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不良少年と扶養少女  作者: 常闇末
第一章 扶養少女は守られる
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第一話 Fool Chase

この度は、この作品を開いていただきありがとうございます!

駄文でございますが、少しでも楽しんでいただけると幸いです!


我儘ながらも、レビューまで書いていただけるとうれしい限りです!


前置きが長くなりましたが、ぜひお楽しみください!

誰が言い出した言葉なのか、世の中には二種類の人間しかいないらしい。


男、女。


大人、子供。


そして、真面目と不良。


かくいう俺は不良なわけだが、別に喧嘩好きだということではない。


葉っぱを咥えていなければ、学ランも着ていない。

そう、言うならば、もっと平凡な不良である。

だから不良としての俺というのは好き勝手に生きて、他人の言うことなんのその。

ただそれだけの存在である。


それでも、真面目曰く別の生き物、らしい。

今も俺と、不良仲間の坂本陽は好き勝手やっているわけだが、そのきっかけは今朝にあった。


「疲れたから授業サボらね?」


後で追われて、更に疲れるのは分かりきった上でのこの行動。

なるほど、別の生き物というのは的を射た表現なのかもしれない。

俺たちは授業の途中でありながらも、春の陽気に負けて机に突っ伏したまま動かない数人の生徒を横目に教室から抜け出したのである。


これが壮絶な脱出劇につながるなんてこと……よくわかってたりして。


とりあえず、俺らは第一の潜伏先として二階男子トイレを選んだ。

少々衛生的ではないにしろ、潜伏場所としてはあながち外していないだろうと思ったからだ。

第二があるかどうかは……未定だ。


「なあ、野宮。次の授業どうする?」


便器の前で二人話し合う。


「ああ?ふけるしかないだろ、坂本。もう一限目ふけたんだから」

「そんなことは聞いてない」

「じゃあ、どんなことだよ?俺の今日のパンツの色なんて聞かれても答えないぜ?」


軽くジョークを交えて話す。

ただ、坂本の発言の意図が掴めず、返事ができないというのも事実だ。


「そんなことも聞いてない。一限目忘れたのかよ」


もう用を足し終わったのか、便器から一歩離れて聞いてきた。

ジャジャジャー

センサーによって自動で水が流れた音が響く。


「サボった授業の内容なんて覚えてるわけないだろ?」


ここで、突然ながらも坂本の紹介をしよう。


坂本は、一言で言えば馬鹿。


二言でいえば、馬鹿で、阿呆。


三言で言えば、馬鹿で、阿呆で、童貞。


その偏差値はアラサー。アホウドリやカラス以外の動物が奴を見ても、阿呆と言わざるを得ないだろう。


そんなやつだ。


だから俺はバカじゃねぇの、と坂本を見る。


たまたま、今回の事例では、坂本の馬鹿っぷりにはピンと来ないだろうが、そのうち分かる。

知れば知るほど馬鹿だと分かる。


「なんか失礼なことを考えていないか?……まあ、あれだよ。二山の授業だよ」


こんな、妙に鋭いところがあるから馬鹿は扱いに困る。

それはさておき、二山とは数学兼生活指導の先生だ。あり得ないほどに筋肉がついてる。

真面目と不良が別の生き物なら、二山はむしろ猛獣に位置するだろう。

そして頭が固い。

物理的にもそうなんだろうが、中身もまた固い。

脳筋というやつだ。


「たしかにそれはまずい……。やつのことだ。きっと今頃俺らを探して走り回って……」



「坂本陽ーっ!野宮浩ーっ!出てこいっ!」


どこからか暑苦しい声が聞こえる。

いくら指導だからといっても授業中だ。もう少し加減はできないのだろうか。授業中を睡眠時間としている奴らも飛び起きてしまうだろう。

それとも、そこまで考えての大声なんだろうか。

その可能性を否定する。脳筋ができることではないか。


「ちょっ!来たよ!野宮!さっさと済ませろ!逃げるぞ!」

「おうよ!」


用を足し、チャックを閉める。水の流れる音もまた、二山の声にかきけされた。


「どこだ!出てこい!」


声はだんだんと近づいてきて、脳がぐわんぐわんと揺れるような感覚に襲われる。


「いっせーのーで出るぞ。……いっせー……」



「「の!」」



芳香剤の香るトイレを飛び出すと、同時に、


「おっ……!見つけたぞ」


声が聞こえてきた。暑苦しい大声が低い唸り声に変わっている。まるで地獄の底から響いてくるかのようだ。捕まったら冗談抜きで地獄の底に引き込まれるだろう。

それだけはごめんだ。


「しつこいぞ!脳筋野郎!」


坂本が二山を挑発する。


「バカ!挑発してどうする!」


一体脳筋はどっちかなんて考えてる暇もない。坂本には言うほど筋肉はついていないが。


「……坂本……野宮……!地獄を見たいようだな……!」


案の定、二山は先ほどの二倍くらいのスピードで追ってきた。


「げっ!すげえスピードで追ってきた!」

「おまえのせいだよぉぉぉ!」


当の坂本は素知らぬ顔をして逃げている。


