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なろう作家 ジェラルミンの鎧を着た超人高校生

作者: 虹色水晶

 かつて。

 ジェラルミンの盾を持った超人高校生がいた。

 彼はこの世界の住人ではなかった。

 異世界の、『ニホン』という国からやってきたのだ。

 彼はジェラルミン製の盾を使い、チート無双するつもりでいた。

 だが、その夢はたった一人の魔法使いの前に無残にも打ち砕かれてしまった。

 しかし、彼は諦めていなかった。


「よし。今度はジェラルミンの鎧を着よう」


 ジェラルミンの剣。ジェラルミン盾。そしてジェラルミンの鎧。前回、ジェラルミンの盾を破壊されたことにより惨めな敗北を味わったが、今回はちゃんと鎧も装備した。万一盾が破壊されても、ジェラルミンの鎧が自分を守ってくれるはずだ。


「まずはあのみすぼらしい砦を攻め落としてみるか」


 練習台目的で、街から少し離れた所にある砦に彼は向かった。砦の前には見張りらしき兵士が二人。鉄製の槍に鉄製の鎧。彼は鼻で笑った。このジェラルミン装備に敵うものか。


「何者だ!ここを御領主様の城と知っての事か!!」


「え?城?このぼろっちいのが?」


「確かにぼろっちいかもしれないし、城壁も城本体も木製だ!」


「だがちゃんと城なんだぞ!」


「なんか築城LV1くらいの城だな。まぁいい。どうせ練習台だ。サクっと片づけてやる」


「何?」


 ジェラルミンの剣が一閃。門番の槍兵ランサーは倒れます。


「ふ、やはりかませの雑魚兵か」


 ジェラルミンの鎧を着た超人高校生は木造建築の城に入って行きました。


「大変です!ジェラール様!」


 台所で主にお茶を出すため、湯を沸かしていたジェラールのところに、警備兵が飛び込んできました。


「狼藉者です!魔法の剣と防具を持っていて、我々では太刀打ちできません!!」


「ふむ。困りましたねぇ。私は一介の執事です。剣も魔法も二流の腕前でしかないというのに」


 とりあえず、執事のジェラールはティーポットを持ったまま中庭に向かいます。既に多くの兵士が狼藉者に挑んでいますが、傷一つつけられないようです。皆地面に倒れているか、後退をしているか。


「すいません。そこのピカピカの鎧の御仁」


 ジェラールは声をかけました。


「ふ、次にこのジェラルミンの剣に切られたいのは貴様かっ?!!」


「奇遇ですねぇ。私の名前。ジェラールなんですよ。ところで。貴方のお持ちのその。ジェラルミン。ですか?魔法の武器ですか?」


 ジェラールは尋ねました。


「ふ、下等な中世ヨーロッパ文明人共に教えてやろう!俺の武器防具は貴様らのように鉄ではなくジュラルミンできるいるんだ!20世紀初頭に発明されたコイツは軽くて丈夫なことにより戦闘機などに使われている。けれどこの異世界においては超チートアイテム! どの国も持ってないし存在しない。ましてや作れるハズもないわけで、そんな防具で身を護る俺はまさに最強無敵!!」


「なるほど。特殊な金属でできてるんですね。大変よくわかりました。ところでもう一つお尋ねしたいのですが。とても重要な質問です。貴男は魔法使いですか?」


 『ニホン』から来た超人高校生は。


「・・・いや?魔法使いじゃないが?俺は16歳の超人高校生だ」


「なるほど。魔法使いでなく。剣士。つまり魔法剣士ではない。これは困った。私は一介の執事です。剣術や魔術の多少の心得がありますが、それは所詮二流の腕前でしかない。貴方のような魔法を使わない。つまり剣術一本やりな一流の剣客には到底かなわいでしょうなぁ」


