第9話 討伐隊
1週間、戦術を上げるためのトレーニングをみっちり受けた。
その結果、教官を倒せるあと一歩のところまで追い詰めることが出来た。…結局は負けるのだが、教官はそんなに簡単に倒せるものではない。育てた教官本人でさえも、その成長には驚いていた。
8月中旬、この世界でも暑さというものは忠実に再現されており、嫌になるくらいの熱気が俺を襲っていた。
「…暑い。」
木陰に座り込み、町から持ってきた水を飲みながら俺が呟く。俊はいかにも涼しそうな顔をしてそこに立っていた。
「このくらい暑くも何ともないよ。早くクエストを攻略しないと、野宿になってもいいの?」
今日はクエストでフィールドへ出ていた。この付近で夜に冒険者が魔物の集団に襲われ、既に死人も出ているという。だが昼間は見かけずどこかに巣があるのではないかということで、組まれた討伐隊の中から俺たちが巣探しを買って出た。
「別にただ巣を探すだけだしさ…、見つからなかったでもいいんじゃないのか?」
今回のクエストは巣を探すだけではない、討伐が目的なのだ。巣を見つければ特別報酬が出るというが、わざわざ危険を冒してまで探す必要はなかった。
「まぁ、見つからなかったらそれでいいけどねー。」
俊は相変わらず涼しい顔をして言った。
…結局巣を見つけることは出来なかった。
翌日の夜、討伐隊として15人ほどのチームで出発した。
コミンから東に7キロほどのところに次の町「ナシュ」がある。コミンよりも一回り大きく、この地方では最大の都市である。俺たちのパーティもそこへ向かうつもりだった。
危険が多い討伐隊には参加しない方針だったが、今回はナシュとコミンの間で討伐が行われる。そのためこの討伐隊に参加したほうが安全なのではないかと踏んだ。
「このあたりだ。」
討伐隊のリーダーが叫んだ。辺りは静かで、モンスターが出てくる気配はあまりない。
「…気づいてないかもしれないけど、囲まれてるよ。モンスターに。」
俊が俺に耳打ちしてきた。曰く、8匹ほどのモンスターに囲まれているらしい。確かに俊以外は気づいていなさそうだった。
「伝えたほうがいいんじゃないか?」
そう俺が言ったのだが、どうやら様子がおかしいらしい。1キロほど手前で囲まれたが、それからは一定の距離を保ったままらしい。
「あともう一つ、ナシュから冒険者、1人がこっちに向かって歩いてきている。もう少しで囲んでいるモンスターの1匹と会うと思うよ。」
俊は自らの魔法で周辺、自分から半径3キロ以内の敵や冒険者の位置をほぼ把握できるようになっていた。珍しい能力だと教官にも言われていた。本人曰く、その光景が見えるようで、一種の超能力みたいなものだと言っていた。
「…スミス?その手の能力じゃないかな。女性だ。レベルは僕たちよりも…少し下くらいだと思う。」
次々と情報を述べていく俊。だが、彼の表情は一瞬にして凍りついた。
それは、俊の言葉を聞いた俺も同じだった。
「…DCCプレイヤーだ…」
俺と俊は討伐隊を一時離れ俺たちを囲んでいるモンスターの1匹、ちょうどこちらへ向かっているDCCプレイヤーが遭遇するモンスターのところへと走った。この1匹だけでも倒せばDCCプレイヤーの安全は保たれるのだ。
「智彦、作戦とかは?」
走りながらいつものように、と俺は答えた。俺は前線で、俊は後ろから俺の補助と攻撃魔法を飛ばす。俺たちパーティの基本的戦法だった。
走り出してすぐ、智彦が見えたと言う。指差す方向に向くと炎が燃え上がっている。俺にもはっきり見えた。残念ながら既に戦闘が始まっていた。距離にしてあと700mほど。
『た……て…』
俺の頭にノイズのようなものが走った。声?よく聞き取れなかったが間違いないだろう。
『たす…て…』
近づくにつれ、その声ははっきりと鮮明になってくる。
助けを求めている。危険な状況なのは間違いなかった。
「俊、俺は先に行くぞ!」
そう伝え、俺は魔法でスピードを強化させ、先を急いだ。
このとき、俺は聞きたかった声が聞こえた。
…どうしてこんな状況でこの声が聞こえたかはわからない。だけど、俺はもっと急がなければならないことを悟らせた。
『…助けてっ!』
「…ッ!!」
―――その声は透き通った声で。聞き間違えるはずのない声。
俺に助けを求めているのだ。もっとも信頼している自らの彼氏に。
俺は一気に覚醒した。身体から湧き出るこの魔力を、限界までスピードを出すために使った。
無事で居てくれ。その一心で俺は叫んだ。
「…っ、秋穂おおおおおお!!!」