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#1-無人の街と戦争の跡

ライの言った方角に進む事数時間、見渡す限りの大草原だった景色に変化が見え始めた。

ポツポツと木立や茂みが現れ始め、うっすらと石畳の道が見え始めた。


「やっと人工物と出会えたよ…。」

「石畳の道があるって事は、この先に何かがある事は確かだね。」

「野宿しなくて済みそうね、良かったー。」


ライは背中に背負ったバッグから干し肉を取り出して口に放り込んだ。


「もぐもぐ…でも、期待しない方が良いかもね。」

「…だね。この道、明らかに殆ど使われてる様子がないもん。」


石畳の道はあちこちがひび割れていて踏むとパキッと割れる音がする。除草もされていないし石畳の整備もされていない。

長い事使われていない道だという事は明らかだった。


「もがもが…野宿よりはマシな結果になるといいけどね。」

「そうね。って、アンタどれだけ食べてるのよ?」

「大丈夫だよ、ちゃんと少しは残すから。」

「少しはって、いざという時の食料が無くなるでしょうが!」


ユミルはライから干し肉の入った袋を奪い取ると、自分のバッグの中に入れる。


「うわー泥棒ー。」

「うるさいわ!あのまま食料が無くなるのを黙って見てられるかっ!」

「あんまり騒ぐと、盗賊とか魔物とかが寄ってくるかもよ?」

「誰のせいだ!」


ユミルとライはギャーギャーと騒ぎながら、石畳の道を進んでいった。






「うーん…予想はしてたけど…」

「廃墟よねこれ。」

「物の見事にね。」


石畳の道を見つけてから一時間くらい経ち、二人は廃墟と化した街の前に居た。

既に廃墟の街となってから数年は経っているらしく、建物はあちこち穴が開いてたり崩落したりしており、大通りらしき道も雑草が深く茂っている有様だ。


「…戦争かな?」

「え?」

「人が居なくなって廃ったにしては建物の状態が悪すぎるよ。多分、この街で大規模な戦闘があったんだ。」

「戦争ねぇ…どこかの国でも攻めてきたのかしら。」

「いや、戦争にしては…ううん、何でもないよ。」

「?」


二人は街の中へ入り、片っ端から建物の中へ入ってみたり誰かいる痕跡がないかを確認した。

しかしどの建物も入り口が瓦礫で塞がっていて入れず、たまに入れる建物があっても中にはめぼしい物も、人が最近まで居たという痕跡も見つからなかった。


「何も無かったよ。そっちは?」

「こっちも特になし。完全に忘れ去られてる街ね。」


数十分後、探索に飽きた二人は街の中心部にあった元冒険者ギルドの建物の中に居た。

建物の二階は瓦礫で塞がっているが、一階は割と綺麗だったのでここで休憩する事にした。


「完全に、という訳ではなさそうだよ。」

「え?人が居た痕跡でもあったの?」

「複数の人間の匂いがしたよ。多くても十人程度だと思うけど。」

「って事は…盗賊とか?」

「可能性はあるよ。人が来る心配が殆どなくて、かつ安全に過ごせる。それでいて人目につかない。盗賊の好む条件と一致するしね。」


三十分程で休憩を終えて二人は探索を再開した。ライは嫌な予感がするから街から出よう、とユミルに提案したが、ユミルの「野宿なんて冗談じゃない!廃墟でもいいから家の中がいい!」という言葉で探索続行が決定した。


太陽が傾き始めるくらいまで探して、二人はとある建物を発見した。

それは大きな石材で出来た塔だった。少し崩れかけてはいるが、完全に崩落している他の建物よりかは全然マシだった。


「…人間の匂いだね。中に居るよ。」

「どれくらい居そう?」

「多分一人だけ。」

「分かったわ。」


ライは腰から短剣を、ユミルは長剣を引き抜いて辺りを警戒しながら塔の扉へと近づく。

そして扉に手を掛けて、一息後に一気にドアを開け放つ。


「なっ…!?だ、誰だ!?」


中には、一人の壮年の男性が居た。薄汚い服を着て、ヒゲも剃ってないのか伸び放題だ。

彼はびっくりした表情で、手に持っていた羽ペンを落とした。


「こんにちは。そんなに警戒しなくてもいいですよ。僕らはただの旅人なんで。」

「旅人…?そうか、こんな忘れ去られた街に何か用かな?」

「いえ。旅の途中にこの街を見つけたもので、少し見て回ってました。」

「そうか。言うまでもないが、ここには何もないぞ。あるのは破壊された町並みと、もう意味をなさない街の歴史だけだからね。」


男はそういうと、羽ペンを持ち直して再度机に向かった。

ここからでは位置的に何を書いているのかは分からないが、男の表情は真剣そのものだ。

建物の中は狭く、塔の上へと昇る階段と男が向き合っている机、その横にある棚以外には何も無かった。

男以外に誰も居ないことを確認した二人は剣を仕舞った。


「この街で、一体何があったんですか?」

「何があったか、か。君達は『剣の強盗団』という組織を知らないかい?」


と男は聞いて来た。


「知らないね。」

「知らないわね。」


二人は殆ど同じタイミングで答えると、男は少し驚いた様子で続けた。


「そうか。結構名は知れ渡ってると思ってたんだが…。まあいい。この街は、その強盗団に襲われたのさ。」


男は羽ペンを置くと二人と向き合った。


「戦争じゃなくて、盗賊の集団に襲われたんだ。どうりで街の破壊の仕方が酷いと思った。敵国同士の戦争なら、街を拠点にする為に街を過度に破壊なんてしないからね。」

「それにしても、この街はかなり大きいわよ?冒険者ギルドもあったし、あちこちに衛兵の詰所もあった。この塔だって監視塔でしょ?盗賊なんかに攻め落とされるなんて考えられないけど?」


ユミルは首をかしげながらそう言った。

この街はあちこちに防衛施設が建っていた。それに、さっき居た冒険者ギルドもかなり大きな建物だった。そこに居たであろう冒険者や狩人達だって、そこらの兵士や衛兵なんかよりも強かったはずだ。


「普段なら、ね。いつも通りの街だったら、盗賊の集団が襲ってきても余裕で対処できただろうね。」

「普段ならって事は…街の守備が薄かった時に攻めてきたんですか?」

「その通りだよ。…詳しく聞きたい?」


ライはユミルを見る。

ユミルは「いいわよ、私も聞きたいし。」と言って頷く。


「そうだね。まずはこの街について話そうか。」


男は、この街で何が起こったのかを話し始めた。





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