「っくくく。命乞いでもする気かな?」


「ですが私は執事としてはそれなりの腕前だと自負しております。今も我が主の為に紅茶を入れておりまして。貴方は旨い紅茶の入れ方を御存知でしょうか?まず空のティーポットにあえてお湯を入れるのです。なぜこの様な事を致すかと申しますと、茶器が冷たいままですとお茶を入れた瞬間茶の温度が下がり、美味が損なわれてしまうのです。ですからお湯を入れて温める。具体的には沸騰するお湯を入れて。そしてこのように」


 ジェラールはティーポッド内のお湯をジェラルミンの鎧を着た超人高校生にぶっかけました。お湯が沸騰する温度は。

 100度です。

 カップラーメンを作るのには丁度いいけど、人間が飲むのにはちょっと厳しい。そんな温度。


「ぐああああああああちいいいいいいいいいいいぃぃぃぃ!!!!」


「ふむ。鎧の隙間にお湯が入ってしまったようですね。これはいけません。金属製の器は、加熱しやすく、冷めやすいと聞きます。ですが今貴方は魔法の瓶の中に閉じ込められたように全身を熱湯で暖められている。早く鎧を脱がないと全身大やけどになってしまいますよ?」


「く、はやく・・・鎧を・・・」


 ジェラルミンの鎧を着た超人高校生は鎧を外そうと鎧の蝶番に手をかけました。


「ぬおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


「ああ。熱膨張で蝶番が歪んでうまく外れない。しかも熱伝導で加熱され、触ると手がヒリヒリするのですね。これは大変だ。ふむ。このままでは蒸し焼きになってしまいそうですが。そうですね。そこの縄文から外へ出て、橋からこの簡素な城を取り囲む川に飛び込めば助かるのではないかと思いますよ?」


「お、おぼえていろおおおおおおおおおおお!!!!」


 捨て台詞を残すとジェラルミンの鎧を着た超人高校生は城の外へ飛び出し、そして何か鎧を着た物体が川へ飛び込む音が聞こえました。


「お見事ですジェラール様」


 クロスボウを携えた兵士が近づいてきました。彼の胸部には刀傷があります。


「君は門の見張りについていた兵士ですね。怪我は大丈夫ですか?」


「はい。切られた瞬間に自ら後方に飛び、ダメージを受け流していたので大丈夫でした」


 そう。彼は元々鎧を着た、槍兵ランサーだったのです。そしてジェラルミンの剣を持った剣士セイバーによって簡単に倒されてしまったのです。しかし鉄の鎧が破損ブレイクした瞬間、彼はクロスボウを装備した弓兵アーチャーになっていたのです。


「ふむ。まぁ念のため医務室で治療を受けて来てください」


「賊を追わなくてよろしいのですか?」


「私は君たちの先輩、友人、そして家族としてここにいる。君たちの仕事は戦士となる事であり、決して棺の中で眠り、家に帰る事などではない。そして私の仕事は君たちが全力で力を発揮できるよう、君達を力づける事だ。わかるね?」


「はい。わかります」


「よろしい。ではあのようなコソ泥を無理に追撃し、命を粗末にすることはない。傷の手当てをしたまえ」


「ありがとうございますジェラール様!」


 クロスボウを持った兵士は治療を受けに医務室に向かいました。ジェラールは城の入り口に別の見張りを手配すると、自分の仕事に戻ります。


「遅かったのね。何かあったの?」


「単に茶をいれただけですイザベラ様」


 そう言ってジェラールはお茶を出します。


「ふーん。またミルクティー?」


「はい。ラムレーズンのミルクティーでございます」


「茶葉をケチる為にドバドバミルク入れてばっかねぇアンタ。・・・あら美味しい。なんか工夫した?」


「いえ。いつも通りに茶器にお湯を入れ、冷めない様にしてお出ししただけでございます」


 ジェラールは一礼して秘訣を言いました。 


別に剣や魔法は使えないわけではない。

使えば楽に勝てる。

だが、使えば執事として失格なのだ。

だから使わないのである。

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