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ぶかつどうけんがくっ!

作者: 三笠言成

ノリと勢いで書きました。

軽い気持ちで読んでください!

今回は本気で重い話ではないです、軽いです内容がないよー

「あんたさ、やっぱり部活入ったら? 」

 幼稚園から中学校までずっと同じ学校に通い、さらに小学校一年生から八年間同じクラスだという、いわば幼馴染の沖野嶺花が今更なことを提案してきた。

「確かに帰宅部だから時間が有り余ってるけどさ、部活入れって言ってももう二年の夏だぞ。運動部なんてちょうど新チームになったころじゃないか。今更入れないよ。」

「それでも、あんたほどの才能人を帰宅部というクラブ活動で埋もれさすわけにはいかないわ。」

「いや、帰宅部のクラブ活動ってなんだよ、ただ家に帰るだけじゃないか。いわば全校生徒が入っているクラブ活動じゃないか。」

 才能人。

 おきのは俺をそう例えた。自分でいうのもあれだが、確かにぴったりな言葉だと思う。


 俺は才能に満ち溢れている。


「だからその才能を生かすために部活に入れって言ってるのよ。」

「あのな、おきの。」

 幼馴染だから名前で呼び合うなどという妄想は現実世界にはほとんどない。

「俺が部活に入ったらどうなるか、小学校の時に体験してるんだよ。もうあんな気持ちは味わいたくない。だから入らない。」


 そう、小学生の時。

 俺ははじめ、近所の野球チームに入っていた。当然当時から才能あふれる人間だった俺は、それはそれは大活躍だった。

 四番ピッチャーで、比喩じゃなく全打席ホームラン。完全試合どころか二十七奪三振がほとんど。

 最初は「将来はプロ野球選手だな」などともてはやされていたので、俺は楽しかった。

 しかし一年ほどやったところで気付いたのである。

 俺以外の人間は、なにも楽しくないことに。

 少年野球のコーチは指導のし甲斐がなく、相手チームは言わずもがな、さらに味方のチームメイトやその保護者も、自分が活躍しなくても絶対に勝てる野球に飽き、次第に笑みが消えて行った。

 こうして、俺は部内で孤立した。


 次にサッカー部に入り、ミニバスをやり、バレーを経て、同じことを四度繰り返し、俺は運動をやめた。

 片手間に始めたピアノとバイオリンと絵画も、すぐに上達し、やめた。

 自分はこんなに努力をしているのにお前はどうしてほとんど何もせずに軽く追い抜いて行くんだ。

 何度もこのセリフを吐かれて、ついに小学校を卒業した俺に部活をやる気などまったくもってなかった。


「……」

 当然おきのもこの話を知っているはずだ。

 しかし彼女の言い分もわかる、俺という素晴らしい才能人がこのまま死んでいくことに耐えられないのだろう。

 ……俺は目立つことが耐えられない。

「回想は終わったの? 」

「ああ、終わった。」

「自分の過去の回想後は交通事故に気を付けて。あと、自分を狙う組織に心当たりがあるのならきっとこのタイミングで襲ってくるから用心するように。」

「お前は何の話をしている。フラグか。俺はついさっき死亡フラグを立てたというのか。」

「で、話を元に戻すけど京介。この中学校、私立なだけあっておびただしい数のクラブがあるって知ってた? 」

 俺はおきののことを苗字で呼ぶが、彼女は俺のことを名前で呼ぶ。

 悲しい幼馴染だ、まったく。

「おびただしい数って……なんだよそのラノベでよくありそうな設定。」

「ざっと調べたところ、同好会含め百はあるらしいわよ。」

 百、だと。

 部室そんなにあるのかよ。

「これだけあれば、あんたがその才能をいかんなく発揮しても問題ない部活くらいあるでしょうよ。そういうわけで京介。」

 一呼吸間を作るおきの。どう考えても次のセリフは「見に行くわよ」だから溜める必要もないのだけど。


「部活を作るわよ!」

「これは予想外のセリフ。」

 文脈に沿って話せ。国語の成績悪いだろおまえ。

「嘘よ。」

「それはよかった。ちょうど今人数集めから始めないといけない必要性について必死に模索していたところだ。」

「さ、京介。部活動見学に行きましょう!」


 こうして、響京介と沖野嶺花の部活動見学が始まった。



「最初はやっぱり、王道の運動部から行く? 」

「運動部はパス。絶対勧誘されるだけされて一週間くらいしてから出て行けオーラを出されるのが目に見えてる。」

「さっきもちょっと思ったんだけど、あんたちょっとうぬぼれすぎてない? 確かに小学校のころは唯一無二の天才プレイヤーだったかもしれないけど、今はそうでもないかもしれないわよ。私だって小学校のころは国語のテスト百点連発だったのに…だったのに…」

