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不良少年と扶養少女  作者: 常闇末
第一章 扶養少女は守られる
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第十八話 学校中の嫌われ者

昼休み。計画は始まった。


「……ほんとにやんのか?」


坂本が確認をとってくる。


「やらなくちゃ救えない。俺がいいっつってんだから、いいんだよ」

「でも……」


引き留めてくれる坂本がありがたい。

だけど、今の俺にはこんな短時間では愚を弄したような作戦しか思い付かなかった。


やるしかないのだ。


「うっせぇ。さっさと行ってこい。俺も行ってくっから」


一方的に押しきる。今さらなにを言っても仕方ない。


計画は始まったのだから。




「…………でしょ!あんたにはかんけーないんだから!」


旧校舎の二階の女子トイレの中。五人の女子がいる。

口論しているようだ。


「関係なくなんかない!神崎さんが可哀想だと思わないの!?」


一人は勇猛にも立ち向かっている。


「あ、あの……いいんです」


一人は弱気で、端の方で丸まっている。


「いいっつってんじゃんかよー!」

「引っ込めよ!委員長!」

「そうだ!そうだ!」


三人は同じようなことを揃って言っている。


「いいわけないでしょ!イジメなんてほっといていいわけ……!」

「っせぇな。構うなよ!」

「そうだ!そうだ!」

「引っ込め!」


三人、というよりは一人とおまけ二人なのかもしれない。


「あなたたちね!イジメをやめるまでは帰らないわよ!」


すでに一人は今朝、吐いたりしたのかと思うくらいふらふらで、体力に限界が見られた。


「あーはいはい。いじめてましたー。反省してますー。これでいいか?わかったらさっさと帰れよ!」

「っく…………」


根負けして口をついたその言葉からは反省の意は見えない。

きっと彼女たちはこのままでは、いじめを繰り返すだろう。


でも、


「ああ、それで十分だ」


俺にとってはその一言で彼女を救える。


「野宮!?」

「おう。悪かったな、イチジク。後は安心してくれ」


彼女を守ってくれた委員長に声をかける。

イチジクは緊張の糸が切れたからか、膝からガクリ、と俺のほうに崩れ落ちた。反射的に受け止める。

女子の重さなんて知らないが、イチジクは軽くて、少しやつれているように見えた。


俺のほうに崩れなくたっていいのに。


だけど、未だに信用されているのは悪い気分じゃない。


トイレの床に寝かせることと、今までのことを引っくるめてごめん、とイチジクに声をかける。


「の……野宮さん?」


神崎を見る。割と平気そうだ。

これもイチジクのおかげだろうな。


「ちょ!あんた女子トイレになに入ってきてんだよ!」

「そうだ!そうだ!」

「引っ込め!引っ込め!」


敵を見つめる。

多分、あれが例のサノバビッチだろう。


「関係ないだろ。お前らがトイレとして使ってるならともかく。いや、」


今までの怒りを精一杯込めて、挑発する。


「肥溜めなんだからお前らがいるのはピッタリとでも言うべきか?」

「……っ!もういっぺん言ってみろ!女だからってなめてんじゃねぇぞ!?」

「そうだ!そうだ!」

「引っ込め!引っ込め!」


なめている?心外だ。


「なめてなんかねぇよ。その証拠に」


携帯を彼女たちの前にかざし、ボタンを押して、ある音声データを送る。


宛先は坂本だ。


「きちんと準備はしてるんだよ」


彼女たちが身構える。俺の仕事はこれで終わりだ。


「……神崎、ごめんな」


一応、今の内に神崎に謝っておく。


だって、これは最善ではないのだから。


後は任せたぞ、坂本。



数秒後。学校中に声が響きわたる。


『…………で帰らないわよ!』


さっきの録音データ。


『あーはいはい。いじめてました』


ノイズもなく、しっかりと録れている。


誰の声か、が分かるくらいには。


「ってめぇ!なんてこと……!」


でも、まだ放送は終わっていない。

これだけじゃ先生に言うのと状況はそう変わらない。


これからが、重要だ。


『以上、イジメの証拠でーす!』


俺の事前に録った声。


聞くからに軽薄さが感じられる。声の主である俺すらも聞いていて、悪寒を覚える。


ああ、これだ。これで、よくできている。


『一年一組。野宮浩でした!』


俺の日常が音を立てて崩れた。


「っぷ!」


サノバビッチの中心と思われる奴が吹き出す。


「っはっはっはっ!バカじゃねぇの!お前」


知っている。わかっている。


こんなことをすればどうなるのか。


「わざわざ、自分の名前言ってどうすんだよ!……やり過ぎたお前はどうなるか!」


彼女は爆笑したまま、話した。

やり過ぎた自覚は十分にある。


だって、わざとやり過ぎたのだから。


俺が自爆したと思っている。

意味もなくただ自爆したと思っているからそんなに嘲笑っていられるのだろう。

いや、意味を理解したところで、こいつらは俺の行動自体を理解できずに、爆笑するのだろうが。


「私たちと一緒に道連れだよ!いや、それ以上かもな!はっはっは!余計なことをしたな!」


やっぱり、俺がどうしてこんなことをしたのか気づけていない。


「の、野宮さん……!」


神崎はわなわなと震えている。

怒っているのか、泣いているのか、喜んでいるのか。おそらく全部だろう。


「なんでこんなことをしたんですか!?そこまでして……わたしを守らなくても……」


彼女は気づいているようだ。この行為の必要性に。


「俺はお前を救うためにはな」


自惚れて、目一杯格好つけて言ってみた。


「自分ですら傷つけるのをいとわないって決めたんだよ」





〜数時間前〜



「イジメの様子を録音して放送する。そのときに……俺の名前も出す」


坂本は虚を突かれたようだった。


「は!?なんで!」

「……まず第一に、放送するという手段はやり過ぎなんだよ」


相手につい同情してしまうくらいには。


「知ってるよ!だから、お前が名前を出すと」


坂本の言葉に頷く。


「叩かれるのは俺だ。だけど、もし俺が名前を出さなかったら、叩かれるのは一番やった可能性の高い奴。つまりは」


放送する動機があって、録音できる環境にいて、一番加害者になりやすい人物。


分かりきっている。


「神崎葉子、だ」


それでは全く意味がない。いじめの規模を大きくするだけだ。


「だからって!」


まだ、坂本は抗議してくる。


「坂本、お前は仕事がおわったら逃げてもかまわない。傷つけて傷つくのは、」


そう、今まで逃げてきた、


「俺だけで十分だ」


俺への罰だ。




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