第3話 名前
初めての村(名前は「ソシュート」という)に来てから、既に2週間が過ぎた。
街中で済ませられるクエストを中心に金を貯め、装備を整えつつ、フィールドでモンスターを狩りレベルを上げていく。
ゲームでやるとただコントローラーを動かすだけでいつでもセーブ、やめることが可能なことでも、自分の身体でやろうと思うとやはり大変である。
VRMMOでは疲労感はあっても、痛覚があるなどということはほとんどない。
だがこのゲームは現実でもある。痛覚があるだけでやる気を削いでいくのだ。
この『ゲーム』において、俺は剣技を中心に鍛えることにした。
幸い、ステータス化されていて、現実世界の身体能力がそのまま反映されることはない。
それだと、現実世界で高い身体能力を持つものが必然的に強者になってしまう。
努力したものが報われない世界でないことは間違いなかった。
剣士タイプに鍛えられている俺は、習得できる魔法も攻撃を基本とした魔法が中心だった。
それも、剣に魔法を乗せ放つため剣技との組み合わせも出来る。
便利ではあるが、ただでさえ低いMPを無駄には出来ない。
「そろそろパーティを組まないといけないんだけどなぁ…」
俺はまだソロだった。パーティを組まず単身でレベル上げをしていた。
町を出て移動するとなると、単身じゃ少し無理がある。
…だからといって組める人が居ないことも知っていた。
ソシュートの村は冒険者が長時間滞在するような村ではない。
ただ人が住んでいる、くらいの特に変哲のない小さな村なのだ。
「やっぱり単身突破しかないのか…、レベル的にも厳しいけど…」
俺のレベルは20程度。単身で突破できるほどではなかった。
ふと、目をやったタブ、オプション画面の奥のほうに「Death・Cross・Crystal」の表示を見つけた。
「Death・Cross・Crystal…、ゲームマスターが言ってたプレイヤーの命だよな。」
開いてみると、プレイヤーの名前が刻まれていた。選ばれてしまった100人の名前だろう。
そのうち、3人の名前には斜線が入っていた。死んだ人間はこうやって消されるってわけか…。
「Death・Cross・Crystal」の所持数も書かれているが、誰もが1個しか持っていない。つまり死んだ3人はモンスターとの戦闘、または一般冒険者との戦闘で死んだということだろう。
前者はフィールドに出ていれば必然的に死亡する可能性は高くなる。
後者は有り得ないかとも思ったが、100人のプレイヤーとそれ以外の冒険者を見分けるためには、タブを覗かなければならない。
タブに「DCCプレイヤー」という表記があるのがそれだ。DCCというのは「Death・Cross・Crystal」を略したのだろう。
また、DCCプレイヤーの居場所などは基本表示されない。接近した場合には何かしらのアクションが起こるのかもしれないが、現時点では不明である。
となると、好戦的なDCCプレイヤーが初期ステータスに近い状態で出会った冒険者を襲い、返り討ちにあったと考えるのが妥当だろう。
役所でこの世界での法律のようなものを確認したのだが、人間を殺すことはやはり禁止されている。だが、明らかな敵意を持って襲ってきた場合、これを武器を使用して応戦することは認められている。正当防衛ならばOKというものだろう。
…こう言われると、願いを叶えるクリア条件は犯罪を繰り返さなければならないという条件付きなのだ。そう考えると、厳しいものがある。
そしてDCCプレイヤーの死亡でドロップされるアイテム「Death・Cross・Crystal」はモンスターが所持したり、冒険者が所持できるのだ。これで100個すべてを集めることは格段に難易度が上がる。
ゲームマスターもどこに居るか見当も付かない。やはりこのゲームは一筋縄では行かないようだ。
「えっ…?」
DCCプレイヤー一人一人の名前を見ていたときだった。
俺は信じられない名前を見つけてしまった。
―――それはそこにあるはずのない名前だった。
「そんな…こんなことが…」
自分の目が信じられなかった。何かのバグかとも思った。
一度タブを再起動させても、結果は同じだった。
心臓が高鳴る。
目頭が熱くなる。
胸が痛い。
目頭にあふれんばかりの涙をためながら、俺はその名前を呟いた。
「は…畑中…秋穂…」
そう、それは2年前に死んだはずの。
最愛の彼女の名前だった。
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