舞台の印象とまとめ
■舞台中心に話を進めます
◆6.1
「トム。多分だけど、そこに立つのはお勧めできないわ」
エミーは茶髪を弄りながら顔をしかめた。
ガラスに夕方の雨が打ちつけられ、窓のレールに流れていく。
「なら座るぜ」
トムが腰を下ろすと洋館の床が軋んだ。あまり使われない客間にしても、せめて椅子に座って欲しいとエミーは思った。
「寝転んでもいいけど、あんまり動かないで」
「俺に文句を言えるとしたら、ここの家主だけだろ」
エミーはトムの背後にある窓へ近づいた。
「でも私たちを招いた家主は、途中でどこかに消えた。だからトムに文句を言える人はこの館にはいない。
ところでトムの座ってる周りだけ、埃が無くて清潔ね」
「カーペットなんてダニだらけだろ」
鈍いヤツだとエミーは肩を落とした。こんなアホとは二人きりなんてツいてない。
古い蝶番が鳴き、エミーは力任せに窓を開けた。突風と共に雨粒が客間に吹き込んでいく。
「――やっぱりあった」
「いきなり何だよ! 濡れるだろ!」
トムが喚き声が風でかき消された。
窓のレールの上で、赤褐色の痕跡が雨で滲んでいく。
「トム、ちょっとヤバイかもしれない」
■
●舞台は雨が振る洋館
雨雲や木の色って割と暗いので、舞台の暗い雰囲気を作るのに役立ちます
晴天とか、白い大理石の床とかなると、雰囲気が変わります
さらに室内だからこそ、埃や部屋に吹き込む雨なんかが表現できます
これに小道具を使って「家主さんがヤバイなあ」という状態を作りました
◆6.2
布のテントに積もった砂が滑り落ちた。
星明かりでは目の前の物すらよく見えない。
「デシノン、煮干しが無くなったじゃないか」
「お前の腹の中にあるだろう?」
ジムはテントの中で身を丸めながら鰯の煮干しを噛んでいた。携帯食は残っている。
「噛めば噛むほど味わい深くなるね。味わい深くなる」
ワザとらしく呟いて、ジムは熱帯夜で蒸せた腰を掻いた。腰に帯びた剣が揺れて音をたてている。
テントが鰯臭くなったな、とデシノンは思った。
「食べるときは喋るな。舌を噛み切って果てろ」
ジムは咀嚼音をさせながらデシノンに提案した。
「そうだ。帰ったらピクルスをスライスしてくれないか?」
「肉しか斬らん」
「君、ピクルスをスライスしたことないんだね? 若いなあ」
むぅ、と低い唸り声。
魔剣デシノンは鞘の中で呆れるしかなかった。
■
●夜の砂漠で野宿
ジムを一人にして、喋る動機を与えてみました
熱さを使って腰の剣を強調する理由も作ってます
ちょっとしたトリックの為にテント内を暗くしてます
気休めですが、視覚を騙すトリックのフラグとして使いました
■舞台、小道具の注意点
小道具、舞台の書き忘れがあります
シナリオでは、最初のト書きで全てのキャラ、小道具の状態を書きます
最初のト書きに書かず、カメラ内に出し入れしなければ、シナリオの途中で小道具が湧いてきます
キャラなら、ゲームでモンスターが湧いてくる感じになります
ただ、小説の場合はシナリオほど神経質ではないです
「想像にお任せします」
の一言で、舞台、小道具、さらにキャラの後出しもある程度セーフになります
あんまり遅いと、イメージができた後に全然違うことが書かれて読者が戸惑います
ただし、戸惑いの大きさを変えることはできます
◆6.21
布のテントに積もった砂が滑り落ちた。
星明かりでは目の前の物すらよく見えない。
「デシノン、煮干しが無くなったじゃないか」
「御主の腹の中にあるだろう?」
ジムはテントの中で身を丸めながら鰯の煮干しを噛んでいた。携帯食はまだ残っている。
「噛めば噛むほど味わい深くなるね。味わい深くなる」
ワザとらしく呟いて、ジムは熱帯夜で蒸せた腰を掻いた。
テントが鰯臭くなったな、とデシノンは思う。
「食べるときは喋るな。舌を噛み切って果てろ」
ジムは咀嚼音をさせながらデシノンに提案した。
「そうだ。帰ったらピクルスをスライスしてくれないか?」
「肉しか斬らん」
「君、ピクルスをスライスしたことないんだね? 若いなあ」
むぅ、と低い唸り声。
魔剣デシノンは鞘の中で呆れるしかなかった。
■
●6.2から
『腰に帯びた剣が揺れて音を立てている。』
の一文を抜き取りました
騙し方が全然違います
・6.2
ジムの剣―ジムの剣
人間?
・6.21
人間?―ジムの剣
6.2は本体見せています
ジムは剣を持ってます
6.21は最後で突然、剣が出てきます
6.2に比べると戸惑いは大きいです
本体見せても騙し続ける際どさはなくなります
■舞台、小道具、キャラで出来ること
・舞台、小道具、キャラはそれぞれ表現し合う
キャラが小道具を使えば、小道具を表現できますし、舞台のイメージをかき立てます
舞台や小道具を使えば、キャラの心情や人間関係も表現できます
・舞台や小道具を書くタイミングには気をつけてください