ふらふら
ふらふらふらふら、いつも行かない街を散歩する。
あんまり行かない街、あんまり行かないお店、あんまり行かない公園ー。
人の多い所は苦手だったから、敬遠していたけど。
誰も私に気づかなければ平気な事が判明した。
皆の視線が怖かった。
皆の声が怖かった。
皆の溜息が怖かった。
私以外の全てが苦手だったけれど、「私」だと気づかれなければこんなに気楽なものだったなんて。
もっと早く気付けばよかった。
ただ、ちょっと困ったことも多くて。
ふらふら散歩するだけならそんなに困らないが、お店に入りたい時にはとても不便だった。
誰かが入った後でないと、ドアが開いたその瞬間に滑り込まないと、お店に入ることさえままならない。
壁抜けとか出来るもんだと思っていたのに。
ついでに言うなら空も飛べると思っていた。
が、現実はそんなに甘くなかった。
幽霊ってヤツになっても現実は厳しいなんて、なんて酷いんだろうとか思っても気楽なもんだからそれもあんまり気にならなくなる。
コツさえ掴んでしまえばこっちのものだ。
生きてる人は、開いた瞬間に私が入ると突風を感じるみたいで、不思議そうな顔をするけど、それぐらいだから大目に見て頂きたい。
こっちは驚かす気はさらさらないのだ。
ただ、たまーに過敏な方がいるようで、近くにいると変な顔をする人もいるのは事実だ。
けれどこの自由を手放す気にはなれない。
生きてる時はあんなに息苦しかったのに、今はこんなに気持ちが晴れ晴れしている。
帰るあてもないから昼夜構わずふらふら。
疲れたら適当に入った所で休む。
この前はうっかりショールームで寝てしまって、かなり怖かった。夜の灯りのない所にいるマネキンは幽霊よりも余程強力だと思う。
生きてる時に、もう少しだけ勇気があればこんな自由を手に入れていたのだろうか。
青空を、見上げて思う。
川辺を散歩していると、奇妙な人に会った。
元気かと聞かれた。もちろん答えはイエスだが、その後不自由はしていないかと聞かれた。
不意を突かれてびっくりしていると、何か困った事があればまた此処で会おうと言われた。
あれはなんだったのか。
よく考えたら、見えない幽霊としゃべるなんてあの人も幽霊だったのだろうか。
でも足はちゃんとあったし、着物着てたし。
あ、足は私もあるから、そこは関係ないかも知れないが、多分生きてる人なんだろうけれど、変わった人だ。
世の中捨てたもんではないな、と思いながら、今日も私はふらふらする。