拶サボりましたね!! いつもいつも、副会長の僕がどれだけ苦労しているか分かりますか!? って逃げるなー!」
「というわけだから、急用が出来ちゃった! あとは皆で勧誘よろしく~!頼りにしてるよ~!それじゃっ!」
「会長!? こらっ! 逃げるな! 今日という今日は勘弁しませんよー!!!」
綾菜先輩は足早に校庭を駆け抜ける。
やっぱり速いな。
確か綾菜先輩は百メートル一一秒台の記録をマークしたこともあって、去年の陸上大会では全国大会にまで出場したんだっけ。
はたして、そんな俊足の綾菜先輩に副会長は追いつくことが出来るのだろうか?
内心副会長にエールを送った。
「……お気の毒様。副会長……」
「それでも、しっかり会長について行っているのですから、副会長さんもそこまで嫌がっている訳ではないのでしょうね」
「この会長にこの副会長ありって感じだよな……」
「とにかく、勧誘を始めましょう。どうやら廃部がかかっているようですからね」
部長の綾菜先輩がいなくなり、澄が指揮をとる。
実際、先輩はあんな感じなので普段から澄が皆のまとめ役って感じもしなくもない。
「でもよー、澄。勧誘ってどうするよ? 部活勧誘なんてするつもりなかったし、準備なんてなんもしてねーよ?」
昌平がいつものようなアホ面で素朴な疑問を澄に投げかける。
「準備ならしているではないですか、山崎さん?」
「ほえ……?」
昌平が某魔法少女の様に驚きを露わにする。
昌平は少女感ゼロの唯の金髪チャラメガネなので全然萌えない。
世の中にはそれでも萌えてしまう人もいるだろうけど、僕はそうでは無かったようだ。
澄は首を傾げ昌平の問いに答える
「あなたのその筋肉は何のためにあるのですか? 今この瞬間のために鍛え上げたものでしょう?」
「はああああああ!? 澄、何言ってんだよ?」
「この世には貴方のような屈強な筋肉を好む、男食系紳士淑女が沢山いるのです。今この場にもおそらくいるでしょう。きっとその方々にアピールすれば、部員勧誘などお茶の子さいさいです」
「ちょっ、ちょっと、澄ちゃん……」
言ってることはめちゃくちゃだが、その様子は全く嘘を言っているようには思えない。
いや、本当におかしいんだけども。
彼女の自信に満ちた表情に、昌平は『えっ、マジなん……?』とすっかり騙されていた。
「さあ、脱ぎなさい。そして言うのです。『私たち温泉部は絶賛活動中! 俺と一緒に汗を流そう!』と……!」
「…………良く分からないけど、それすりゃあ部員が集まるんだな!」
「その通りです!」
澄はハッキリと言い切り言った後に小声で「たぶん」と付け加える。
僕は澄が冗談を言っているんだと察し、口角が少し上がってるのを確認してそれが確信に変わった。
昌平はそんなことつゆ知らず、破滅への道のりを驚くほど綺麗に辿って逝く。
「流石、澄だぜー! 成績良いだけあって、物知りだな!」
「当たり前です。私を誰だと思っているのですか? 浅間澄ですよ。これぐらい当然です」
「謎理論すぎる……」
「しゃあああああ! やるぜー! お前ら見てろよ! 男、山崎昌平の勇士を!」
「おっ、おい! 本当に脱ぐのかよ!?」
澄の言葉を真実だと確信した昌平はついに行為に至ろうとワイシャツのボタンに手をかけた!!
ナレーション|(僕)の声に熱がこもっているが別に昌平の肉体に興奮したわけじゃない。
僕は正常だからね。
「私たち温泉部……」
「浅間澄っ! 見つけたのです!!」
「ファアアアアアアアアアアアッ!?」
昌平が勇士を見せようとした瞬間、聞きなれない声が彼の肉体美を邪魔した。
頭に響くほどの高い声。
その声に若干隣の澄が反応していた。
「ついにこの時が来たのですね……決着の時がっ!!」
「この耳にこびり付く、不快な声……。秋風風子さんですわね?」
秋風風子?
僕の記憶が正しければそんな名前を聞いたことは無い……無いか?