 語尾が弱まるおきの。やっぱり国語の成績はあまり芳しくないらしい。

「でも、それは言えてるかもしれないな。総合的に見て俺に勝てる奴はそうそういないと思ってるけど、野球のみ、サッカーのみだけならおれにかなうやつもいるかもしれない。」

「よし、決まりね。じゃあまずは因縁の種目、野球をしに行きましょう。」

「いや、それは全然いいんだけどさ。お前はどうすんの。」

はっとした顔で俺を見るおきの。

「……プ、プレイヤー」

 うちの軟式野球部、確か女子禁制である。

「そうよ、マネージャーよ!」

 マネージャー制度なかったんじゃないかな。

「だ、男装し……」

 入部には親のはんことかいるっつーの。

「顧問に奉仕し……」

 せめて健全なものであってくれよ。

「……陰から見守るヒロインになるわ。」

「それならいい。」


 野球グラウンドについた。

 顧問に見学したいと一声かけるのは済んでいる。

「セカンドー! 」

「よっしゃー、ナイスキャッチ―」

「今のくらい取れや! 」

「琴原のモノマネ」「似てるー」「俺そんな構えか?」


 野球部っぽい騒がしくも楽しそうな掛け声が辺りに飛び回っている。

「いま、楽しそうって思ったでしょ。」

「まあな、見てる分には楽しいしな。」

 それを聞いて立ち上がり、キャプテンと思われる人にしゃべりかけに行くおきの。

 すぐに戻ってきた。手にはグローブ。

「お前野球できたのか。」

「何言ってんのよ、ほら。あんたが使うの。」

「……なるほどね。サンキュ。」

 見学時の服装は学校指定のジャージだったのでそのままグローブを受け取りグラウンドに乱入しに行く俺。

「おーい、ええと、ひびき!」

 キャプテンに声をかけられる。

「はい。」

「ボール行くぞー。」

 ボールが来た。ショートバウンドだった。こいつ、見学者になんつーボールほりやがる。それでも普通に取った。

「おお。ナイスキャッチ!」

 どうやらカンは鈍っていないようだった。投げ返す。

「いい球放るなあ。」

 胸元に伸びるボールが行き、キャプテンは驚いた顔をする。

 何十球かボールのやり取りが行われ、肩が温まってきたところでマウンドから投げてみるか、と提案された。

「マウンド、ですか。」

「ああそうだ、なかなかいいボール来てるから、もし志望ポジションがないのなら、入部したらピッチャーになると思う。だから一度どうかな、と思って。」


「…………いいですよ。ただし受けるのはスタメンの一番うまいキャッチャーにしてください。本気で投げます。」



「な、なあ。勘違いかもしれないんだけど、さっきからキャッチャーミット動いてなくないか? 」

 観衆の声が聞こえる。

「いや、俺もそう思う。球速も、百三十は絶対出てるよな。」

「狙ったところに正確に投げられて、球速も百三十キロが普通に出るピッチャー…」

 その声を聴きながら俺はボールを投げていた。

 コントロールの精密性を多少失ってしまうが、本気で投げれば百四十キロは余裕だと思う。

「ひ、ひびき。変化球はあるか? 」

 六球ほど投げたところでキャッチャーにそういわれた。

 変化球はあるか、と言われても。握り方知らないしなあ…

「ちょっと待ってください!」

 俺は少し時間をもらい、端っこで見てたおきのに声をかける。

「なあ、変化球の握り方教えてくれよ。」

「なんであんたは私がそれを知ってると思ったのよ!部員に聞きなさいよ……ええとね、カーブがこう握って腕をひねる。スライダーはこうして…………」

 普通に教えてもらった。びっくりしました。

「お待たせしました。行きます、カーブ。」

「行きます、スライダー。」「シンカー」「シュート」「パーム」「ナックル」「フォーク」「ナイフ」………


 十球ほどの変化球を見せびらかし、クールダウンを終え俺はマウンドを降りた。


「ありがとうございました。今日は楽しかったです。」

「……ひびき、君は、間違いなく天才だ。きっと君がこの部に入ったら全国大会だって夢じゃないだろう。どうだ、入部してくれないか。」

「すいませんキャプテン。俺が入ると、ゲームバランスが崩れるんで。」


 そう言い放ち俺は野球部に背を向けた。もう二度とマウンドに登ることはないだろうな、と思いながら。


「残念ねえ、やっぱりあんたは天才のままだったようで。」

「ま、久々に楽しかったよ。」

「なにあんた終了しようとしてるの? まだ部活動見学はこれからよ。」

 ええ。まだあんの。

「次は文化部に行きましょう。」


 次の日の放課後、俺はおきのとともに文化部を調べていた。なにぶん数が多いため、目につく部活を選ぶだけで一苦労なのである。

「あ、ここは? ワンゲル部。」

 お前それ文化部だと思ってるのか。

「麻雀部は? 」

 役は天和しか知らないしなあ。

「この…あそ部ってのは? 」

 頭悪そうな部活だなあ…

「あ、ここは? じょそう部」

「何それいきてえ!」

 女装部…だって?

