第十一話 九瑠音のお悩み相談コーナー
「で、相談って?」
ハンカチで手を拭きながらイチジクがきいてくる。
「ああ。まだ神崎と話すようになって数日だが、もう関係が断絶しそうなくらいにピンチだ」
………………。
「はぁ!?速すぎでしょ!」
「随分と反応、遅かったな」
「そんなことどうでもいいでしょ!それよりも」
イチジクがこちらに指を指して、
「あんた、一体神崎さんになにしたのよ!」
「へ?」
なおも休みなくイチジクは、
「だってこんな短期間で嫌われるなんて!よっぽどのことしない限りはないことでしょ!」
と叫び続けてくる。
「正直に言いなさい。卑猥なことを言ったの?それとも胸でも揉んだ?……ま、まさか!おおお、襲ったとか!?」
「落ち着け」
「いたっ!」
イチジクの頭に軽くデコピンをお見舞いしてやる。
「な、なにすんのよ……。……ケダモノ」
「だから、違ぇって!話を聞け。嫌われたわけじゃない…………と思う」
するとイチジクは少し照れ隠しに顔を反らせながら
「ご、ごめん。結論を急ぎすぎたわね……」
と呟いた。
「ああ。兎にも角にも、関係が断絶するかもしれない、っていう理由は……」
イチジクに、神崎は俺と話しているところを他の人に見られたくない、ということ。神崎は携帯を持っていないから、伝達手段が絶たれたと思われること。を伝えた。
「……なるほどね。その言い方じゃ、神崎さんが自分のためにあなたと話しているところを見られたくない、ていう感じになるけど……?」
「そういうことじゃないのか?俺だって不良だし、風評被害で神崎と友達との仲が気まずくなったり、神崎がいじめられたりするだろうし」
少なくともそれ以外の理由が見つからない。
「…………それは本当に神崎さんが言ったの?」
その時のことを思いだしてみる。確か、あの時は……
「自分のためにも俺のためにも話しているところは見られない方がいいとか、なんとか……」
神崎が言っていた言葉をそっくりそのまま伝える。
でもそれはどっちにしろそういう意味合いになるんじゃ……?
「ふーん……。自分のためにも、野宮のためにも、か」
イチジクが何か含みのある言い方をする。
「うん。やっぱ、あんたの解釈は間違い。神崎さんがそんな理由であんたを拒絶するわけがない。あの子らしくないもの」
確信を得たようにイチジクが首をうなずかせる。
「は?なんでそんなこと……」
わかるんだよ、と聞こうとしたその言葉はイチジクの言葉にかきけされた。
「友達がいないの、彼女。私が言うのも変だけど」
でも、それは彼女が知っている範囲では、に過ぎない。
それに、
「それにいじめられたくないから、かもしれないだろ。理由だったら」
少なくとも、クラスのヒエラルキーに入っていないような彼女が不良と話して、目立つとストレス解消用のサンドバッグにされかねない。
「いじめられるぅ?不良のふりのあんたと話して?」
「ふりじゃねぇつってんだろ」
「それにね」
そして、彼女は単純且つ複雑。とても明瞭で不明瞭なその理由を述べた。
「彼女らしくないのよ」
確かに所詮イメージと言われるとどうしようもないが、自分の保身のために他人を拒絶するような人間には見えない。
やはりそれはただのイメージなのだが。
「じゃあ、なんで。お前はなんで彼女が俺を拒絶したんだと思うんだ?」
彼女は少し暗い顔をして、考え込んだが、結論は割と早く出たらしい。
「……多分、あの子。……神崎さんは、いじめられてるのよ」
……考えもしなかった、と言えば嘘になる。むしろ前者、つまり俺の考えが否定されたなら必然的にその考えに至った。
「じゃあ、自分のためにも、俺のためにも、っていうのは」
「あなたがいじめられないために。自分が負い目を感じないために、とかじゃない?」
まくし立てるようにイチジクが俺の後に続けて、そう言った。
……不良の心配とかすんなよ……。そんな心配は結局こっちに心配をかけるだけなのに。
「全部、想像でしかないけど。次、会ったときに確かめてみるといいわ。もし、そういう意味合いだったら、あんたが勘違いして答えた言葉が神崎さんを傷つける内容になるかもしれない」
少し思いだしてみる。
相当にひどいことは言ってないけど、なるほど。確かに男らしい回答にはなってないかもしれない。
「あ……。でも、次会えるかどうか……」
手紙で伝えるって言ってたけど、直接は渡してこれないだろうし。もちろん住所なんて教えていない。
「きっと大丈夫よ。守れない約束をするような子じゃないから」
そのイチジクの自信満々な態度が俺に少し疑問を残していった。
クラスも違う。普段から話しているわけでもない。
俺の知る限り、神崎とイチジクの関係性はほとんどないはずだ。
なのに、なぜイチジクは神崎を知ったように話しているのだろうか。