少し頭に引っかかる。
目の前にいる小さくて金髪で如何にもキャラが濃そうな少女に僕は初めて会ったとは思えなかった。
どこかで会ったような気がするな……。
「そう、その不快な声……って誰の声が不快なのですかーー!」
「不快なだけではありません。耳にこびり付きます」
「くああああああああああ! むかつくのです! むかつくのです! そうやっていっつも風子を馬鹿にしてー!」
秋風風子と名乗る少女は澄の棘のある態度に、地団太を踏んだ。
小さな体を大きく動かす仕草がなんとも心安らぐ可愛さを発していた。
僕は隣に立つ幼馴染に問いかける。
「ちょっと、兎莉。あの女の子知ってるか? 澄と話してる子」
「あれっ? 颯太君知らなかったっけ? ええっと、秋風風子ちゃん。温泉旅館『秋風』の一人娘だよ。」
「『秋風』ね……。確かにそんなのあったな。家から結構離れてるから、良く知らないけど」
そう言うことか。
僕は昔、と言っても三年前ぐらいに家族で『秋風』に食事をしに行った記憶がある。
多分その時、秋風さんを見たんだろう。
「颯太君本当に温泉部? 『秋風』は、昔から『あさま荘』のライバル旅館でね。そのこともあってか、澄ちゃんと風子ちゃんはいつもあんな感じ。顔を合わすとすぐに口喧嘩」
「それで、今もあんな感じってことか……」
僕が兎莉と話をしている際も澄と秋風さんの口喧嘩は続いていた。
本当に仲が悪いんだなと思う。
ライバルと言っても、切磋琢磨する少年漫画のようなものではなさそうだ。
「くくくっ……一年間という長い間、休戦だったけど、それももう終わり! 風子はこの一年で考えたのです。次はどんな手を使って浅間澄に挑戦するのかを!!」
「それで、今度は何で勝負しようというのですか?」
やれやれと言ったように澄が両手を広げる。
「今日のために高校のことを調べに調べ上げ、勝負の内容を決めたのです。浅間澄! あなたは今、温泉部なる部活に入っているようですね!?」
「はいそうですよ。良く調べましたね。えらいえらい。ぱちぱちぱち」
「ううううー! むかつくのです! そして部員はそこにいる人たちと現生徒会長で5人だけ……」
「…………っ!」
「部活は六人いないと活動できないですよーってことを私はある人からの情報で知って、調べてみたら、どうやら生徒会長さんが無理やり部を存続させているということが分かったのです!」
確信を突いた秋風さんの一言に澄が苦虫を噛んだような表情をした。
彼女は『温泉部』が廃部の危機に瀕していることを知っている様子だ。
まだ、温泉部部員しか知らないと思っていたが、情報が漏れている……?
意地でも澄に対抗してやろうという、執念のようなものを感じた。
「だったら、今年で生徒会長が辞めたら人数不足で『温泉部』は廃止っ! だから、きっと浅間澄は今部員集めで躍起になっていると考えるのです」
「ふふふ。そこまで知っているのですか。……で? どうするというのです?」
「風子、『温泉部』に入ってもいいのです」
「えっ……?」
意外な一言に呆気にとられる。
勿論、僕も呆気にとられた。
昌平は未だに生気を吸い取られたように立ち尽くしている。
秋風さんは首を可愛らしく傾げ、続けた。
「風子だって温泉旅館の娘なのです。『温泉部』に入らない方がおかしいのですよ?」
「でしたら……」
「でも、浅間澄の入っている部活に入るなんてことはぜーーったいしないのですよ~~~~!!」
「くっ、人を馬鹿にして……」
「だから、風子は作るのですよ。『温泉研究部』をっ! 略して温泉部~! く~くっく!」
ものすごい上機嫌で、鼻歌まじりにクルクルとその場で踊りながら話す。
言ってやったぞと言う雰囲気がもの凄く出ていた。
「すでに、入学前から地元の温泉好きの友達はすべて丸め込んでいるのです! 部員数は余裕で足りる! それに顧問もしっかりいるのです! おかーさーん!!」
「は~~い!!」
「顧問のお母さんなのです!」
「それで良いのかよ!?」
僕は思わず突っ込んでしまった。
すごい小さいコミュニティーで話が進んでいるな……
周囲を山と畑と田んぼと雑木林で囲まれた田舎だから仕方ないかもしれないけど、これは酷い。
「なるほど……秋風さんに情報を与えたのはあなたでしたか。秋風先生」
「そうよ~いっつも澄ちゃんには悪いと思ってるけど、今回も多めに見てやってね~」
秋風先生は白糸第一の国語の先生だ。
随分とおっとりとした雰囲気を醸し出している。
性格に関して言えば娘とはえらい違いだ。
ただ、二人とも金髪で身体的には似ているのかも……と思ったが僕はふと視線を移す。
どこにとは言わないが、二人の体は決定的に違う点があった。
お母さんの方は……でかい。
娘の方は……無、小さい。
やっぱり秋風さんはお父さん似かもしれない?
