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第1話 日常の風景

早朝。

とある高台にある神社の一角。

屈強な体をした男達が四人、一人の少年を取り囲んでいる。

そこから少し離れた位置では、制服を着た可愛らしい少女がタオルを手に立っていた。


「直くーん、頑張ってー!」

そう言ってタオルを振りながら応援する彼女の声を聞いて、

周りの男達の殺気が一層鋭くなる。


「いつもいつも貴様ばっかり応援されおって…」

「幼馴染だからといって毎朝毎朝見せつけられるこっちの身にもなってみろ!」

「今日こそは愛咲あいさちゃんの前で吠え面かかせてくれるわ」

「殺す殺す殺す殺す…」

各々が逆恨みに近い恨み言をもらすのをその中心で聞いていた

直くんと呼ばれた少年、桜庭直人さくらばなおとは、

そろそろ愛咲にここには来ないよう真剣に忠告するべきかもしれないなと

苦笑いしつつ内心ひとりごちた。


その間もジリジリを間合いを詰めていた男達の中、

直人の真後ろにいた男が鋭い出足で直人の足を払うように蹴りを繰り出す。

直人はその動きがまるで後ろに目がついて見えているかのように

上にジャンプしてかわす。

飛んだ所を見逃さないように残りの3人の男が一斉に直人に襲いかかる。

左手で左からの手刀を受け止めると、そこを支点として

鋭く体を回転させ右側にいた男と真正面にいた男を巻き込むように回し蹴りを叩きこむ。

直人に一撃も入れることなく吹っ飛ばされた男二人を横目に、

地面に降り立った直人はすぐさま掴んでいた男の左手を抱え込むようにして

背負投げの要領で男を投げ飛ばす。

その先には最初に足払いを放ち再度直人に攻撃しようとしていた男。

虚を付かれた男は防御姿勢を取ることが出来ないままに

投げ飛ばされた男の下敷きになるような形で地面に強く叩きつけられる。

時間にしてわずか数秒の出来事。

直人は屈強な男達を全く相手にすることなく片付けてしまっていた。


「ふぅ…」

「お疲れさま。直くん」

直人が一息ついた所に愛咲が駆け寄ってはい、どうぞとタオルを渡してくる。

先程、男達の殺気を増す原因となった目の前のにいる可憐な少女。

姫神愛咲ひめがみあいさは桜庭直人と子供の頃から一緒にいる

世間一般の幼馴染みという間柄だ。

名前の通りお姫様のように愛らしい女の子として小さい頃から

いろんな人から可愛がられてきた彼女は、

その慈愛を素直に吸収し性格も優しく周りを思いやれる女の子になっていた。

「ありがと愛咲」

そんな彼女を一番近くで長い時間見続けてきた直人には、

例え今の戦いで汗を全く掻いていなかったとしても、そんな彼女の好意を

無碍に断ることなど出来るわけもなかった。


「ふむ、それにしてもなさけないのう」

「きゃっ!」

突如愛咲の真後ろから聞こえた声と同時に、

直人は愛咲を自分の側に抱き寄せる。

すると今まで愛咲が立っていた場所の真後ろには、

いつからそこにいたのか、一人の老人が立っていた。

「師匠、いつも言ってますが。愛咲にセクハラするのはやめてください」

「する前にお主が邪魔しとるじゃろうが、

 そもそも老い先短い老人の数少ない楽しみを奪うでない」

「おはようございます、四ノ宮師匠」

「うんうん。おはよう愛咲ちゃん。今日も相変わらず可愛いのう」 

「ありがとうございます。四ノ宮師匠も変わらずお元気ですね」

「それも愛咲ちゃんの顔を毎日見てるおかげじゃよ。

 ところでそこのイジメっ子は挨拶もせんのか」

「……おはようございます、師匠」

「ふん。技と体は一人前でも心の方はまだまだじゃな」


この老人、名を四ノ宮仁斎しのみやじんさいといって、

四ノ宮神社の神主であり、また四心無明流剣武術の伝承者でもあった。

「それにしても毎度毎度この有様ではお主の修行にはならんな」

直人に倒され先程から横たわったまま呻いている男達(彼らはこの神社の修行僧である)を見て仁斎はため息をついた。

「師匠がお相手してくれればこちらも修行の相手としては申し分ないのですが」

「今のお主と真剣にやり合うとわしも無傷という訳にはいかんからのぅ…

 さすがにこの老体に毎日ムチ打ってお主の修行相手するのはちとキツイもんがあるな」

「そうですか…」

自分の実力を認めてもらえる事は嬉しい直人であったが、仁斎の言うように

確かにここ最近は自分の修行としては物足りなさを感じていたのは事実だったので、

師匠相手に自分の力を試せないのが残念な事も確かだった。

「ところで、お主ら学校の時間は大丈夫なのか?」

「あ、ほんとだ。直くん。そろそろ出かけないといけないかも」

「分かった。では師匠。俺達はこの辺で失礼します」

「行ってきます、四ノ宮師匠」

「うむ。お主らが勉学に励んでる間に、わしもこやつらを鍛えあげとくよ」

直人と愛咲は挨拶をして、二人並んで神社の階段を降りて学校の道のりを歩いて行く。

その後の神社からは仁斎の怒鳴り声が辺りに大きく響いていた。





直人と愛咲は早朝の神社で修行を行なってから登校するのが長年のお決まりになっている。(愛咲はもっぱら直人の見学のみだが)

いつも他愛ない会話をしながら登校する二人だが、

最近はとある事件の話がメインとなっている。

「今日のニュースでもやってたけど、まだ見つからないんだって行方不明になった人達」

「もう50人以上だっけか…何が起こってるんだろうな、本当に」


人が突然消える、謎の行方不明事件。

それは半年程前から日本各地で起こるようになった。

これまで50人近くの人間が行方不明となっているが、

警察の発表では目撃者もおらず、また各地で同様の事件が起こっているため

犯人の目処も全く分からない状況らしい。

TVニュースなどメディアでは現代の神かくしではないかと騒ぎたてており、

毎日TVでは事件を検証する番組が流れ、世間の人々の話題を大きくさらっていた。


「この街からも2人いなくなっちゃってるんだよね…なんだか怖いな…」

不安そうな声で話す愛咲を見て、直人はその頭を優しく撫でた。

「しばらくは帰りも一緒に帰ろうな。とは言っても生徒会の仕事があるから

 愛咲には待っててもらわないといけないんだけど」

頭に触れられた暖かいぬくもりに気持ちが落ち着いたのか、愛咲は笑顔で答える。

「えへへ。待つのは嫌いじゃないから全然気にしないよ。でも最近また忙しいの?」

「終わらせても次から次に篠宮会長がいろいろ仕事持ってくるんだよ…」

「直くん、会長さんに気に入られてるもんね」

「俺には嫌がらせにしか思えないんだが…師匠の血が影響してるのかもしれないな」

「ふふ。じゃあやっぱり気に入られてるんだよ直くんは」

そんな微妙に噛み合わない会話をしているうちに、気がつけば学校は目の前だった。

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