一瞬あればいい
■例文は一つ
■8
雨音が次第に大きくなっていた。嵐になるかもしれない。痛んだ柱だらけの洋館で雨宿りはしたくなかった。
家主は新しい血痕を残して消えたまま。生死不明で本体が見当たらないのが嫌らしい。
トムは客間をグルグル回っていた。客間から出るなと私が指示したから退屈してるらしい。
「トム、スマホは使える?」
「ゲームやってたら電池切れたけど」
このバカたれ。電池切れなのはアンタの頭だ。
「どうやって連絡とるつもり? ここで泊まるハメになったらとか考えてないの? 外は晴れに見える?」
「あ、そうだ。エミーのスマホ貸してくれない? ゲームの続きやるから」
「コンビニで充電器を買えばいいでしょ」
「雨降ってるじゃん。エミーが行ってよ」
もう駄目だ。話がかみ合わないからトムはお荷物。ゴミのような何かと考えて乗り切るしかない。
「ちょっと電話するから、そこで大人しくして」
「はっはー。エミーは怖くて動けないのか。なるほどなあ」
舌打ちして無視した。これ以上文句を垂れたら消してやる。
私はポケットからスマホ取り出し、911を入力した。
「すみません、警察ですか?」
******
傘は洋館の物を借りる。俺は持ってきてない。エミーは机で代用するから、傘は俺が借りる。
玄関ホールは明かりがついていた。蜘蛛の巣がかかったシャンデリアは役目は果たしている。床はどこもかしこも軋んでいた。
そもそも、エミーは行動が遅いし大袈裟だ。家主がどっか行ったぐらいでヤバイヤバイってバカらしい。案の定、俺がこっそり客室から抜け出しても気づかなかった。警察とのお喋りに忙しいのだろう。
――――キィ。
俺は傘を手に取ろうとして固まった。
金属が捻れるような、擦れる音。
――――キィ。
まただ。
物の影が動いた。
シャンデリアが、揺れている。
さっきまで動いていなかった。
――――ギィィィ。
何の動力もなくシャンデリアが回る。
天井を繋ぐ金具がねじ切れていくのがわかった。
咄嗟に体を伏せる。
明かりが消え、シャンデリアが落下したのはその直後だった。
■
●トムの移動シーンを省略
視点:エミー → トム
舞台:客間 → 玄関ホール
「******」
という記号を挟んで場面を省略しています
「38話 トム」「17:38」など、タイトルにしてもOK
舞台描写も省略を作り出しています
客間と玄関ホールを区別しないと、トムの移動は表現できません
同じように、一人称が「私 → 俺」になっています
『俺がこっそり客間から抜け出しても気づかなかった。』
これはトムが玄関ホールに来る前に客間にいた説明
場面の前後関係の描写として入れました
『傘は洋館の物を借りる』
これは「場面省略の直前、または直後に場面と関係性の薄い物を挟んで意識を逸らせる」というギミック
客間のエミー → 玄関ホールのトム
とせずに
客間のエミー → 玄関ホールの傘 → 玄関ホールのトム
という感じで場面省略の直後に、エミーとトムから意識を傘に逸らします
文章だとわかりにくいですが、映像でやると本当に時空が飛びます
試しにアニメ、ドラマで、注意して見てください
かなりの頻度でやってるはずです
■まとめ
時空+人称を超える為には、大きく分けると二つあります
・タイトル(あるいはその派生)を挟む
・直前の場面との関係性が薄い物を挟む
後者はタイトル型に舞台装置を合体技
自然に物語に溶け込ませたりできます
明確に省略したい場合はタイトル型が便利
・何か挟めば省略可能
これに尽きます