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召喚の間に入ったエヴァンジェリスタは、重臣たちに召喚の証人となるように命じ、また決して自分の邪魔をしないように言い置いてから、彼らの入室を許可した。
今回の儀式は、エヴァンジェリスタがただ一人で執り行うのだ。
かつて父王ウィートは十名の魔道士を使い八重を召喚し、五十名の魔道士を使ってもとの世界に送り戻した。
本来召喚には強大な魔力が必要なのだ。
だがエヴァンジェリスタは、複数人必要な召喚をただ一人で執り行えるだけの魔力を持っていた。
むしろ魔道士が加わることで術の質が落ちてしまう危険性があるほどの魔力を。
天窓から差し込む光が部屋中を柔らかく包み込む中、エヴァンジェリスタが魔法陣の中央に立ち詠唱を始めた。
それを見守る重臣たち。
若い者ほど皇帝の言を受け入れ難く思ってはいたが、召喚の邪魔をすることは許されていないためただ見守るだけだ。
エヴァンジェリスタは休むことなく、何分も、十数分も、そして数十分ものあいだ、ただ一人の女性を見つけ出すために複雑な詠唱を唱え続けた。
そして必死で呪文を唱え続けていると、不意に彼の手に小さな金の糸が触れた。
「ああ…私の印だ。見つけた……やっと見つけたよ。ようやく会えるね、ヤエ」
幼い頃、彼女だけに使っていた言葉遣いが自然と出てくる。
エヴァンジェリスタは手に触れた糸を指に絡めると、そっと自分の方に手繰り寄せた。
別れ際、八重に刻んだ印は魔力を封じられていた頃に刻んだもののため、かなり脆い。
無理やり引き寄せれば途中で糸が切れ、どことも知れない世界に彼女が流される危険性もある。
少しでも早く会いたいと逸る気持ちを抑えながら、慎重にゆっくりと引き寄せるしかない。
『あと少し、もう少しだ…』
慎重に、慎重に、手繰り寄せ……
手の届く場所に人の気配を感じたエヴァンジェリスタは、夢中で両腕を伸ばし目にはまだ見えない身体を抱き寄せ、こちら側に引き込んだ。
!
途端、室内に広がる目を焼かんばかりの黄金の輝き。
それは召喚が成功したことを示す輝きだった。
ここにきてようやくエヴァンジェリスタは、自分が八重の腰に両腕を絡めていることを確認したのだが、その手を離すことなくとても甘い香りのする彼女の身体を胸の中に抱き込むと、
「ようこそ、我が花嫁。ずっと貴女を待っていました」
驚きのあまり硬直している八重の耳元にそう囁いた。