「活動目的は、と。なになに? 栄えある高校生活を送るための素晴らしい助走をつけるのが目的らしいよ。」

 女装じゃなくて助走かよ!

「活動内容は……夏場の草むしり、冬場の雪かき……」

「除草と除霜じゃねえか!そこに決めた!」


 じょそう部の部室についた。

「すいませーん、失礼します。活動見学をしたいのですが。」

「……」

 返事がない、聞こえないのだろうか。

 中から話し声が聞こえる。

「こっちのほうがよくない?」「それちょっとフリフリしすぎだよ。」「そこがいいんでしょ。」

 何の話をしている。

「すいません。」

 俺は返事も聞かず扉を開けた。


「やっぱり女装部だったのかよ!!!!!!!」


 俺の絶叫がむなしく響いた。


「はい、じゃあ今から草をむしりに行きまーす。」

「えい、えい、おー。」

 除草しに出かけるらしい。俺もおきのもついていく。

 当然俺は学校指定のジャージを着ている。女装はしていない。

「この辺りをむしるので、みんな張り切っていこう。」

 場所は校舎裏。

 校舎の裏に女装男子が三人と、ジャージを着た男女が一人ずつ。

 見つかったら停学処分を食らいそうな状況である。

 大丈夫だよな?

「暑いなあ。」

 女装男子A、ゆうさんが言う。

 手には高級そうなハンカチ、ただし女性用があり、それで汗を拭いている。

「暑いですねえ」

 適当に相槌を打つ俺。才能人であることを自負している俺だが、この部活では俺の良さは発揮できないのではないだろうかと切実に思い始めてきた矢先。


「あ、人が来た。」

 おきのが来客に気付き、口に出す。

「本当だ。」

 さ、危惧していた状況が来たわけだが、この人たちはどうするのかな。

「……」

「……」

「……」

「なんもしねえのかよ。」

「なんもしない、というのはどういうことだねひびきくん。僕たちは女装することを恥ずかしがってなどいない、これは僕たちの誇りなのだ。胸を張っていえる趣味なのだ。隠すことはないだろう。」

 ううん、かっこよくない。

 しかしあの人、こんな時間に校舎裏に何の用事があってきたのだろう。

 風貌は、マスクをして帽子をかぶってサングラスをした男子生徒。

「うわ、なにあの人。今からコンビニでも襲いに行くのか。」

「こら、京介。人を見た目で判断したらだめだよ。この人たちだって女装しているのにこんなに熱い人たちじゃない。」

 暑いのは気温だ。何さっきのセリフに感化されているんだ。

 なおもそのコンビニ強盗は俺たちに近づいてきている。

 黙々と草むしりを続ける俺たち。

 強盗は俺たちの横を通り過ぎ……

「ああ!」

 通り過ぎた瞬間、ゆうさんが汗を拭いた高そうなハンカチを強奪した。

「くそ!捕られた!」

 ゆうさんが慌てて追いかけるが……

「スカートだから走れてねえ!」

 つうか、普通に強盗、足速い。

「まずい、校舎の角を曲がられたらもう追いかける手段がない!」

 状況を実況する女装男子(名前は知らない)に感謝しつつ、俺はあたりを見渡した。

 もう走って追いつける状況ではない。

「京介。」

 おきのが俺を呼ぶ。

「これでどう。」

 彼女が差し出してきたのは石。

 野球ボールくらいの大きさの石ころだった。

「投げて当てろと!? 」

 なかなか荒っぽいなあ。

 まあ、造作もないことだけど……

「やばい、もう曲がり角に差し掛かった!」

「実況をありがとう!!」

 俺は石を全力で放る。


 コンビニ強盗は校舎の曲がり角を曲がった。


 残念。


 石ころはスライダーし、もう見えない場所から悲鳴が聞こえてきた。

 命中。


「ね、京介。体験入部も悪くないでしょ? 」

 うれしそうに言い寄ってくるおきの。

「そうだな。野球部に行ったから、スライダーを習得できたわけだしな。」

「ありがとう!ありがとう!」

 ゆうさんにすごい感謝された。

「麦茶どう? 」「あ、のどかわいてないんでいいっす。」




「でもさ。」

 帰り道。おきのと二人きり。

「あのクラブは。」


 ないよね。


二人はシンクロし、今日の部活動見学は終了した。


 俺の部活は、まだ決まらない。

ありがとうございました。

ひびきくんって実際ただの中二病なんですよね

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