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全員の聞き込み

数日の間、宏明は弱すぎる証拠をもっと強力にするために、光一の両親や友人である健などに電話でアポを取り、話を聞く事になった。

みんな、警察より親しみがあるし、しつこくないという理由から快く応じてくれた。

まずは光一の家へと向かう事になっている。

今の時間帯は亜矢だけしかいない事だが、本当は光一の姉弟からも話を聞きたかったのだが、それは仕方ないと思い、光一の家のインターフォンを鳴らした。

すぐに亜矢が対応すると、来客室に通された。

亜矢は紅茶とクッキーを持ってくると、宏明の前へ置き向かいのイスに座った。

「すいません。急に押しかけてしまって…」

コーヒー派の宏明は紅茶に砂糖を多めに入れながら詫びた。

「全然、構いませんよ」

亜矢はニコッと笑顔で答えてくれる。

今回で二度目だが、前に会った時より幾分色っぽい感じの亜矢は、紅茶に砂糖を少し入れてかき混ぜている。

「前にお伺いした時、記者が張り込んでいたんですが、今はいないんですね。何も聞かれずに済みましたよ」

本題に入る前に、光一の家の前にいた記者がいないのに気付いた宏明はさりげなく言ってみた。

大物政治家の息子が亡くなった大事なニュースなだけに、犯人が捕まるまで張り込んでいるこのだと思っていたからだ。

「光一が亡くなってすぐは毎日のように張り込んでいましたよ。でも、その時だけで四、五日前からは全く…。今はニュースでも取り上げませんからね。本当にヒドイ話ですよね」

亜矢はそう答えると、少し淋しそうな表情をした。

亜矢のその表情を見て、光一に対してあまり興味を持っていない、そっけない態度を取っていたのに、本当は光一が亡くなって淋しいんだ、もっと側にいたかったんだ、と宏明は痛感した。

「報道するほうも見るほうも考えて欲しいものです」

淋しさを隠すように亜矢は続けた。

「そうですよね。なんか、思い出させてすいません」

宏明は本題に入る前に自分の興味本位で聞いてしまった事を素直に謝った。

「いいんですよ。それでお話っていうのは…?」

亜矢は淋しさを断ち切るようにカップソーサを持ちながら話題を変えた。

「今日、来たのは、光一さんの事で…。あまり思い出させたくはないんですが、大丈夫ですか?」

宏明は遠慮がちに聞いた。

「いいですよ。二葉さんて本当に気遣いが上手いんですね」

紅茶を一口すすった後に優しく微笑んで言った。

突然の亜矢の言葉に、一瞬、理解が出来なかったが、理解すると宏明は照れてしまった。

「いやいや、そんな…」

両手を大きく横に振る宏明。

「警察の方も二葉さんみたいに気遣いが出来たら…。あ、すいません…話がそれてしまいましたね。光一の何が知りたいんですか? なんでも聞いて下さい」

「はい。光一さんのアルバムを見せて欲しいのですがいいですか?」

「いいですよ。今、持ってきます」

亜矢は立ち上がり来客室を出る。

すぐに戻ってくると、何冊かのアルバムと紙袋を持ってきた。

「光一の幼少の頃のアルバムです。この袋に入っているのが、光一が使い捨てカメラで友人達と撮った写真です」

宏明は全てを亜矢から受け取ると、光一の幼少時からのアルバムを開いた。

幼少時の光一は、今と面影が変わらずクルクルと回る表情が、とても愛らしい。

でも、中学の中盤になってくると、宏明が亡くなる前に会ったような光一が目立ってきている。

「光一さんはいつ頃からこんな感じになってきたのですか?」

「中学二年の夏休み明けです。友人の影響なんでしょうね。それまで真面目だったので夫共に驚きました。それ以来、先生に呼び出される事が多くて…。夫が怒っても聞かなくて、夜遊びをしては警察に補導されてました」

当時の事を思い出しながら語る亜矢の口調からは、いかに光一の行動が大変さが窺える。

「警察に補導されたのは高校まで…?」

「いいえ、中学の時だけです。高校は二回も停学になりましたが、なんとか卒業してしてくれました」

包み隠さず話してくれる亜矢に、宏明は感心してしまう。

それに、中谷教授が言っていた‘真面目な青年’というのも、中学の途中で変わってしまった光一を見ていると頷ける。

目的を持って大学に入ったのだから、外見は変わっても根は何も変わっていないのだという事も写真から窺える。

次に使い捨てカメラで撮られた写真のほうを見ると、中学よりも高校のほうが学生生活を楽しんでいる様子だ。

その中に庸子に見せてもらった庸子と庸子の姉と三人で撮られた写真が一枚あった。

(薬丸さんのお姉さんとも知り合いだったんだな。まぁ、元山さんが薬丸さんの家に遊びに行けば自然と顔を合わせることになるか…)

