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貴女に永遠の愛を 《 改訂版 》  作者: aki
序章   勇者 《 ヤエ・トゥノ 》
1/20

 史上最悪の魔王と呼ばれた独裁者フリオ・アラーニャの城は今まさに落城の時を迎えようとしていた。


 七百年に渡って世界を恐怖の色で染め上げてきた魔王ではあったが、その最後は実にあっけないものだった。


 魔王を倒せるだけの巨大な魔力を持つ者として異世界から召喚された勇者が、苦難(?)の旅の果てに魔王の住まう城に特攻を仕掛けた二時間後、これまでの旅の苦労は何だったのですか? と叫びたくなるほどあっさりと、魔王は勇者の攻撃魔法を正面から浴びてポックリ逝っちゃったのである。



「やった…やったわ! ついに悪の元凶をやっつけたのよーーーーー!!!」


 死屍累々たるありさまの城の最奥にある玉座の間から、男のものではない甲高い勝ち鬨の声があがる。


 その声はあっという間に城内どころか、世界中に思念波となって伝わっていった。


 長きにわたり魔王に搾取されてきた近隣諸国はもとより、必死で抵抗を続けてきた国々の人々は思念波を受け取ると歓喜の声を上げ、反対に魔王の膝下で甘い汁を吸い続けてきた者たちは恐怖の声を上げ、命惜しさに魔王を倒した勇者軍に次々と白旗をあげたのである。


「ああ、苦節四年目にしてようやく念願成就。これで後腐れなく(うち)に帰れる~。くっそー、私が勇者なんかにされたのはすべてあんたのせいよ。魔王のバカヤロウ。こちとら死ぬ覚悟でここまでやってきたっていうのに、めちゃくちゃ弱い男だったじゃない。拍子抜けもいいとこよ。このっ! このっ!!こんのーーぅっ!!!手間かけさせやがってぇっ!!!!」


 玉座の間で魔王を打ち取った勇者は、足元で息絶えて横たわるフリオの股間を可愛らしい足で無情にも踏みつける。


 それを間近で見ていた勇者の側近であるモレノ以下六名は、顔をゆがめて『死んでるとはいえ、ひでぇ』と声を合わせて呟き、重傷を負いながらもギリギリ意識を保っていた魔王側の側近三名は、蒼白な顔で震えあがった。


 勇者とはいえ、うら若き乙女が聞くに堪えない言葉を使いながら、(まおう)の股間を力いっぱい踏み踏みするのはいかがなものでしょう? と突っ込みを入れたいが、般若の顔で魔王(の股間)を踏みつける勇者にそれを告げる勇気は誰にもなかった。






* * *


 魔王を倒したのち、勇者召喚を行い彼女を呼び寄せたファーノ王国に帰還した勇者―――遠野八重(とおのやえ)は、かねてからの約束通り故郷である地球への送還を国王ウィートに要請した。


 彼女を召喚した時からいずれはあるべき場所へ送り返すつもりだったウィートに異論はなく、すみやかに送還のための魔道士たちが集められたのだが、今や英雄となった彼女が地球へ帰ることに異議を唱える者がただ一人だけ存在した。


「いやだ。ヤエ、いやだよ。行かないでっ!」


「…エヴァ……」


 八重は必死で自分にしがみついてくる少年を見下ろしながら、困ったようにその名を口にする。


 少年の名はエヴァンジェリスタ・グイド・ファーノ。先月、十歳の誕生日を迎えたばかりのファーノ王国の世継の王子だ。


 二人が出会ったのは四年前。八重が十六歳、エヴァが六歳の時だった。


 当時の八重は、異世界に突然召喚され、勇者として魔王を倒してほしいとウィートに打診されて悩みに悩んでいる時期だった。


 八重を召喚する許可を出したウィートや、実際に召喚を行った魔道士たちは、いやならば協力する必要はない、と八重の権利を保障してくれたため、彼女はとりあえず半年ほど考える時間が欲しいと返答し、城内で保護されながら世界のことを学んでいたのだ。


 勇者になることを拒絶すればすぐにでも地球に送り返す。

 もし勇者となるのであれば、魔王を倒した後(八重のやる気を削がないため本人には伝えられていなかったが、実際には八重に命の危険が迫った段階で)地球に送り返すと言われていた。


 十六歳の女子高生らしく流行りのラノベを何冊かは読み、フィクションとはいえ異世界トリップモノの大まかな流れは理解していた八重は、本当に元の世界へ戻してもらえるのかどうかを訝しんではいたもの、ウィートをはじめとするファーノ王国の人々の善良さを信じることにしたのだ。



 そんな中で出会ったのがエヴァこと、エヴァンジェリスタ王子だった。


 国王ウィートの第7子、しかも唯一の正妃の子であると同時に唯一の男児として生まれたエヴァンジェリスタは生まれたときから強大な魔力を備えていたという。

 それこそ、魔王フリオ・アラーニャに匹敵するのでは? というほどの魔力を。


 しかし魔王に匹敵するかもしれない力を持って生まれたとはいえ、赤ん坊に魔王を倒すことなどできない。


 それどころか、善悪の区別もつかない赤ん坊が無意識下で魔力を放出することは、周囲にいる大人たちの命を奪いかねない危険をはらんでいた。


 結果としてエヴァンジェリスタは、生後数日で魔力を封じられることになってしまったのだ。彼の封印が解かれるのは成人を迎える十六歳の誕生日。


 ウィートをはじめとする各国国王は、いづれ魔王を倒せるかもしれないエヴァンジェリスタを守り、英雄として立てる男に育てるために協力し合うことを確認し合った。

 もちろん、エヴァの存在を隠すことも含めて。


 だが、ことはそう旨くはいかなかった。


 生後わずか一年目で、エヴァンジェリスタの存在が魔王に知られてしまったのである。


 以後、魔王は執拗にエヴァンジェリスタの命を狙うようになり、彼を守ろうとする多くの騎士が命を散らしていった。


 魔力を封じられたにもかかわらず、物心ついた頃から神童と呼ばれるほどに天才ぶりを発揮していた彼は、己のために多くの命が散っていることを誰に聞かされるまでもなく悟り、そのことに心を痛めて再三に渡って封印を解くよう父王に願い出ていたが、その願いだけは決して認められなかった。


 そして、そんな状況下で八重が召喚されたのだ。


 自分たちの争いに全く関係のない異世界から勇者を召喚し、魔王を倒してもらう―――そんな勝手な大人たちの考えに怒りを覚えたものの、エヴァンジェリスタが召喚の儀が行われたという事実を知ったのは、八重が召喚されてから十二日後だった。


 成人した暁には、自分が倒しに行くはずの魔王を倒す役目を異世界の人間が負わされる。


 勇者召喚を知ったエヴァンジェリスタは、愕然とするしかなかった。


 ただひとつ救いだったのは、召喚された勇者が魔王を倒すことを拒否すれば異世界に送還されことになっていたことだ。


 エヴァンジェリスタはこの世界のことなど気にせずあるべき世界に帰るよう勇者に伝えようと、その存在を知った日のうちに勇者のもとを訪れることにした。


 だが勇者にあてがわれた部屋を訪ねたものの、目的の人物は召喚された翌日から先王の王弟が趣味で作った飼育園に入り浸っていると聞かされ、エヴァンジェリスタは飼育園のある南宮へと足を向け、そこで出会ってしまったのだ。


 彼の愛と命を捧げるに値する乙女に。




序章は、2011.8.2から8.7までムーン様に投稿。

2014.2.1 なろう様に再投稿。

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