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7月 木南知景

一年に何度も衝撃的なことが起こる年なんて、一生のうちに一度あるかないかだろう。


3月に起きた衝撃、銅ランク落ちからわずか4ヶ月で私は金ランクに戻ることになった。


ただし、ある人の身代わりとして。


私は7月の熱い晴れた日曜日にほとんど会ったことのないただ血縁というだけの理事長に呼び出された。


正確には両親から連絡をもらい銅ランクの金でもほとんど入ることのない理事長室に一人で向かった。


そこには理事長と同い年くらいの女の子がいた。


私は彼女から学園の危機的状況についてと、生徒のための学校作りに協力してほしいと頭を下げられた。


元々友達もいなかったし、茶髪と濃いメイクを落とせば、他人になりすますことは出来るだろう。


しかし、この女は何を好き好んで自ら銅ランクになんかいきたがるのだろう。


金持ちのお嬢様のすることは分からないと思った。


彼女は叶みへき。

叶財閥の一人娘らしい。


しかも困ったことがあったら、早乙女隼人に頼れとまで言った。


隼人様と幼なじみとかどれだけうらやましい立場だろう。


7月に噂通り桜華学園第一号の男子生徒として転入した隼人様は、物腰の柔らかい紳士的な振る舞いであっという間に女子の人気をかっさらった。


来年の生徒会長はほぼきまりだろうということだった。

桜華学園の生徒会長は金ランクから選出される人気投票だ。

そして生徒会長に選ばれた生徒には輝かしい未来が待っていると誰もが知っている。



私に断る選択肢などなかった。


私はまた金ランクにもどることができたのだ。

他人の身代わりとして。



寮に帰ってきて考えた私の素顔を知る人は学園では誰もいない。


茶髪に濃い化粧が私だったから、背格好も変わらない彼女が知景になるのは簡単なことだろう。



一人だけいた。


同室の一年の雨宮さん。


夜になるとどこかに抜け出しす日々が続いている。


銅ランクの私たちが部活なんて出来ないのに部活に入って活躍しているという噂を聞いた。

うらやましい。



その日の夜

雨宮さんが帰ってきた後、彼女はやってきた。


叶みへき。


「知景さん、昼間は私のわがまま聞いてくれてありがとう。」


人懐こい笑顔だった。

何の苦労もないお嬢様。

そんな笑顔だった。


「誰?誰ですか?」


隣で女の子の悲鳴にも似た声がした。


「驚かせてしまったわね。ごめんなさい。」


彼女は自分の素性をすっかり雨宮さんに話していた。

極秘ではなかったのか…。


すると雨宮さんは泣き出して

「あなたが私をこの学園に誘って下さった理事長様なんですね」


と、全てを理解したようだった。


何も知らないのは私だけそんな感じがした。


話によると大分の田舎の雨宮さんの家に突然東京行きの推薦状が来て差出人が桜華学園の理事長で、しかもそれが叶みへきだったということだった。


私の銅ランク落ちも倒産も全てこの女に仕組まれたのではないかと思った。

狙いは学園?


でも借金まみれの腐った女子校なんて、誰も欲しがらないだろう。


私はみへきにメイクの仕方を教え、みへきからはアメリカの生活について聞いた。


みへきの身代わりとは、叶財閥の跡取り娘を演じるということ。


小中をアメリカで過ごしたためほとんど一般人には顔を知られていないが常に誘拐の危険性があることを告げられた。


学園内の警備はどうにかするから、理事長室で過ごしてほしいと言われた。


理事長室には秘書がいて彼女に任せれば大丈夫ということだった。

お金のある人の安全も危険も私には一生関係ないことだと思っていた。



「あなたは大丈夫なの?」


身代わりがいくら守られても本物が危険に曝されたら大変だ。


私は彼女が友達になってくれたから、と雨宮さんの方を見て微笑んだ。


銅ランクにイジメはない。

みんな無関心なだけだ。



「学園内では隼人があなたの護衛だから」


あの早乙女隼人を護衛につけるなんて全校生徒の視線ややっかみを一手にひきうけるということだ。


9月からの生活全く想像出来ず、ただ私はうなづいているだけだった。


「クラスも特別クラスで隼人と二人だけだから、大丈夫だと思う」


毎日隼人様と二人だけとはどんな状況なのだろう。


「髪の毛戻してもらわなきゃなんだけど、大丈夫?」


私はうなづいていた。



叶みへきになる。

今はそれだけを考えていた。

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