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僕のメイドは従わない・2 ~二人でお買い物

作者: 阿津沼一成

「ねえマリエ、あとどのくらい廻るつもりだい?」


キリヤは自分の前を歩く彼の使用人である少女に声をかけた


マリエと呼ばれたメイド服の少女は

「申し訳ありませんキリヤ様。あと2、3軒で終わりますので御容赦を」

と振り向きもせず答える


確か3軒ほど前の店に入る時もそう言っていた気がするが・・・

キリヤは思わず溜息を漏らす


「なんですかキリヤ様、お疲れになったんですか?」

立ち止まったマリエはやっと振り向いてそう尋ねてきた


「疲れたわけじゃないけどさ。一体あと何軒廻るのかと思ってね」

うず高く積み上げられた両手に抱えた荷物から顔を出したキリヤはそう言って苦笑した


女性の買い物に付き合うのは男にとって忍耐力が必要な作業の最たるものである

よくもまあ後から後から衝動的に欲しい物が生まれるものだ

その飽くなき物欲は女性という生き物の持つ(ごう)なのかもしれない


そんなことを考えた後、棚上げしていた疑問を再び思考のテーブルへと載せる


確か彼女は僕のメイドだったと思うんだが・・・


何故、僕が彼女の買い物に付き合い、両手いっぱいその荷物を抱えているのか?

そもそも僕は街に散歩に出たはずだ


屋敷を出てしばらくの後、背後に気配を感じて振り返るとメイドのマリエがすぐ後ろを歩いていた


「ど、どうしたんだいマリエ?」

困惑してそう尋ねるとマリエは

「メイドが主人の外出の供をするのは当然の事と思いません?キリヤ様」

と答えた


そうやって二人連れだって歩き、街に着いたところでマリエが

「申し訳ありません、キリヤ様。少し見たい店があるのですが、よろしいでしょうか」

と言ってきた


「うん、別に目的もなく散策するつもりだったからね。構わないよ」

そう答えてから今この時に至るまで、かれこれ10軒以上の店へと入りその各々でマリエはなにがしかの商品を購入していた

そしてその商品のすべてが彼の両手へと載せられる事となる


「はあ・・・」

何度目かの溜息をついたとき彼は何かにぶつかってしまいよろめいた

幸い荷物を取り落とすことはなかったが頭上から降ってきた言葉は彼に不幸をもたらすものであった


「おい、痛えな兄ちゃん、どこ見て歩いてんだ?」

彼が見上げるとガラの悪そうな男の顔があった


「も、申し訳ない。注意して歩いていたつもりだったのだが・・・」

そう謝罪するキリヤに男は口を歪ませ笑い、こう言った


「まあ、しょうがねえ。怪我の治療代で勘弁してやるよ」

なんともまあ、ベタな展開である


そんなあからさまな因縁にもキリヤは正直な反応を返す

「それは済まないことを致しました。どちらを怪我されました?」


彼の素直な反応を、吹っかけた因縁に対する嫌味と取った男は目を吊り上げ怒鳴る

「いいから有り金置いてとっとと行きな!ついでにその荷物もな!でないとテメエが怪我する事に・・・なんだオメエは?」

凄む男が急に困惑の声を上げる


いつの間にか近づいてきていたメイドのマリエが彼らの間へと割って入ってきた

「我が主人が大変失礼を致しました。どうか穏便に済ませては頂けないでしょうか?」


そう言って頭を下げる姿に男は鼻じらむがその娘の端正な美貌に気付くと唇を歪め笑う


「そうだな、そこのヒョロい兄ちゃんの変わりにアンタが相手してくれるんなら考えてやってもいいぜ?」

言いながら男は唇をその舌で舐め、下卑た笑いを濃くする


「それは性的な意味で・・・でしょうか?でしたら御容赦を。私はまだ処女ですし、初めてはキリヤ様に捧げると決めておりますので」

「ちょ!?なに言ってんのマリエ!?」


慌てた声を上げるキリヤに男が激昂して叫んだ

「いいからテメエは有り金と荷物、それとこの娘を置いてとっととどっか行きな!」


要求が増えている


マリエは溜息をつくとキリヤを振り返った

「キリヤ様、いーかげんウザくなってきましたわ。もう面倒ですからチャチャっと片付けて下さいません?この方程度の相手だったらキリヤ様なら楽勝でしょーに」


「な、んだと・・・このアマぁ!」

逆上した男がマリエの華奢な身体へと平手を振り下ろす


「!?やめろ!・・・・・マリエ!」

キリヤの制止の声も空しく、男の身体は宙を反転し地面へと叩き付けられていた


「ぐ・・・が・・・・・・あ?」

男は何が起きたかすぐには理解できなかった


すべては一瞬の出来事

振り下ろした手は娘が取り出したハンカチをそえた細い手の平に掴まれ、足を払われた

勢いのままに地面に叩きつけられ片腕を捻られたまま身動きがとれない

どこにこんな力があるのか跳ね返そうにもびくともしない


「薄汚いお手で私に触れようとなさらないで下さいませ。私のこの無垢な身体に触れて良いのはキリヤ様ただお一人だけですのよ・・・きゃ」

マリエは無表情のままそう言って僅かに頬を赤らめる


「テメエ!放せ!放しやがれ」

男は地面を掻いてもがく


「あらあ?反抗的ですねえ?・・・・折っちゃおーかなあ」

捻る腕に力がこもる


「な!?や、やめ・・・」


ごぎん


嫌な音が路地に響いた


「うっそでーす、肩の関節外しただけー。てへぺろ」

そう言ってほぼ無表情のまま舌を出すマリエにキリヤは再び溜息を漏らす


「ではキリヤ様、買い物を再開致しますよ。次はキリヤ様お待ちかね、ランジェリーショップですの。お見立てよろしくお願いしますね」

言いながらマリエは気絶して地面に転がったままの男の身体を軽く蹴った

男の身体は地面を滑り道端のゴミ箱の傍らで止まる


「ちょ!?マリエ?待ちかねてないよ僕。ちょ・・・マリエってば!?」

キリヤは両手に抱えた荷物を持ち直すと慌てて彼のメイドの後を追った


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