9月 峯村若菜
キーンコンカーンコーン
まだ太陽は高い。
そして暑い。
でもこの桜華学園は冷房設備を備えた素晴らしい学園である。
今日から2学期が始まる。
そして今日、私は失恋することになる。
私、峯村若葉は昨年よりずっと早乙女隼人様に恋い焦がれていた乙女であります。
しかし、本日9月1日より、かねてから交際が噂されていた叶財閥のお嬢様みへき様がこの学園に転入されるとのことです。
つまり事実上婚約でもしたお二人が同じ学園に・・・
目に毒過ぎる。
つらすぎる。
5月に亮子様がいらっしゃったときは、隼人様とのツーショットは無かったため苦しくなかったのに。
隼人様とみへき様のお二人の姿をこれから毎日目に入れるなんて、体にわるすぎますでございます!!!!!!!
そんなこんなで始まった9月、
桜華学園もいろいろな変化が現れ始めたようだ。
隼人様に続く男子生徒の転入も見られ、もちろん金ランクのお坊ちゃまだけだけど。
そして、私が密かに気になっている銅ランクの1年生。
雨宮紗莉チャンにもお友達ができたようである。
意外なことに紗莉チャンの隣にはいつも茶髪でメイクの濃い、女の子がいるようになった。
紗莉チャンもGALなのかな?
私はと言えば、亮子さんと誓ったこの桜華学園を良い学校にするという目的のために何かしなければーと思いながら、気がついたら夏休みが終わってしまっていた。
全くもってだめだめな女である。
でも茶道部はとても雰囲気が良い。
7月で金ランクの先輩たちが部活を引退し、気の合う銀ランクの同級生だけで部活ライフをエンジョイできるようになったのだ。
今まで、金ランクのお嬢様たちの下働き要因だった私たちも、呪縛からやっとこ解き放たれて着物を着たり、お茶を点てたり茶道部らしい活動を1年3ヶ月経って初めて行えたという瞬間であった。
クラスメートの銀ランクの子の話を聞くと、少なからずそういう差別的なものが部活から無くなってきたという見解で一致しているらしい。
たぶん3年生が抜けたから自然にそう感じるようになっただけかもしれないけど・・・。
もちろんこれで終わりの訳でも無いと思う。
銅ランクのみんなともっと関わりたいという気持ちを持つようになってきたのだ。
銅の子たちにとって放課後は掃除や奉仕活動という名の下に、部活動もできないなんていう話を最近になって初めて知った。
お姉様たちの時代からそういうもんだと言われてきているから、創立以来?そういう伝統だったのかもしれない。
紗莉チャンをはじめたくさんの1年生や銅ランクの子と触れあいたいと思うのは亮子さんの影響かなと思う今日この頃である。
これが私の小さな変化である。
もちろん一番の変化はみへき様のことなんだけど。
そして始業式が行われた。
転入生が紹介され、男子生徒3名と女子生徒28名という異例の転入生の数が発表された。
女子の目的はもちろん隼人様ということになるだろう。
その中に、みへき様ももちろんいたわけだが何か様子が違っていたと感じたのは長年の隼人様の追っかけをしていた私だけが感じたものかもしれない。
叶みへき様 16歳にしてアメリカの大学を飛び級で卒業する抜群の知能の持ち主。
隼人様のいとこにして、ココロからの思い人(これは隼人ファンでは有名な話)
このたび10年ぶりに日本に帰国することになり隼人様と同じ桜華学園に転入学することとなる。
みへき様のお顔を拝見した者はこれまでも数えるほどしかいない。
防犯のためとも、実際に誘拐されたためだとも言われている。
こんな非の打ち所がない、なさすぎるプロフィールの持ち主がなぜ今、この桜華学園に?
しかも隼人様まで一緒に。
名門お嬢様学校だからと表向きには思われているのかもしれないけれど、私には全く納得できなかった。
それに壇上に上がったみへき様からは今まで見てきた隼人様のお相手である亮子様とも静琉様とも違ってオーラを感じなかった。
亮子様のお嬢様の雰囲気は一目見て多くの者が魅了される者だったし、実際私も彼女と過ごして本当にそれを実感したわけだし。
静琉様は独特の愛くるしい雰囲気を持っていらっしゃったし・・・。
何かおかしい。
でも何がおかしいのか分からない。
それが9月1日の私がみへき様に感じた印象だった。
それからの毎日は予想どおり?いや予想以上に隼人様とみへき様のツーショットを拝むことになる。
アメリカ帰りで日本の生活に慣れないみへき様を献身的にサポートする隼人様。
そのお姿はまさに王子様。
みへき様と隼人様は金のランクでも特別ランクに位置づけられるらしく、他の生徒と一緒に勉強はしないという話だった。
理事長室の近くの貴賓室とも呼ばれる豪華な接待部屋でほとんどマンツーマンで授業を受けているらしい。
お二人のために国内外からトップレベルの教員が集められ、世界最高峰のランチも振る舞われているなんていう話さえある。
どんだけお金があるんだーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
こんな話を毎日アップロードで最新情報で聞いていたところ、だんたん私にとって隼人様は恋愛対象では無くなっていってしまった。
もともと恋愛対象なんておこがましく、憧れとしての対象ではあったけど仲睦まじいお二人を毎日毎日見るうちに自分の気持ちなんて届くはずがないということを強く強く感じるようになってしまった。
隼人様の追っかけをして一秒でもお顔を拝見できたって喜んでいた頃の方が幸せだったのかもしれない。
そんな風に思うようになってきた。
私の失恋をよそに、みへき様も体調を崩されたのか公の場に出ることはほとんどなくなってきた。
貴賓室で授業はされているそうだが、やはり本物のお嬢様にはこの学園は合わないのかもしれない。
亮子様も体調を崩され、1ヶ月で学校をお辞めになっている。
桜華学園にいるお嬢様は親の金と権力とそしてプライドだけでできている。
そんな中にみへき様のような正真正銘のお嬢様は合うはずがない。
ふと私は亮子様との最後の言葉を思い出した。
「この学校を良くしてほしい」
私はみへき様を助けたい。お力になりたいと思うようになっていった。