「このバカ!せめてもの贖罪に逃げ道考えろ!」

「それについては安心しろ!前から逃げ道としてマークしてある場所がある!ついてこい!」


自信に満ちた顔で先を行く。

この顔と台詞には覚えがある。

確か……、


「そう言って前回俺を行き止まりに案内したのは誰だったか覚えてるか?」


そうだ。前回もそう言われて付いていったところ、二人仲良く地獄行きだった。

あの時の罰、うどんを鼻から入れて口から出すの刑を俺は二度と忘れることはないだろう。


「……過去は振り返らない。俺たちが見るべきは来る未来だけだ」


坂本が表面上だけカッコいいセリフを言っている。

振り返らないのは失敗が多すぎて首が回らないだけだろう。


……そうは言っても当てがないことは事実だ。俺はとりあえず坂本の案内を信じてみることにした。



人間には脳がある。


だからもちろん学習能力もあって、意識している間は同じ轍を踏むことはないだろう。

この考えこそが俺が学習していないことの現れだった。


「…………で、お前の言った場所とはここか……?」

「ああ!名案だろ?」


そう、坂本は学習をしない。

そこには二つのロッカーと、そびえ立つ壁があった。


「行き止まりじゃねぇか!前から何一つ成長してねぇ!」

「よくみろ。きちんと隠れられる行き止まりだ」

「行き止まりから離れろ!」

「?こうか?」


行き止まりから物理的に離れる坂本。

人間はIQが20違うと会話が成立しないらしい。

きっとこいつは恐ろしいバカなんだろうと、俺は思った。

なんとか離したとはいえ、二山はそのうち追い付いてくるだろう。隠れたとしても見つかったら逃げられないし……。



「坂本ーっ!野宮ーっ!そんなに走るなら大人しく、次の体育の授業に出ろ!」



二山の声が聞こえる。幸いまだ角の向こうだが、今すぐに姿が見えてもおかしくはない。


「ほれほれ!迷ってる時間はないぜ!」


自慢気にこちらを見てくる坂本。正直殴ってやりたいが、こいつの言う通り、殴っている時間も迷っている時間もない。

ロッカーを再度じっ、と見つめる。


「……仕方ねぇ、入るぞ!」

「よしきた!」


この自信はどこからわいてくるのやら。

坂本が待ってましたとばかりにロッカーに入る。俺も二度と坂本に頼らないことを誓いつつ、ロッカーの中へと足を運んだ。

ロッカーの中は埃の匂いでいっぱいだ。

このロッカーが俺らの棺桶にならないことを願う。


「奴ら、どっちに行きやがった……」


二山の野太い声だけがロッカーの中まで響いてくる。

暗闇で外は見えないがおそらく曲がり角の道で迷っているのだろう。


前、ホラーゲームで似たような状況があったけど、まさか自分で体験することになるとは思わなかった。


ドキドキドキドキ


心臓が高鳴る。

一応、言っておくと二山に恋したわけではない。


「とりあえず行き止まりの方から調べるか」


まあ、そうなるよな。こっちの方が速く調べられるんだし。

坂本は自信満々だったからきっと今頃、慌てて十字を切っていることだろう。


……なんとか打開策はないのだろうか……。


このまま捕まるのもおもしろくないのでとりあえず考えてみる。

相手の注意を別に反らせれば……、例えば誰かが都合よく二山を挑発したり……。

ふと目の前の扉の内側に貼ってある紙が目に入る。

表には“清掃用具を片付けよう”と書いてあるが、裏にはなにも書いていない。丁寧に剥がせばテープもまだ使えるだろう。


…………そうか、これを使えば……!


紙をはがし、たまたま持っていたペンで数文字書くと隣のロッカーに居るであろう坂本に声をかける。


「出るぞ!」


その直後にロッカーを飛び出す。

隣のロッカーからも音。

坂本も咄嗟に飛び出てきてくれたようだ。


「……貴様ら!覚悟しろ……くっ!?」


いきなり俺たちが出てきたことに怯んだ二山の頭に制服のブレザーを被せ、視界を奪う。

第一段階は成功だ。


「坂本!二手に別れるぞ!」

「ああ!」


第二段階も成功だ。

坂本は俺の意図を二手に別れると二山も追いかけにくい、というものだと勘違いしてくれた。


「じゃあ、幸運を祈る!」


坂本の背中を叩く。どさくさに紛れ、さっきの紙も背中に貼っておく。


「くそっ!お前ら!……坂本……。いい度胸だな!」


二山が坂本の方を追う。

なんで俺ぇ!という坂本の悲痛な叫びが二山の怒号と相まって聞こえる。

坂本は今頃、背中に“脳筋”という文字の書かれた紙が貼ってあるとも知らずに一生懸命、逃げていることだろう。紙もあまりしっかり貼っていないから走っている途中にはがれて、自動で隠滅される。


計画通り……!!


まあ、だいたいの元凶は坂本にあるので同情はしない。


「……はぁ……はぁ……」


校内を走り回ったせいか息切れが激しく、汗だくだ。

不良でも、気持ちいい風に当たりたい、くらいは考える。いや、むしろ自由気ままだから不良なのだろうか。

とりあえず、俺は風当たりのいい屋上を第二の潜伏先に選んだ。




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