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不良少年と扶養少女  作者: 常闇末
第一章 扶養少女は守られる
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第三話 委員長の頼み事(強制)

「どこ行ってたんだよ!野宮!」


あんなことの後だと、授業をサボる気も失せた。だから、多少の危険もいとわず教室に戻ると坂本がすぐに詰めよってきた。


「いや、ちょっとな。それよりお前こそどうした。そのあざ」


坂本の顔にはとても痛そうな青アザがいくつか出来ていた。


「わかりきったこと聞くなよ!二山に追いかけられて階段から落ちたんだよ!」


ちなみに二山に追われると階段からよく落ちるらしい。

実は二山の計算という噂もある。

体罰の代替品というところだろうか。


「それで捕まって、教師を脳筋呼ばわりしたことについて反省文かかされたよ……」


ばつが悪そうに坂本が呟いた。


「そりゃ二回も言われたらな」

「ああ?俺は一回しか言ってないぞ」

「いや、なんでもない。間違えただけだ」


そういや一回は俺が言ったんだっけ。


「こら!」


話していた途中に甲高い声が割ってはいってくる。


「……イチジク……」


九瑠音。

うちのクラスの委員長だ。

よく読めないとぼやいているその名前はイチジク ルリネと読む。


「どこ行ってたんだよ、はこっちのセリフよ!授業中にちょっと目を放した隙に消えたし、あんたら一体何者よ!」


小言が一つ一つ耳に響いていく。

語気につられるように後ろで結わえた髪も揺れていた。

胸は揺れる程までは、ない。


「だいたい、あんたらこんなので進級できると思ってんの!」「イチジク、その話長くなるか?」

「当たり前でしょ!」


ずいぶんとヒートアップしている。

いつポニーテールが角になってもおかしくない。


「ああ!イチジク!あれはなんだ!」

「は?なにいって……」


坂本の一言で一瞬イチジクが目を離す。と同時に坂本の姿が消える。


「なんもないじゃない……ってええ!」


イチジクが振り向いたときにはすでに坂本の姿はなかった。


「坂本はどこに行ったのよ!」

「さあ……俺に聞かれても……」


ずっと見ていても瞬きの間に消えたようにしか見えない。

相変わらず、変なところで人間離れしているやつだ。


「じゃあ、俺もここで」

「ああ。じゃあね…………ってちょっと待て」


ちっ、ばれたか。自然な流れを装ったのに。


「あんたは逃がさないからね」


腕を首に回してスリーブをかけられる。本気でやってこないし、背中の感触もここに記しきれないものがある。


「二山先生からも頼まれてるんだからね……見つけたら教えてくれって!」


首もだんだん絞まってくる。

でも今はそんなことはどうでもいい。

背中に胸が……!胸が!


「聞いてん……の!」


もはや意識が遠くなる。

だんだん感覚も放棄していって、背中の感触だけを感じる。

そう。今、俺は背中だ。背中以外は存在しない。

この感触を持ったまま死ねるなら本望だ。


「ねえ!野宮!聞いて……あれ?…………生きてる?」


声がとても遠いところから聞こえる。

あ!向こうに楽園が!あそこに逝かなくちゃ。

え?金?三文?三文って何円?


「ねえ!野宮ってば!死なないで!ねえってば!」


体を揺らされる感覚を頼りに意識が現世に戻ってくる。


「…………極楽が見えたよ……」


危なかった……!三文程度の金も持ってなくてよかった……!

こんなところで死んでいたら、この小説のジャンルは異世界転生モノになっていたことだろう。

……あれ?なにいってんだ?俺?


「あ!野宮!生きてた……!よかった……」


小見山が安堵のため息をつく。


「よかったって、そんな心配してくれてたのか?」


心配されるというのは悪くない気分だ。

やっぱり、俺には神崎の気持ちはわからないかもしれない。


「いや、心配というかあんたが死んだら働けないから」


……やはり、心配されないほうがいいなんて、神崎の気持ちは当分理解できなさそうだ。

だって考え方がブラック企業、そのものですもの。


「って、働く?」

「ああ。ちょっと仕事手伝ってくれたら二山先生に告げ口しないであげよっかな、って」


交換条件ときたか。委員長のくせにセコい。


「……わかった。で、仕事とは?」

「あんた、二組の神崎葉子って知ってる?」

「ん?……ああ。まあな……」


あいつ、隣のクラスだったのか。道理で知らない顔だ。


「その子、病弱であまりクラスにいないせいか、クラスで孤立してて……」


そういやそんなことも本人が言っていた。

大変だなぁ、と他人事ながらも思う。


「それに…………」


俺はその後、どんな言葉が紡がれると思っていただろうか。

だが、俺がその後耳にした言葉は予想もしなかったものだった。



「その子、前の学校で暴力沙汰を起こしてるのよ」




冗談にしては無理があるぜ。

そんな言葉が口をついて出そうだったけど、イチジクの表情は真剣そのものだ。少なくともジョークを飛ばすような顔ではない。


「…………まじかよ」


別に彼女が暴力沙汰を起こしていてもいなくても俺には関係ないことだ。

だけど……あまりにもイメージに合わなすぎる。


「……そんだけ驚くってことはあんたも彼女を見て、別の印象を持ってたのね」

「…………ああ。見たもなにも会話したこともあるよ」


すると彼女は驚いた顔をして、


「あんたが他の人と話すなんてことあるのね」


と言った。別に話さないようにはしてないんだが、不良という肩書き上、関わってくるやつは少ない。


「まあ、たまたま会ってな」


俺も彼女も授業をサボっているときに会った、とは言いにくかった。


「それなら話は早いわ。彼女の学校生活のサポートをしてほしいのよ」

「は?隣のクラスなんだろ。なんでお前が……」

「……私、クラスの委員長であると同時に学年委員長なのよ……」


なんと無理な理由。

まあ、困っている人を見ると放っとけない性分だ、という感じにでも解釈しておこう。

その辺はどうでもいい。それよりも、


「まあ、そうだとしても……だ。お前もそうだが、最近俺が不良だって忘れてないか」

「あら、全然忘れてないわよ」

「じゃあ、なんでこんな馴れ合いたっぷりなことを俺に頼むんだよ!」


不良から一番遠いような案件だ。


「不良のふりに付き合ってあげてるんだから頼みごとくらい頼まれなさいよ」

「ふりじゃねえ!」


決めつけはよくない。


「じゃあ、頼みごとは断る、と」

「ああ、もちろんだ」

「そんなに二山先生に会いたかったら言ってくれれば良かったのに」

「もちろん受けさせてもらいます」


くそっ!委員長のくせに不良を脅すなんて……。


「最初からそう言えばいいのよ」


イチジクが勝ち誇った顔をする。対照的に、俺の顔は悔しさに染まっていく。


「じゃあ、明日から彼女の面倒を見るのよ。相談くらいならいつでも乗るわ」


イチジクはその勝ち誇った顔で、俺の今後のアイデンティティーに関わるようなことを言うのだった。


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