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5月 峯村若菜


私は桜華学園2年峯村若菜。

茶道の家本の家系で三姉妹の末っ子。

姉二人もこの学園の卒業生だ。


ランクで言えば銀。

この学校は親の寄付金によって生徒がランク付けされる不思議な学校。


そのランクによって友達もだいたい固まってきている。

金ランクのお嬢様は手の届きそうにない存在だし、銅ランクの人達は忙しそうで露骨に私たちを避けるし、なんとなく銀の仲間で毎日を過ごしていた。


そんなのほほんとした日々に衝撃が走ったのは先月の事だった。

2年になったばかりの時にこの桜華学園が男女共学になったのだ。


長年お嬢様学校の名門として君臨していたこの学園が男子を受け入れるということは、お嬢様やその親御さんにとって青天の霹靂だった。

多数の反対が予想されたが金ランクのご子息様しか入学させないという条件が、玉の輿を狙うお嬢様たちに好意的に捉えられ大きな混乱もないまま男女共学が実現された。


銀ランクの私にとっては金ランクのお坊ちゃまなんてアイドルを見る一般市民のような距離感だろうと自分にとって損にも得にもならないだろうと思っていた。


放課後は茶道部の時間である。

金ランクの部員が桜華学園のOGの貴婦人たちとお茶会を楽しむ。

銀の私たちはそのおもてなしを任されており、茶器の用意や和菓子の手配をする。


私たちの存在は金ランクのお嬢様たちにとっては透明人間のようで、逆に金ランクのお嬢様たちは私たちにとって手の届かない存在だった。



私が初めて好きになった世田谷の大御曹司早乙女隼人様を巡って。


金ランクのお嬢様たちと友情が芽生えるなんてこの頃には想像もつかなかった。


隼人様は華族の血縁で容姿端麗、スポーツ万能、そして頭脳明晰と非の打ち所がないお坊ちゃま。

お父様は外交官で中学校まで外国で過ごされ、慶星学院の高等部にトップの成績で合格されていていらっしゃる。


なんで私がこんなに詳しいのかというと昨年の夏、私立の学園交流お茶会でお見かけして以来、ずっと私の王子様なのである。



そんな王子様が桜華学園に転入してくるという噂があるのだ。

なんでも桜華学園の創始者と古くからのお付き合いがあり、男女共学になる学園にぜひ転入したいということらしいのだ。


「王子様が来る~、王子様を毎日見れる~」

私だけではなく桜華学園の生徒全員がランクに関係なく浮足だっていた。



しかし、王子様への敵はあちらこちらから現れた。



金ランクのお嬢様達が王子様を追って次々転入してきたのだ。

まず添田亮子様。隼人様と現在同じ学校で勉学に励まれていらっしゃる3年生。

控え目な性格の黒髪美人で、隼人様とお似合いであると専らの噂である。

去年のお茶会でもお二人でいらっしゃるところを拝見している。

隼人様の隣にいるのが最も美しいとご結婚も視野に入れているお付き合いをされているらしい。


そして、湊屋静琉様

隼人様と同い年の2年生。ずば抜けた美貌を持ち、お家は大変な資産家。

隼人様とはテニス仲間というお噂でお休みの度に軽井沢の別荘に家族ぐるみでいらっしゃるらしい。

高校生No.1を決めるミスコンで優勝するほどの美しさでありながら家庭的で料理が得意だという噂。

幼稚園から名門の女子校にいらっしゃった静琉様が桜華学園に転入の意志を示されており、静琉様目当てに多数のお金持ちの男子生徒が桜華学園に入学を希望しているなんて噂もある。


そして、叶財閥のご令嬢叶みへき様。

噂では桜華学園の創始者である桜華子様とご親交があり、隼人様とはいとこの関係にある。

しかし、現在はアメリカに留学されており桜華学園に転入される可能性はほとんどないと考えられる。

中学時代隼人様がみへき様を追ってアメリカに渡ったのは有名な話で、ファンの間では一度本物を拝みたいと思わせるほど憧れられている。

IQ180とも言われる頭脳を持ち次期叶財閥を背負って立つ運命をいとこの隼人様と共にというのがご家族きっての願いであるということらしい。


この辺の情報は隼人様のファンの間では常識であり、隼人様の追っかけをするようになってから集めたものである。


大金持ちのご子息のお相手はやはり大金持ちのお嬢様というところだろう。


隼人様の転入は夏頃と決まったらしい。

隼人様を追って亮子様と静琉様も正式に桜華学園に転入されることが決まったようだ。


男女共学になって1ヶ月で希代の大金持ちを3名も学園の手中に納めたことになるわけだ。


そして5月のゴールデンウイーク明け、初夏の日差しが眩しい頃一人のお嬢様が学園にやってきた。


隼人様を思う亮子様だ。

亮子様は茶道部に入られ、熱心に活動をされた。


金ランクでありながらランクなんかにとらわれないでと銀ランクの私たちの仕事を積極的に手伝って下さった。


常に笑顔を絶やさず美しい凛とした眼差しで茶道に励んでいらっしゃった。

私は隼人様が絡んでなければ、本気でファンになりお近づきになりたいと思わせるようなお人柄だった。


実際亮子様は桜華学園の銀と銅ランクの下々の者にも優しく皆亮子様に惹かれていった。


しかし、金ランクのお嬢様たちは亮子様の態度を醜い、学園にふさわしくないと毛嫌いして仲間に入れないようだった。


私たちは亮子様が好きだった。


亮子様は私たちに優しかった。


しかし、亮子様は金ランクのお嬢様に対抗することもできずお体を壊してしまわれた。


夏に隼人様がいらっしゃる前にやむを得ず、転校されることになったのだ。



「若菜ちゃん。私は必ず戻って来る。この学園を良くして待っていて。」


亮子様は私の目を見てそう言って下さった。

たった一ヶ月、私は本物のお嬢様に会った気がした。


亮子様が学園を去った後はまた金ランクのお嬢様たちは私たちを透明人間のようにあつかった。


私も銅ランクの皆さんに同じようにしているのではないか。


それから私は亮子様のように振る舞いを変えた。


今まで銅ランクの子たちが目に入らなかったが、挨拶や感謝をするようになったのだ。


亮子様をリスペクトしていた銀ランクの何人かは私と同じように銅の子たちに優しく接するようになった。


隼人様が来られる前に学園が良い雰囲気になって良かったと思った。



それからしばらくして私は銅ランクの1年生に亮子様に似た女の子を見つけるようになった。


ひたむきでいつも黙々と仕事を熟している。

寮に住んでいるようで、いつも歌いながら掃除をしている。


名前は雨宮さん。


いつか私も亮子様のようにランクを越えて友情が芽生えるといいな。

いい学園にするからね。

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