「ちょっと、お母さん! そういうこと言わないでよ! 相手は『あさま荘』の娘! 『秋風』のライバルだよ!」
「んんっ! 家族喧嘩は家でやってもらえますか、秋風さん?」
「分かってるのです! ありがとうございました、お母さんは退場~~。気を取り直して、話を進めるのです」
秋風さんは先生の背中を無理やり押し、職員室に強制送還させた。
退場まで終始微笑んでいた秋風先生はやっぱりぶれないなぁと思う。
「兎に角、風子は温泉部に入るのです。でも浅間澄の部活に入るのはまっぴらごめん!! 廃部したくないなら、そっちから風子の部活に入って来いって話なのですよ!」
「ふふふ。分かりました。そこで勝負ですね」
「そうなのです! 風子が勝ったら温泉部は温泉研究部に吸収。浅間澄が勝ったら温泉研究部は温泉部に吸収! 『秋風』と『あさま荘』どっちが上なのか証明してやるのです!」
「それで、勝負の内容は?」
「ちょっと澄、先輩抜きでこんな話しても良いのかよ?」
僕は話に割り込み、二人を止めた。
温泉部の部長は仮にも綾菜先輩だ。
実質的には澄が部長見たいみたいなもんだけど、一応先輩に話を通すのが筋だと思う。
「部外者は黙っているのです」
「部外者って……」
「そうだよ、颯たん! 今は黙る時だ~!」
「先輩……って、なんでそんなところに!?」
見ると、綾菜先輩は学校の校旗が飾られているポールの上に登っていた。
その下では副会長が降りて来いと騒いでいる。
副会長、追いつけたは良いけどあと一歩届いて無い。
「理由なんて、考えるな! 感じろ! それより……秋風風子ちゃんだっけ~?」
「そうですけど……」
「だったら、君はふーちゃんだっ!!」
「どっ、どうしてその呼び方を知っているのですか!? お母さんにもその呼び方やめてって言ったのに!! 流石、生徒会長なのです……!!」
「呼ばれてたのかよ!?」
秋風さんはポールの上で腕組して堂々と立つ綾菜先輩の前で跪く。
何だ、この茶番は……
「それより、どうにかしたのですか? 生徒会長さん?」
「私はもちろん生徒会長だが、今は温泉部の部長としてふーちゃんに話があるのだ~!」
「何ですかです?」
「ふーちゃんの挑戦、我々『温泉部』は正々堂々受けて立つことをここに誓おう!」
「ちょっ!? 先輩!?」
綾菜先輩は大きく息を吸い、少しにやりとして言い放つ。
というか、先輩結構ノリノリなんですね!?
『温泉部』なんて温泉に入るだけの怠惰な部活を作るぐらいだから、こういう面倒事は断るかと思ったんだけどな……
「良いの、良いのっ!! 私は生徒会長! 学園を楽しくするのが私の仕事だよ~! だったらこんな面白そうな展開、みすみす見逃すわけないじゃん!」
「流石、生徒会長さん。空気の読めないこの男より話が分かるのです」
「これで、正式に『温泉部』は『温泉研究部』と戦うことになりました。はたして今回は一体、何で勝負するのですか?」
「ふふふ……勝負内容、それは…………売上対決なのですっ!!」
秋風さんは勝気に小さい胸を張る。
小さいからだから発せられる声は校庭全部に行き渡る程に良く響いた。
「売上対決ですか……一口に売上対決と言っても色々あるでしょう? 一体何の売上なのでしょうか?」
「それは、これを見るです……!」
「これは去年の文化祭のチラシ……?」
「そして、ここには部活で出し物を出しているグループが書いてあるのです。つまり……風子は浅間澄と、文化祭の出し物の売上対決をしたいのですよ!!」
自信たっぷりの表情で少女はそう告げるのだった。