表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不良少年と扶養少女  作者: 常闇末
第一章 扶養少女は守られる
17/20

第十六話 過ちの末に



翌日、イチジクは登校してすぐに吐いたらしい。

自分の下駄箱を開けた瞬間に。今は保健室にいる。

なのに、下駄箱には手紙が入っていた。

シンプルな封筒。

裏には震えた字で“神崎 葉子”。


走っていた。


何も考えずに。

ただ夢中に、走っていた。

中身は読まなくてもわかった。

その場所への扉を開ける。


やっぱり、そこには一人の少女がいる。


「……あ……」


天気は曇り。空模様も彼女も今にも泣き出しそうだ。


「神ざ……」


言葉を止める。

何を、しているんだ。俺は。顔を会わせる資格なんてないのに。


「野宮さん!」


やめてくれ。そんな泣き出しそうな顔で俺を頼らないでくれ。

彼女は俺に抱きつく。しばらく、そのままだった。

彼女の柔らかい抱擁は俺の心を万力のように締め付ける。

やめてくれ。俺の心が潰れてしまう。放してくれ。放してくれ。



「放してくれ!」



声に、出ていた。

彼女は何もわからないかのような表情で、きょとんとしている。


「野宮……さん……?」


問いかけてくる。俺は、それに答えない。


「どうしたんですか……?わたし、何かいけないこと……しましたか……?」


彼女の弱々しい台詞は、鋭いナイフとなって俺に深々と刺さる。


「違う!」


神崎は何も悪いことはしていない。悪いのは、


「俺が……悪いんだ……」


彼女に懺悔しなければならないのは、俺だ。


「なにを、言ってるんですか?悪いだなんて……」


彼女はそれを信じようとしない。

だけど、俺は。

坂本の助言も無視し、イチジクにひどい仕打ちをして、神崎に、


「おまえに……傷を負わせた」


「傷……?なにを……」

「神崎。おまえ、昨日……」


やっと楽になれる。懺悔の時間だ。


「放課後、女子トイレに来なかったからって、いじめられなかったか?」


瞬間、彼女の顔が驚愕、絶望、負の感情に支配されていく。


彼女はこの期に及んで、まだ信じられない、なんて顔をしている。


「な、なんで……?」

「だから言っただろ?俺は、」

とどめの一言を、


「傷つけたんだよ。お前を」


言った。


「……そう、ですか……」


もう、俺は許されない。

神崎にも、俺自身にも。


これでいい。


夢物語は終わるものなのだ。これで良かったのだろう。

だから、その場に居るのがいたたまれなくなって、屋上から出ようと思った。


「……許しますよ」


彼女の言葉を聞くまでは。


「野宮さんがしたこと。許します」


唖然とする。


……許すなよ。そんな、簡単に。


「何をしたのかはまだよくわかりません。でも、何か事情があったんじゃないですか?」


事情なんてないんだよ。うだうだ迷ってただけで。


「わたしは、野宮さんを信じてます」


俺はその信用を裏切ったのに。それでもバカみたいに信じ続けて。


そんなことされたら。


どうすることが悪なのかなんて、一目瞭然で分かっちまうじゃねぇかよ。


涙を堪えて、顔を上げる。


「なあ、一つ聞いていいか」

「はい、なんですか」


神崎を正面に見据える。

なぜもっと早く気づけなかったんだろう。自分が善だと思った道を、


「まだ、俺は……お前を助けられるか?」

「はい!」


突き進めばいいだけなのに。


雲の合間からは一筋の光が射していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