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不良少年と扶養少女  作者: 常闇末
第一章 扶養少女は守られる
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第五話 見境なし


異様なオーラを発していた藤吉―――国語担当。不名誉にも俺たちの担任だ。―――を傍目に観察していると、突然重力がなくなった。

というのは大袈裟だが、実際には二山につまみ上げられていた。

次の瞬間には俺たちは補習室にいた。

その間の記憶は……ない。


「おい!どうすんだよ!」

「どうするたってなぁ」


つまりは、二山監修のもと、補習室で授業を受けていた。

良い言い方をするとVIP対応。悪い言い方をすると……隔離だ。


「おい!何を話している!……脱出なら諦めろ。ここは完全な密室だ!」


そう。二山のいうとおり、教室には鍵がかかっていて完全な密室になっている。

それゆえに大変マッチョな二山がいるせいで暑苦しい。


「でも大変マッチョな先生がいるせいで暑苦しいっんすよ」


坂本……少しは考えてから行動できないものだろうか。


「坂本。お前だけ反省文の続きでもいいんだぞ……」

「ちょっ……!それだけは!このままじゃ俺、反省文だけで本作れちゃいますって!」


反省文だけでできた本。出版されたらさぞ不名誉なことだろう。

一番に買って、晒してやりたい。

授業は二山によって淡々と進められ、俺らも脱出の妙案を思い付くことはなかった。


「お、もうこの時間か。すまないが、俺はこの後用事がある。そろそろ代行の先生が……」


二山が時計を見てそう言うと、ちょうどがらがら、と戸が開いた。


「どーも!鈴木京子です。独身、29歳です!」


一瞬空気が凍りつく。


「ま、まあ。そういうことで鈴木先生が担当してくれる。……それではよろしくお願いします」

「はい!」


二山が教室を出ていく。

鈴木京子。

鈴木は一見ただの女教師だが、婚期を見逃したことで単位や課題を盾にして生徒にまで求婚を始めた、どこかおかしい先生だ。

因みに名前を呼び捨てにして、帰ってきた生徒はいない。

補習の担当になってしまったら生徒は自分を捧げるか、男を紹介しなければ帰れないという逸話を持っている。


「じゃあ、よろしくお願いします」


でも、この際好都合だ。

坂本とアイコンタクトをとる。


「「先生!トイレ行きたいです!」」

「あらあら、二人してトイレで何するのかしら」


案の定、疑ってきたがそこは問題じゃない。

鈴木は女教師。男子トイレには入れないだろう。

勝ったも同然だ。


「わたしも中まで……ついてっていい?」

「「いいわけあるか!」」


ただ、本当についてこないかが心配だ。



「へっ!チョロいもんだぜ」


男子トイレの中。鈴木先生は外で待つと言い、俺らは見事監視下から抜け出すことに成功した。

補習室は一階にあり、前回とは違い、窓からの脱出が可能だ。

あとは先生の目を掻い潜り、屋上まで行けばいい、と思っていたが、


「後は窓から脱出……!」


坂本が窓から出ようとする。


「ちょっと待て!外にいるかも……」


時すでに遅し。坂本は窓から体を半分出していた。


「いらっしゃい……」

「ぎゃああああ!やめて!そこは!触らな!助け……」


坂本は吸い込まれるようにして窓から外に出ていき、暫しの喧騒の後に声が途絶えた。


「次は……お前の番だ……!」


窓から人間らしき顔が覗く。

俺らのことははなから信用していなかったらしい。


「坂本、頑張れよ!」

「いやだぁぁぁ!助け」


ぶちゅっ、そんな音を最後に坂本の声が再び途絶えた。何があったかは決して知りたくはない。

俺は猛ダッシュでトイレを飛び出す。


「……こっちにおいで……」


出てすぐの場所まで鈴木は迫っていた。


「速すぎだろ!?人間の速さじゃねぇ!」


率直な意見を叫びながら廊下を走りぬける。


「鈴木……!先生……!……いい加減……!諦めて……!」

「諦めろですってぇ?もう婚期を逃したおばさんにはチャンスはないと!?そう言いたいのね、野宮くん!?」

「ちげぇよ!」


鈴木先生はついに怒りが狂気に達したのか、野生動物の如く四つん這いになって追いかけてくる。

その姿はさながら野獣。

そう、野獣先生だ。

人は境遇一つであそこまで墜ちるのか……。


「オトコ…………オトコ……ホシイ……」


ついに邪気を纏ってきた。声も近づいてくる。振り向いたら最後。きっと目を合わせただけで俺の方が妊娠してしまうだろう。


「オトコオトコオトコオトコオトコオトコオトコオトコオトコオコトオトコオトコオトコオトコ」


一回だけ、楽器の名前が聞こえた気がした。


「いやだぁぁぁ!来るなぁぁ!やめ」


「……いらっしゃい」


ぶちゅっ

どこか聞き覚えのある音を最後に俺の意識は、途絶えた。



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