そんなことを思いながら一通り見ると写真を袋の中に入れた。

「光一さんって政治家の父親を持ってどう思ってたんですかね?」

宏明は亜矢を目を合わせずに聞いた。

「さぁ…怒ってばかりの厳しい父親とでも思ってたんじゃないですかね。さっきも言った通り、事あるごとに光一に怒ってばかりだったもので…。私が知る限り、褒める事はしていなかったのではないかと思います」

亜矢は右手を顎に当てて答える。

「母親のあなたはどうですか?」

「私ですか? 私は怒る事はもちろん褒めていましたよ。子供の頃から育てていたのですから…」

亜矢ははっきりとした口調で答える。

「そうですよね。ありがとうございます」

宏明は礼を言うと、帰り支度をする。

「何か役に立てましたか?」

「えぇ、まぁ、少しは…」

苦笑いしながら遠回しに返事をする。

「何かあればいつでも言って下さいね」

「わかりました」

さっきと同じ淋しそうな表情をした亜矢に、宏明はドキリとしたがそれを隠した。

それから宏明は光一の家から健と有沙と庸子と待ち合わせ場所である健の下宿先に約束の時間から少し遅れた宏明は三人に詫びた。

「二葉さん、久しぶりです」

健は笑顔で言ってくれる。

宏明は上着を脱ぎながら、

「久しぶりです。みなさん、元気ですか?」

「今のところは…。二葉さん、コーヒー飲みます?」

「あ、はい、お願いします」

宏明の返事を聞くと、健はマグカップにコーヒーを淹れて渡した。

「この前、大学の前で会ったのよね。また二葉さんに会えて嬉しいわ」

庸子はキラキラした笑顔になっている。

宏明の胸中は、また始まった…オレを見るといつもこうだ、と思っていた。

もう庸子の対応には慣れてしまった。

「早速なんですが、光一さんが友人にオレは一人っ子だ、なんていっていたのを警部から聞いたのですが、本当なんですか?」

谷崎警部から聞いたことが本当かどうか自分の耳で確かめたかった宏明は、健達に聞いた。

「それ、本当ですよ。元々、光一は自分の家族の事を話したがらないんだけど、兄弟の事だけは‘一人っ子だ’と言ってたんです」

「私もつき合ってた時に一人っ子だって聞いたもんだから、光一の家に遊びに行った特にお姉さんやお兄さんがいたから変だなって思ったんだ」

健の後に庸子も答える。

「その後、元山さんに兄弟がいるじゃないかと聞きましたか?」

宏明は庸子に聞く。

「聞いたわよ。でも、光一は別にいいだろなんて言ってまともに対応してくれなかったのよ」

庸子は口を尖らせる。

「それはいつ頃の話ですか?」

「一回生の夏休みよ」

「そうですか。浦井さんはどうですか?」

「私は直接聞いたわけじゃないけど、庸子に聞いてて知ってました」

有沙は静かな口調で答える。

「光一はなんで一人っ子だって言ったんだろう?」

庸子はずっと気になっていたようだ。

「そう言った理由が何かあったのかな?」

有沙も庸子同様、光一の発言の意図がわからないでいる。

「なんででしょうね。元山さんのご両親が話してくれるのが一番なんですけどね」

そのことに関して何もわかっていない宏明も首を傾げる。

「さっき本山さんの家に言ったのですが…」

宏明は光一の家に行った事を健達の伝える。

「写真を見せてもらったら薬丸さんと付き合ってる頃の写真がありましたよ」

過去の事を言ったら悪いなと思いながら、光一の事を口にした宏明。

「ヤダー! 光一のお母さん、あの写真まだ持ってるのー!? 捨てておいてって別れる前に言っておいたのにー!」

庸子は外まで響くような大声で過去の過ちのように言った。

「いいじゃねーか。光一の親からしたら残してくれた大切な息子の写真なんだから…。庸子からしたら思い出しくない過去かもしれないけどさ」

健は庸子をなだめるように言う。

「そうよ。光一と付き合ってた事実は変えられないんだよ」

有沙は尤もなことを言う。

「そうだけど…。二葉さんには見られたくなかったな。だって恥ずかしいんだもん」

庸子は頬を膨らませる。

宏明は驚きながら三人の会話を聞いている。

三人の会話が事件の真相に少し近付いたからだ。

「過去の話をしてすいません。もともとは元山さんと好きで付き合ってたわけだし、別に恥ずかしがらなくてもいいと思いますよ」

宏明は心の動揺を隠しながら庸子に伝えた。

「そうよね。二葉さんにそう言われるとそうなんだって思っちゃう」

フフフ…と笑いながら言う庸子。

「庸子ってば単純なんだから…」

呆れ顔の有沙。

「いいのよ」

庸子がそう言った後に、宏明の携帯がバイブした。

携帯を見ると、谷崎警部からで後で連絡が欲しいとメールがあった。

宏明は昨夜、電話での件だと直感した。

「わかりました。ありがとうございます。また犯人がわかれば連絡します」

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